森の奥②
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あのあと洞窟に戻ったとき、イタチが客間から姿を消していたが
「イタチさんはまた奥ですか?」
「はい」
「そうですか」
「もう眠ってますね」
「では私も休むとしましょうか」
初めてでもなかったため気にせず鬼鮫は就寝した。
翌朝
鬼鮫が目覚めた時、コウは居住スペースに一人もいなかった。
こんなことは初めてで鬼鮫は疑問符を浮かべた。
身支度を済ませ、静かすぎる居住スペースを見て回りコウの姿を探したが、見当たらなかった。
ならば、と燭台を持ち、暗い洞穴の出入口へと向かった。
燭台の火だけが照らす暗い道の終わりまで歩けば、暗闇の先から、ようやく探していた声が聞こえた。
まだ距離があり視認できないが、座り込んでいるのか、低い位置からブツブツと独り言を呟いているようだった。
鬼鮫はわざと足音を立てて近付いた。
「痛い。痛い。痛みと悲鳴が溢れてる。幸せなハズなのに痛い。幸せだからこそこんなときどうしたらいいか身の振り方がわからなくて息苦しい。愛の行為すら痛い、いっそのこと戦って死にたかった」
コウは洞穴の出入り口の前に座り込み、探透眼で世を見ていた。
「…どこの里も毎日こんなもんか。
……もう少し範囲を……一方的に見られるのは嫌だ、けど、これ以上はまだ平常心が足りない、引っ張られる」
真後ろに立っても全く気付かれないのもまた初めてで、不意打ちが成功する気がして鬼鮫は鮫肌の柄に触れた。
「ほあっ!あー!ほあようごあいましゅ!」
敵意を向けた瞬間、コウは振り返った。
アホ面下げて笑っているが、暗闇に光る眼は牽制するように鬼鮫の手元を真っ直ぐ捉えていた。
「……おはようございます」
――かなわない。と。
鬼鮫は大人しく鮫肌に触れていた手を下ろし、その場でしゃがんで目線の高さを近づけた。
「アナタ一人ですか。他の分身はどうしました?」
「…………。」
コウはただニコニコしていた。
「?……アナタが私の言葉に返さないのは珍しい。昨日の夜から情緒不安定のようですが、新術が関係しているとか?」
「新術は関係ないです。関係あるのは、得るまでの過程。
ところで何の御用ですか?」
「イタチさんはどちらに?」
「さあ。登ってこないところを見るに、多分まだ眠ってるんだと思います」
「そうですか。
それから…今は何時ですか?」
「午前、八時から半の間です」
「そうですか。少し寝過ぎましたかね
……眼も覚めたことですし、新術の試運転でも付き合いましょうか?」
「…………なら、外へ。結界を解きます」
コウはしおらしく立ち上がると、出入口をふさいでいた結界を解いた。
「本当に珍しいですね。それとも、今までのがやはり演技だったのか…。」
「好きですよ。」
コウはチャクラで滝を割った。
「戦った時から、あなたの感情を見た時から、鮫踊りの姿を見た時から、最初に会ったあの日から」
「信じられませんね」
「……愛おしくて、甘えたくて、甘やかしたくて、可愛くて、美しい。
好きと言うたび、心でそれを壁のように嘘だと否定するところ。だから声に出すけど、寂しいけど、それだから好き。
私が男だったら会う度その姿見た瞬間射精してるわ」
「ゲホッ!ゴホッ!?…なんっ…なんですかその例えは…素直に気持ち悪いです」
「ふふ」
滝をくぐらない鬼鮫を置いてコウは初めて自分が先にそこを通った。
滝壺に舞う水飛沫が明るい太陽に照らされた場所に立ち、振り返った少女は虹を抱えて笑っていた。
「恋をしたことはありますか?」
「……。」
鬼鮫はとっさに言葉を返せなかった。
「……掛け替えのない繋がりが自分にできることを恐れて、だからその火種である好意を拒否して眼を逸らし踏みつけている。
それだから好き」
コウはチャクラ糸で鬼鮫を洞穴から掬うように優しく引っ張り出した。
光と虹の元へと行く。虹は消えたが、洞穴とは違う爽やかな空気と霧のようにきめ細かな水飛沫が気持ちよかった。
「それでいい。私もそうだから、手に入らないと確信したものしか安心して好きでいられない。
愛しい他者と時を重ねる度、それに比例して孤独感が強まることが怖い」
「それが胸の内だとして、ベラベラとよく喋りますね」
すかさず結界を閉じたコウの姿を見下ろした。
何色にも塗られていない手。
自分よりも圧倒的に小さいことは分かっていたが、改めて見下ろせば、その背も、その手も。
認識していたよりずっと小さかった。
「新術の一環ですか?」
「実際にどこか痛いとか血が流れているとか言う訳でもないのに、内臓が破裂するように苦しい、叫び出して暴れ回りたい衝動、身体からはとめどなく血が流れ出ていて、そんな自分が酷く醜くて汚い。
私はそんな気持ちだよ。ずっと。だから殺し合うんだ。殺し合って、戦いの中で成長し、死んで経験を還元する」
「会話してください」
「……今のは直接忍術に関係することではなくて、術の成り立ちだよ。あなたに聞いて欲しかった」