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緋い薔薇

──薔薇のトゲを心臓に刺し、カナリアは自分の命と引き換えに白い薔薇を真っ赤に染め上げて息絶えました。
『ジージ、カナリアがかわいそう』
ジジィに読んでもらった本の内容にショックを受けて、飼い主の為に紅い薔薇を用意しようとしたカナリアを可哀想だと泣いたんだった。最後がどうなったか覚えてないのはその時一度きりしかその本を読まなかったからだろう。
何で今更こんな昔の事を思い出したのかと思ったら、テーブルの上に血で染めた様な緋い薔薇が一輪挿されたグラスが置かれていたからだ。
昼寝をする前はなかった筈だから寝ている間に誰かが置いたんだろう。
まぁ、誰かがって言っても俺が寝ている時に側に来て俺に気配を感じさせない奴なんかそうはいない。てか、ほぼ決まった奴等だけだ。
あの三人のうちの誰かだろうがビックスローは今回除外だ。あいつに花を愛でる趣味はない。
一番有り得るのはエバだが、エバなら来たついでに起こしていく。以前寝ぼけ眼で目があって、首から下が石像と言う情けない格好にされた。それにどちらかといえば派手好みのエバは花一輪でなく花束を持って来るだろう。
と、したらフリードか?
確かにらしいっちゃらしいが。
しかし、緋い薔薇か。
ーーーカナリアの心臓から血を吸って、真っ赤に咲いた大輪の薔薇。
最後を覚えてないが、飼い主がつまらない女に渡す為の赤薔薇を造って命を捨てたあのカナリアは正直無駄死にだったと今も思う。
ああ、そうか。俺はあいつらにあのカナリアと同じ事をさせたのか。
俺の為に仲間を裏切り、傷付けて後悔の念を背負わせた。
あの飼い主はカナリアの想いを受け取ったのか?
それとも、最後まで自分の事しか考えなかったのか?
まぁ、俺も言えた義理じゃねぇけどな。
薔薇のトゲで自分の心臓を刺して死んでいったカナリア。
俺の為に仲間を傷付けたあいつら。
グラスを引き寄せて薔薇を取り出す。と、チクッとしてトゲが刺さった。
これだけでこんなにも痛いのに、カナリアはあの小さな身体で良くこの痛みに耐えきったものだ。
薔薇を戻してプクリと膨れた血の盛り上がりを舐める。
「鉄臭ぇ・・・」
妙に響く一人言。
その時、スッと音もなくドアが開いて人の入って来る気配。
「ラクサス、起きたのか?」
「俺はいつの間に眠っていたんだ?」
振り向いてギョッとした。
紅いコートの左胸に穴が開いて、流れる赤が紅を余計に緋く染めていた。
「お前、その傷っ!」
「ああ、あんたとマスターが仲直りできる様に緋い薔薇を用意しようとしたんだが生憎白薔薇しか手に入らなくてな。俺の血で染めてみたんだが」
白薔薇を自分の血で染め上げたカナリア。
そして、白薔薇を自分の血で染めたと事も無げに言い放つフリード。
止めてくれ。
俺はカナリアの飼い主みたいに誰かの犠牲なんか要らない。
もう、意地を張らずに必要なら頭を下げる。ジジィと和解もする。
だから、無駄な血を流すな。
大切な奴が血を流すのも、ましてや居なくなるのもまっぴらだ。
「その血を止めろ!死んじまうぞ・・・」
「まだ、仲直りをするには薔薇が足りないだろう?」
いつの間にかフリードが両手一杯に白い薔薇を抱えていた。所々、緋く染まり初めているのはまさか血か?
「ラクサス、みんな待っている。早くフェアリーテイルに戻ってくれ」
儚い笑みを残して姿が消えて行く。
「待てっ!」
伸ばした手が空を掻き、ハッキリして来た視界には宿の天井。
「・・・ギルドで何かあったのか?」

翌日、早朝に宿を発ち歩いている時に何処かで声が聞こえた気がした。
「・・・・ジジィ?」
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