□20 修学旅行編新七人衆のザコ組撃破まで[10p] ※霧が干柿一族を管理したというのは推測捏造です
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不良たちは無事回収されていった。
事情聴取を避けるため、私と燈夜は既に廃工場から脱出しており、マギレ君も隙をついて出てきた。
丁度日が傾き始めた頃だろうか。
「じゃあ待ち合わせ場所行こうか」
「はい」
「わかった」
真っ赤な夕日が里を照らす。
「まーた湿気出てきたなぁ…」
「気に入らないか?火遁使いとして」
「うんにゃ別に?この程度で弱まる炎してないし」
「それならいいが」
道中、また濃霧が出始めた。
それらは夕日と相まって、朝焼けの時のような色を持ち始める。
「…赤い霧…か」
「血霧の由来、この光景からも来ていそうですね」
「テンション上がる?血狂いとして」
「いいや、全く。こんなものただ赤いだけで、血とは色もにおいも全く別物だろう」
「まあそうね」
そんな雑談を交えつつ。
私達は待ち合わせ場所であるホテルの裏庭に到着した。
既にサラダと長十郎が到着していて、数拍子置いてボルトも到着してきた。
行われるやり取りは、小説の通り。
足を向けるべき行き先も、シナリオ通り。
特に歪みはなかった。
はてさてところ変わって鉛分身のたわしです。
わたしです。
とどのつまり慰霊碑が見えるポイントで待機している個体です。
ほげーと雑木林の奥の木に腰かけていたところ…、
「楽しそうね」
「うおっ…そりゃもう楽しいっすよハオリさん」
彼女が完全に気配のない状態で急に姿を現した。
ハオリさん。
私の返答にハオリはクククと喉で笑うと、空間を曲線で彩るように言葉を発した。
「もっと楽しくなりそうよ」
そう言って彼女は、マイペースな足取りで慰霊碑の方へ歩き出した。
その足取りは、慰霊碑までの道半ばというところで、急に変じた。
堂々と、貴人のように優雅かつキビキビと土を踏む歩き方から一転。
ちょこちょこと、居場所なさげにオドオドと土に足を置いていくような歩き方へ。
まるで急に別人に……。
もしかして今、入れ替わった?
トキ姉様。
もしそうなら、初めて、本来のトキ姉様を目にすることになるな。
挙動を見、耳を張る。
彼女は慰霊碑の前に立ち、羅列されている殉職者の名を視線でなぞっていた。
探す名があるのなら瞳術を使えば一瞬だというのに、そうしない。
なら、ただ名を眺めているだけか。
温度を持たなくなった潮風が彼女に吹き付ける。
地平線に日が落ちれば、あっという間に暗くなり、石碑を囲う設備に明かりが灯った。
彼女はなにもしない。
何かを供えることも、手を合わせることも。
ただ動かず慰霊碑を見つめるトキ姉様は、一見すれば黙祷をささげているようでもあった。
チンピラ共の気配が近づく。
気付いているのだろうに、彼女は奴らの接近に振り向きもしない。
七人は既に、彼女のすぐ後ろに立っている。
足音立てようと動かぬトキの後ろ姿を見て、かぐらは屍澄真を見た。
「屍澄真さん」
どうしよう、という言外の問いに対して屍澄真は肩を竦めて踏み出した。
そして、トキ姉様の肩に手を置いた。
「よォ、間が悪かったな」
お身体に触られグイと振り返らされた姉様は、特にその力に逆らうこともなく。
「あっ…」
いけしゃあしゃあ今気付いた様な空気で屍澄真を見上げた。
「……!」
かくして屍澄真は、彼女の顔を見てわずかに目を見開いた。
彼女の頬に走る、およそ干柿一族特有の、鮫の鰓孔を思わせるソレに。
「お前……その頬のは…」
肩を掴む屍澄真の腕に、思わずと力がこもる。
