□10 職場体験終了まで[10p]
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「とにかく、マギレ君はまず自分のできることを鍛えたり増やしたりするのがいいと思うよ。
支援に便利な隠れ蓑の術や口寄せの術の精度上げたり、メンタルケアや医療忍術覚えたり。もちろん他の得意分野見付けても良いし」
「……」
「マギレ。忍者学校生はまだ、卵のようなものなんだ。
孵化に向けて成長……つまり自己を定め形作っていく時期なんだ。それをないがしろにして遅らせるのはマゾヒストのすることだ。
健やかに成長する周りについていけず、よって有事に力を発揮できず死ぬか、生還しても罪悪感と心配と後悔を灯すことになるだろう。
……自分を卑下し、不幸に満足する性ならば、別にいいがな」
「なんだお前偉そうだな」
「人の事言えるのか?」
「それもそうだあっはっは」
「あの……」
「ん?」
「……どうして……二人はそんなにも、言葉や心を知ってるんですか……?」
「そうだよ。なんで?」
「お前もだろう」
「私はそういうのを嫌でも学習せざるをえなかった一族出身だからですけれども」
「俺は幼少時から蟻仙人と交流しているからだが」
「あー」
「蟻…仙人?」
「まあ、つまるところ長く生きた大老だ。一言一言が難しい。
習い、考え、やっと理解の仕方を学んだ」
「そう、なんですか……」
「俺にも非生産的な欲はある。
だが、それの誘惑に負け、成長と学習を蔑ろにするほど俺は愚かではない」
「へーえ、ストイックだねえ」
「当然のことに名を付けて特別化するな。
命を賭して戦うのを生業とするなら、成長を捨てるのは死期を早める…、自分を殺すことと同義だろうが」
「別に多少遊んでても良くない?」
「欲に溺れるということは、『命の危機無く生きる道を歩む気がある』と言うようなものだ。
俺は違う。もしそうなら、忍術科に在籍などしていない」
「忍術科……」
マギレ君は、その言葉の意味を考えるように呟いた。
「ご立派スリッパヨーロッパ。そんなかぐや君の忍道を聞いても?」
「い、いや、號さん、まだボク達は忍者になった訳でもないし、そんなの決まってるわけ――」
「血と、戦いだ」
「え…?」
「ふーん」
「眼前に血を。己に得物を。横には戦友を。背に笑顔を。
あてはめられる言葉を探してるが、まだ知らない」
「おや意外だ。傷付けてはいけない者と傷付けるべき者との分別はつくのか」
「むしろついてないと思ってたのかお前」
「その血と性なら」
「! はぁ……誰かに、話した覚えはないが、お前の母か?」
「そうそう。実はかぐや君のことよく知っていたりして」
「父のこともか?」
「知りたい?」
「……いや、いい。今更知ったところで心が乱れるだけだ」
「へえ」
「お前の忍道はどうなんだ?」
「砂利にも獣にもならないこと」
「その比喩は何が言いたいのかサッパリだ」
「愛しの人がおります。その爪先に額づく日を、ずっと、生まれる前から、心よりお待ち申し上げております フフッ」
「は?」
「自分で招いたことなのに、自分こそが被害者だって信じ込んで、自分を哀れんで、都合の悪いところから眼をそらして、言い訳して放置を正当化して、改善することなく繰り返す。そうして今いる場所が息苦しくなったから切り捨てて、真新しくきれいな場所に居たい。それが私のすべてだよ」
「何が言いたいのかわからないな」
「わかられるのは嫌いなの」
「人らしくないな」
「人らしさなんてそれこそ人の数ほどある偶像だろ?そんなこと気にしたって自己否定以外できんよ。
オブラートに包んでくれてありがとう。素直に理解できないと言っても差し支えないのに」
「そうだな」
「あのっ!!」
会話が弾んでいたところ、マギレ君が堰を切ったように声を上げ、肩に回る私の手を振りほどいた。
脱線したあたりから、まるで取り残されたように私とかぐや君を伺っていた顔と視線が、今は自らの片拳に注がれている。
「ん?」
「どうした?」
と聞けば、より強く拳を握りしめて声を張り上げた。
「ボク……いつか、いつか追いつきますから……!!」
話についていけなかったの気にしてたー。
かぐや君は「そうか」とだけ返していた。
ならば私は宣言させることで道を定めでもするか。
「つまり?」
「へ?
あ、……スミレさんを追うよりも、言葉を学んで、出来ることを……自分を鍛えることにします……!
二人の会話にも、ついていけるように……なりたい」
「そっか。頑張って」
「はい……!」
「じゃあ帰ろうか。長話したね」
もう大丈夫そうだ。
スクと立ち上がれば、二人も頷いて立ち上がった。
そして、
私は解印を結んだ。
私が彼らと共に歩き出していないことに、彼らは気付かない。
マギレ君もかぐや君も、そこに居ない私と会話しながら廊下を歩いていく。
二人の進路上にある曲がり角から、術者が姿を現した。
術者は、彼らとのすれ違い様、マギレ君の肩を擦るように叩いた。
マギレ君だけが気が付いたように肩を跳ねさせて、足を止めた。
かぐや君はそのまま一人黙って廊下を歩いていった。
「やァ、まだ解は印を結ばないといけないの?」
「感覚で何でもできるわけではないんで」
術者は私の言葉を受け、喉で笑った。
そしてマギレ君の両肩を掴み振り向かせると、そのまま一緒に歩いてきた。
マギレ君は訳もわからず眼を開いたまま、その術者を見上げて呟いた。
「ハオリさん……?」
「あら、名前を覚えててくれたのね」
ドンっとハオリは掴んでいたマギレ君を私の方に突き飛ばした。
「うわあぁっ」
「とっと。」
とっさに両手を伸ばして向かってきたマギレ君を抱きとめた。
そして照れて焦ったように離れていった。
ハオリはまた喉の奥で笑っていた。
「何がおかしいんですか」
「いんやァ、なにも。それより、お待たせ。予定より早く着いちゃったから驚いた?
ちょっと噂移しただけで追手はとても迅速な方向転換をしてくれたおかげでね」
「そうですか」
相変わらず意見を必要としない。
話しやすい人だ。