□10 職場体験終了まで[10p]
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「どういう意味……ですか?」
マギレ君は質問の意図がつかめなかったようで、こてっと首を傾げた。
頭部の動きに連動してふわっと揺れる髪が可愛い…マジかわいい…。
「いや、返事聞いてなかったから。考えた結果が聞きたいなって」
「……」
マギレ君は、意外、と言わんばかりの表情をして首を起こした。
「……もう通じていたと思っていました」
「ん?」
「ボクが忍術科に転科した事が、その答えですよ。
あなたの力になるために、あなたのために…謹慎中必死に勉強して、鍛えて、実力テストを合格したんです」
「そっか。委員長に近付くためと思ってた」
「それも…ありますけど、モチベーションは號さんです」
「そっか。単純に嬉しいよ、ありがとう。
でも、綿密な準備をしてきたからといって、実際に直面したら心変わりするってのもよくある話だよ。
いざ私の手伝いしようとなって面倒だと思ったのなら、……巻物は受け取ったし、ここでなかったことにして引き返すこともできるけど」
ゆらゆらと黒い海苔巻のような巻物を揺らして見せれば、その手首を掴まれた。
「ん」
なんやと思ったら、腕を持ち上げたことで捲れた袖から露出した傷痕と血に視線を向けていた。
「そんなこと言わないでください」
そう言ってマギレ君は、もう一方の手でハンカチを取り出すと、先ほど噛みついてできた傷口から滴る血を拭ってくれた。
そして血の付いたハンカチを片手で折り込み、綺麗な面を傷口にあてた。
簡単な止血。別にいいのに。
「……面倒なんて、思いません。
ここまでの足取りが慣れていましたけど、毎日放課後ここまで来ていると言うなら、毎日ついていきます。
ここでなくても、場所さえ教えてもらえるなら、置いて行かれても一秒でも早く追い着きます。
勉強だって教えます。修行のお手伝いもします。
……ボクは、あなたのために出来ることをしたい」
「そっかー。
まあ、心に強い罪悪感を持って生きている人は、誰かを救うことでしか救われないなんて言うけど、そういうヤツ?」
「そうですね。そういう罪悪感の癒し方を、號さんはボクに示してくれた」
「うん。マギレ君の気がそれで癒えるのなら、私も喜んで甘えさせてもらうよ」
「はい。改めてこれから……よろしくお願いします、號さん」
「よろしく、マギレ君」
マギレ君は、私の腕に出来た傷をハンカチで押さえたまま、暖かく微笑んだ。
こぼれるような親しみの表情。
夕焼けの木漏れ日の中、恋心を知る少年が作ったその柔らかな笑みは、たまらなく魅力的であった。
ていうかめっちゃかわいい。
「ところで、勉強はありがたく教えてもらうとして、修行手伝いについてなんだけど」
「?」
「お察しの通り毎日放課後に裏山か森の奥地でしてるんだけど、その理由は隠したいから。
私は注目を浴びるわけにはいかないんだ。
だからこの駮も秘密にする。そして私も、学校では手を抜いてて、本当はもう少し戦える」
「……」
「組手もテストもわざと私は間違えるよ。出来ることを間違えて、あえて怪我をし、あえて嘲笑を受ける。君に教えて貰ったことも間違えるだろうよ。
私の意図を理解して、時には大衆と一緒になって私を嘲笑う覚悟はある?
私に向けられるありとあらゆるものに対して、決して熱くならない自信はある?」
「それを、號さんが望んでいると、今知ることができましたから。
たった一人で自分の心を欺くというなら、ボクも一緒に。
そして……周りがなんと言おうと、號さんはこんなものではないと、心の奥で否定し続けましょう」
「それは心強いな。ありがとう。じゃあ毎日放課後と、あと昼休みは図書室で勉強の復習や術を調べてるんだけど、その手伝いもお願いしていいかな」
「もちろん…!その為に学校に行くんですから」
尽くすなあ。
「あと敬語でなくてもいいよ別に」
「それは…」
「別に嫌じゃないよ。つい敬語が出ちゃうってんなら敬語でも構わないし。
ま、楽な話し方でいいよってことで」
「……はい、ありがとうございます」
さーて。
「ではさっそく、駮でも呼んでみるかな
止血もういいよ、ありがとう」
「あ……はい」
巻物置いてー、離してもらった腕から滲む血を親指にとってー、印をっと。
「口寄せの術!」
ボッ
と、砂埃と共に、それは出現した。
でっか…。
体高だけで180cmはありそうな巨体が、首をもたげた姿で現れた。
高さ2m越してんなこれ。
大きさを抜きにして見る。
その姿の第一印象は、ユニコーン。
でも違う。
一本角が生えた白馬のような身体。
だが、その四肢は、細い脚に優雅な蹄……などとは似ても似つかぬ。虎の如し太い脚と鋭利で力強い爪。
次に目を引くのは、白い身体に揺れる、濡羽色の尾。
そして顔の形。一見馬のようであるが、あごの形に違和感がある。
ぺろりと舌なめずりをしたその口内には、猛獣のような鋭い牙と、猫科特有の舌が収まっていた。
太鼓を打ち鳴らしたような音が鳴った、と思えば、それはこの幻獣の嘶きであった。
「わっ…」
「おおどうしたどうどう」
肩を跳ねさせたマギレ君を背にかばい、両手を上げて敵意がないことを示しつつ宥めるように振った。
大きな体躯。
黒檀色の虹彩に、横長の瞳孔。
値踏みするようにこちらを見下ろしている。
「なァーにがどうどうだボケコラカスなめとんのかチビおぉん?」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
「……と。不躾をお詫び申し上げる。我が炎。
何かを言われたら、このように返せと我が王が仰せになられた」
何やええ子やったわ。
値踏みするような視線は変わらないようだが。