□13 鵺騒動終了まで[7p]
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青い星のかがやきは、いつもの通り。
――するはずのない、他者の足音に驚いたのはいつのことだったか。
また、どこからともなくやって来た足音は、間違いようもなく彼女のものだ。
よって彼は、身構える必要もなく、独り言のように口を開いた。
「鵺が開いた異界の『門』は閉ざされた」
彼女は黙ったまま勝手に隣までやって来て、そのまま地べたに腰を下ろした。
「これでしばらくは浄眼の出番もなさそうだね」
気にするでもなく、彼は言葉を続ける。
言葉に言葉が返ってこないことこそ、彼にとっての普通だ。
「だが、やはりこれは一時しのぎに過ぎない。……いずれ神々は、かの地に天下る」
彼女は彼の横で、眼前の青い星を見上げた。
「信じるほかない。彼らの、忍者の力を……」
「こんなにも心を砕くあなただけれど、こうして高みから見つめることしかしないのね」
そこではじめて、彼女は口を開いた。
減らず口を吐く彼女を、彼は――その双眸に眼球はもう無いけれど――見下ろした。
「わかってるわよ。すでにもう秒読みだし、そんな中であなたが動いて騒いでなんてすれば、さすがにコンマ以上の早さでやって来ちゃうわ」
彼女は彼に一瞥もせず、さりとて心中の声をどうしても当然のように察する。
堂々とした態度から。
今は、ハオリ。
「歯痒いですね」
と、思えば急にパチンと態度を変えた。
一転して所帯無さそうにおどおどと立ち上がった彼女は。
「そうだね、トキ」
彼女の中の、もう一つの人格。
「ごめんなさい、トネリさん。あなたがどうしているのか、気になってしまって……また来てしまいました」
「構わないよ。君達に比べれば僕はずっと手持ち無沙汰だ」
「あの、どうか、ハオリ様を嫌いにならないでやってください……。不自由なところもありますが、ハオリ様は、あなたのことをとても気にかけていらっしゃいます……」
もじもじと指を合わせながら、彼女は自分の中に宿る人格を擁護した。
トネリは肩をすくめた。
トキがハオリを慕っていることは、とっくに承知している。
「また駮の異界を使ってやって来たんだろう」
「はい……」
「それならいい。……これだけ好きに開け閉めしているというのに何も感じず、なにもやっては来ない。その気配すらない」
「そう……みたいですね」
「つまり僕も、恐らくは神々も。そこは全く認知できない領域だ……ハオリの技術は大したものだ」
「それは、はい、本当に……そう思います」
「あとはもう少しでも、協力的であればよかったのだけれど。まさか伝言すら受けてもらえないなんて」
「すみません……」
「いや、言ってみただけだよ。トキが謝る必要はない」
「それでも、申し訳なくて……」
「贖罪の身でありながら、他者に何かを求めるだなんて、それは烏滸がましいことだろう?」
「そ、そんな、ことは……」
「もともと、その覚悟をしてここに残った。その選択をしたのは僕だ。だからきっと、そもそもは、これで正しいんだ」
「……ありがとうございます」
「この話は終わりだ。さあ、また他愛ない話でもしよう」
彼は彼女に手を広げてみせながら、微笑んだ。
「お互い、今を逃せば、意識あれど話し相手などいない身だ。……なにか素敵なものは見てきたかい?」
彼女は俯きながら、少しの間恥ずかし気に沈黙した。
しかしやがて、道端に咲いていた花の色や、季節特有の営み、野性の小鳥の愛らしさなどを話し始めた。
彼はそれを聞き、頷き、言葉を返し、たまに語るなどした。
まるで暇を持て余した年寄りのような、他愛ない話。
そんなものが、しばらく続いた。
月面から見た、青い星のかがやきは、いつもの通り。
青い星から見た、白い月のかがやきも、きっと、いつもの通り。