だが、彼女の肩はびくともせず。
「痛…っ」
しかし、わざと一般人のように痛がって、怯えるように屍澄真を見上げた。
意外にも、視線を外すことはしないらしい。
屍澄真はそんな彼女を見下ろした。
その瞳が携える黄色は、まるでかつて名を馳せた霧隠れの怪人と同じ色彩。
頬には干柿一族たる血の証。
だが無論として、干柿屍澄真は彼女を知らない。
それは。つまり。
彼の脳裏に浮かんだひとつの予想が、その頭を殴りつけた。
「屍澄真…?」
文淡が屍澄真の背中に言葉を投げる。
だが屍澄真はこれに応えず、ただ無意識にゴクリと喉を鳴らしていた。
「……お前は、どこから来た」
ややあって屍澄真はそう告げた。
「ええと…?」
トキはおよそその言葉の真意を知りつつも、弱者を演じるために首を傾げた。
「オレは干柿の人間だ。親戚の顔も一通り記憶してる。その中に、お前のような奴はいねえ」
よって、屍澄真は丁寧に真意のヒントを舌に乗せた。
「…だが、お前は確かに干柿一族の身体的特徴を持ってる」
言いながら、屍澄真は彼女の肩に置いていた手を離した。
そのまま数歩下がり、そして屍澄真は続ける。
「干柿鬼鮫…霧隠れが生んだ最凶の『怪人』だ。その人が里を抜け、暁に加わったときから…、霧隠れの里は干柿一族を厳しく管理した。里の外で血を残すヘマなんざもってのほかさ」
そこまで話した屍澄真の言葉から、その着地点の予測がついてしまった一朗太とかぐらがハッと息を呑む。
「勿論……その、『怪人』を除いては、だが」
続いて察した文淡も「まさか」と口走る。
「つまり、お前は……、干柿鬼鮫の血を受け継ぐ者ってわけだ」
最後に八朔、巨峰、蛇苺がそれぞれ、ざわめいた。
「……」
言葉と視線を一身に受けた彼女は、なお、じっと屍澄真に視線を固定している。
一切揺れることの無い視線は、まるで捕食者めいた何かのようで。
「……そうだろ?」
改められた屍澄真の問いかけに、彼女はようやく口を開いた。
「察しの方は、悪くないのですね」
高く、甘やかに擦れた、愛らしい声だった。
そんな愛らしい声で、彼女は告げた。
「半分正解の100点満点です。よくできました」
弱者の真似事はもうやめたらしい。
「…どういう意味だ」
「矛盾してるぞ」
「半分なのに満点ですの?」
トキの言葉に、その場の各々が反応を示す。
そんな中、彼女は数度の瞬きとともに二の句を告げた。
「どこから来たか。は…、直前ならば、霜隠れから」
「話を逸らすな。質問に答えてもらおうか」
次の話題に行こうとしたトキであったが、屍澄真はそれを許さなかった。
「半分の意味を気にされるのですか?」
「当たり前だろ」
話題を引き戻されたトキであったが、特に気分を害した様子もなく口を開いた。
「私は確かにお父さんとお母さんの遺伝子で出来た子供。ここまで察すれば満点という意味です」
「しかしそれで半分というのなら…。もしや、干柿鬼鮫に望まれたわけではない、私生児……?」
「頭の良い方なのですね。それも正解です。…それがすべてでもありませんが…」
一朗太が溢した呟きを、彼女は――母方が拒んだのならば私はすでに胎内で潰されていることですし――などと丁寧に拾って返した。
「残りの答えは…簡単に言えば、私は、生物として正しい方法で産まれたわけではないということ。私から言えるのはここまでです」
トキは薄く笑った。
どこか有無を言わせぬ迫力で。
「そして私がここに来た理由は…ただ、血の繋がりを見に来ただけ…。…あなたたちの何かになる為ではありません」
そこからトキは、己に掛けられるであろう言葉を察し、先んじて拒否した。
