森の奥
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鬼鮫は何事もなかったように装って、意識を前方に戻した。
無様な塊に歩み寄り、一番手前に転がる一人を青白い指先で差した。
「この人だけ、金縛りを解いてください」
「はいはーい」
術を行使しているコウは笑顔で快諾した。
「じゃ3、2、1」
術を解いた瞬間
グシャ、と目の前の男が潰れた。
術を説かれた男が動き出し、何事か発そうとしたのであろうその口を開け切る前に、鮫肌がその頭を叩き潰した。
重厚なものが降り下ろされた音と振動が、鈍い破壊音が、粘着質な水音が、残された滝隠れの忍に届いた。
チャクラで口を塞がれた男達が息を飲み、一人は喉の奥で叫んだ。
どれほど暴れようと指先をピクリとも動かせはしなかった。
通常の金縛りの術とは比べ物にならないほどの拘束力は、まるでチャクラの『糸』ではなく『布』で拘束されているようだと感じた。そしてその感覚は錯覚でも幻術でも何でもなく、事実としてその通りであった。
鬼鮫はそれに全く構うことなく、鮫肌で亡骸を掬うようにして投げ飛ばした。
「さて、これはどういうことでしょうね?
お友達を連れて来てはいけないと、以前ハッキリ伝えておいたはずなんですが」
一人見せしめを出したからか、スムーズだった。
頭に鮫肌を触れさせた状態で、また一人金縛りの術を解けば、今度はとても大人しかった。
『この金縛りの術者は感知タイプでもあり嘘はお見通し、正直に答えるのならば命だけは助ける』と釘を指せば、拷問するまでもなくべらべらと口を割った。
突然ハッタリに使われただけで特に指示はなかったが、コウは念のためチャクラによる心の動きを見ていた。
嘘をついている様子はなく、記憶などを書き換える術が適用されている形跡もない。
つまり当然コウの耳にも、滝隠れの内部情報が届いているのだが、鬼鮫は特に気にしていない様子の為、良いらしい。
それから、
今喋らされているこの一人は、滝隠れにスパイとして送り込んでいた鬼鮫の部下であることが会話の中から伺えた。
だが結局はこうして腕利きの四人一組を率いて、騙し討ちに来たというわけらしかった。
尋問が終われば、鬼鮫はさてとコウに顔を向けた。
その様子に、男は術を説いてもらえるものと思ったのか、期待と安堵の入り混じった表情をして鬼鮫を見上げた。
「部下を殺すのは、有りだと思いますか?」
そして耳に入ってきた言葉の意味をとっさに理解できず、止まった。
「そいつがクソヤローなら有りですね」
「同感です」
一瞥もなく降り降ろされた鮫肌が、無慈悲な音を立てた。
鬼鮫はのんびりと鮫肌を背負い直し、首を鳴らした。
まだ生きて転がる三人の様子を見れば、唇さえ青ざめ、視線を泳がせていた。
この恐ろしい怪人が、ただ何事もなく殺してくれるような優しい忍ではないと。与えられる責め苦を勝手に想像して怯えているようだった。
「アナタに任せます」
「ほ?」
「アナタは一体どんな顔をして人を殺すのか…と思いましてね」
「おっ興味持ってくれたんですか!」
「ええ。
まさかその強さで殺しをしたことがないなどとは、」
鬼鮫が言い終わる前に、男たちは破裂音と共に全員圧死した。
「――してますよね、そりゃあ」
「木の葉に来る前に何度か」
話している最中のことで、術者のコウを見れていなかったが、男達の惨状を見れば察しはついた。
躊躇いはなかっただろう。
全身の穴という穴からは、弾けた血と内臓の一部が零れ出ている。
「そう、対之イッタイは、こんな風に殺しましたね」
「対之…同じ一族ですか?」
「ええ。近しい人でしたよ」
「これは驚いた。アナタも、同胞殺しの経験があったとは」
「授かったお役目がそうだっただけですから」
「奇遇ですね。私も昔、命じられるままやっていましたよ」
「辛い役回りだったんですね」
「お互い様では?」
「そんなことはないっすよ。
私がやってたのは自業自得で気違いになった人の処分。安楽死みたいなもんですから、片手の数ほども殺してない」
「……聞いても?」
「ハァン興味が嬉しい!!
えーと!訓練もなくに眼に適量以上チャクラぶち込んだせいですね!
下手したら今までの何千倍ほどの範囲が一気に見えちゃうんで大抵は気が狂いますよ。
対之イッタイは特に嫌でしたね。最初に殺したんですけど、頭壊れてるってのにふと名前呼んで正常に微笑んできたんですよ。やめてほしいっすよね」
コウは何ともないようにヘラヘラと笑っていたが、
ふと鬼鮫が視線を落とせば、その細腕には深く爪が喰い込んでいた。
「…………私は、仲間殺しが専門でした」
「正気の?」
「ええ。……正気のを、沢山」
「しんどいっすねー
こうして脱出できたわけですが」
コウは果ての無い闇空を見上げて笑った。
その瞬間をまるで狙ったかのように、空間を洗うような強風が二人を吹きつけた。
鬼鮫は、その大きな手で目元へ向かってくる風を遮り、コウの横顔を観察するように見つめた。
コウは、舞い上がる風を受け入れるように目を瞑って、時を愛おしむ様に微笑んでいた。
しかし変わらず、彼女の腕は別の生き物のように、もう一方の腕に喰らいついて、責め立てるように爪を立てていた。
だというのに、どうしてそこまで穏やかな表情ができるのか鬼鮫は理解できなかった。
その表情に、身内殺しや抜け忍に多く見られる陰りはなく。
その眼差しは真っ直ぐで、しかし直線的すぎず、狂気を孕んでいる様子もない。
性根が腐っているのか、心の作りが特異なのか、ただ精神力がスバ抜けているのか、その腕は無意識なのか。
それともこれもまた作り話、なのか。
嘘を相手にするのにはうんざりしていた。
それは簡単に脆く崩れ去る足場のようで、もうその上を歩くのも、歩いている者を見るのも、たくさんだった。
揺れた心に気が付いたかのように、コウは突然目を開けて鬼鮫の方に顔を向けた。
「私は壊れないし殺されないよ」
視線が合えば、脈絡もなく言葉を吐かれた。
嫌に頭に残るフレーズだった。