先回りをされた屍澄真は、不意をつかれたように呼吸を痞えさせた。
「あなたたちの背負う得物を見れば察しはつきます」
トキはそれに対して、なぜ、と心中掛けられた言葉がそのまま耳に届いたように言葉を続けた。
「忍刀の正統なる後継者は現状全て空席であり、厳重に保管されているはずのそれを我が物顔で手にする人達。
それは動乱を起こさんと欲する証」
「…?」
「争乱と平和は対。片方に満ちればもう片方に傾く…砂時計のお部屋のような関係。
今は平和で満ちた世であり、つまり争乱を求む者が動く番…それがあなたたち。
七人の使い手が全て存命していた時代、血霧を連想させる、分かり易いシンボル。
そのうちの一つは最も名の知れた血霧の影の血を継ぐ者。
それらを掲げ回帰を望むと知れる……ということです」
トキの回りくどい話しの本質を掴めた気がした一朗太が小さく、なるほど、と呟いた。
「つまり、どういうことだ」
屍澄真は溢す。
その問いには、一朗太が答えた。
「つまり…、この忍刀とかぐらの存在から…我々が『革命家』であることを察したということになる。
並行し、その身に流るる血の重要性と、我々がそれを手に入れることでより円滑なる革命を成せると、そのように考えるであろうことも推測済み……。
その上で…そうなることを拒絶したのだ。この里へは、ただ同じ一族の顔を見に来ただけゆえにと」
理解力Aかよ。
そんな一朗太に対して、トキ姉様は初めて視線を寄越した。
「…!」
一朗太は息を呑む。
トキの黄色い瞳が、その虹彩と瞳孔が流動し、見知らぬ紋を形成する決定的な瞬間を目にして。
「!?」
刹那。
他の面々がトキの瞳の変化に気付く前に。
否、気付いたとしても見間違いであると思いこんでいただろう素早さで。
そんな一瞬、まるで夢のように、彼女の姿はその場からすっかりと消えていた。
「なっ…」
「え」
「ついさっきそこに…!」
中途半端な所で逃げたのは、おそらく物語を見つけたからだろう。
「……なるほど、流石は…あの干柿鬼鮫の血といったところか。一筋縄じゃあいかねえってな」
「そうだな…。なかなかに手練れらしい」
「上等じゃねえか!むしろ安心したってもんだ」
現に、水影率いる少年少女達がすぐそこまでやってきている。
到着がちょっと遅かったのは、ハオリがここに来るまでの道にいくつかの罠を仕掛けていたからかな。
「屍澄真…」
「どうした一朗太」
「見間違いやもしれぬが…あの方、なにがしかの血継限界を有してる可能性があるぞ」
「何?」
「一瞬であったが…あの瞳が蠢き、奇妙な紋が生じるのを見た気がした」
「……ほォ。そりゃいいな。どちらにせよ、幸先いい事にゃ代わりねぇ。
干柿鬼鮫の直系が存在したという事実!革命の後、その血が思わず引き寄せられるような里を作るという…明確な目標が新たに誕生したってわけだ!
なあ、かぐら」
「っ!」
「あの人とお前は同類だ。お前がやぐらの血を誇れる里であると同時に、あの人が鬼鮫の血を誇れる里を、オレ達の手で、作ってやらなきゃなぁ…」
そんなふうに慰霊碑の前で蛇足が繰り広げられている間にも。
少年少女と水影が、木々に身を隠す私の前を通過していった。
「んー、思ったより楽しくなかったわね。やっぱり號を行かせるのが一番だわ」
「そりゃどうも?」
入れ替わるように、ハオリが私の真横に着地してきた。
冷たく低められ、まっすぐ安定した芯のある、聞き取りやすい声色。
トキ姉様と同じ声帯を使っているというのにここまで違うもんなんだなぁ。
「思ったんですけど。なんとなく私の事オリキャラ夢主扱いしてますよねハオリさん…」
「あら、バレた」
「あっさり認めるんかい」