□18 修学旅行編デンキ誘拐まで[10p]
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演奏も佳境の中。
客席の暗がりの中で、シノが分身と入れ替わり、アサリは舞台袖に戻った。
――瞳術使用中の鉛分身より感覚共有を受けた私は、なるほど予想が的中し納得した。
やはりシノは、アサリと密談する機会を得るために、やどりの和太鼓に食いつくことでこの場を設けたのだ。
舞台に意識を戻す。
やどりの腕前について。
最後に見た時よりは上達してキレも増している。
鉦(かね)に尺八と、太鼓以外に出来ることが増えているようだが、まだ見得のある『演目』は持ってないようだ。
まあ彼女の齢でそれは望み過ぎか。ほぼ独学なんだし充分かなり素晴らしい。
そんな大演奏のシメは鬼のソロ。
役目を終えた黒子たちは散るように捌け、最後に残るは鬼。
鬼は鋭く華々しい最後の一打を放った。
姿勢をそのままに静止していた鬼は、反響が止むと、膝を折り静かにバチを置いた。
そして客席に背を向けたまま、品のある身体さばきで鬼面を取った。
面が取れるのと同時に、いつもの細腕に変化した彼女は、そのまま水がすべるような身体さばきで退場した。
対比により、よりいっそう華奢に見える腕を携えたその横顔には、狐の面が張り付いていた。
会場中に拍手が響いた。
客席に明かりが灯る。
舞台袖では、狐面を脱ぎ捨てた汗だくのやどりさんが蟲のベッドの上にバターンとぶっ倒れてた。
舞台上では、ジョウルリさんがちゃちゃちゃっとやどりさんの巻物に楽器類を回収していた。
のだが。
「凄かった…!なんか、全身に響く感じで…」
「分かります!聞くだけでこの心地よい疲労感にも似た感覚というんでしょうか…!」
というデンキ君とメタル君の呟きが伝播して。
「そうそう、聞くだけでもエネルギー使う感じでさ!その分、こう…すさまじい、場の一体感があるっていうか…」
「こんな感覚初めてだよー!もう少しだけ叩いて欲しいなあ…」
「ああ!短いのでいいからもう一曲!」
「アンコール!」
「アンコール!アンコール!」
「アンコール!!」
つって。
アンコールする空気ができちゃってね。
和太鼓と鳴り物仕舞ってたジョウルリが、舞台袖に頭突っ込んで、そこで倒れてるやどりとなんかやり取りし始めてね。
「……どうするじゃんね」
「いや意味分かんない…、やどりは疲れてるんでしょっていう…」
「いやー、身内以外だとこういうこともあるんすね…はは…。もう一度聞きたいなんて…嬉しいな…ちょっと無理したくなっちゃう」
「えー…じゃあやるの?応える義理ないと思うんでしょっていう…」
「でももうそういう空気できちゃってるじゃんね」
「もちろん流石に疲れてるから分身はもう無理っすよ。だからジョウルリ、弦を頼んでいいっすか?」
「……仕方ないじゃんね」
「はぁ…なら汗拭くでしょって」
「二人ともあざっす」
瞳術で透かして読唇してみればそんなやり取りをしていて。
かくしてもう一度客席の照明が落ちた。
ジョウルリの手により、舞台には一つの大太鼓と、新たに琴が設置された。
クラスメート達は琴に首を捻る。
琴を知らなかったり、もしくは甘やかに包むような印象が強いそれが果たして荒々しい大太鼓に合うのかとか。
しかし、それは杞憂でしかなかった。
一度舞台袖に引っ込んだ二人は、服装はそのままだが、顔の上半分だけを覆う鬼面をして出てきた。
そんな鬼面の二人組が、この空間を瞬く間に支配した。
地を這う虎のように低く睨み響く低音の大太鼓の音が土台を支え、
天へと昇る龍のように高く抜け響く琴の音がその中心を駆け上がる。
激しい緩急を携え織り成す音の龍虎は、聞くものを瞬く間に魅了した。
変化を解いているやどりの腕っぷしと打ち筋は相変わらずのもので、女性にしては力強く雄々しい動き、男性にしてはしなやかで曲線的な体型には、性別無き物の怪のような色気を感じさせる。
ジョウルリが三味線レベルでかき鳴らしている彼女の目にも止まらぬ琴さばきも、目を見張るほどの正確さと素早さと激しさを宿している。
ちょっと弦と爪が心配になるほどだ。琴ってあんな三味線みてーな音出せたんか…てかいっそ三味線でやれよ。
……傀儡使たるもの、糸の扱いなら任せろってことなのか?いや、完全に別分野だよね。
たしかにジョウルリの養母で元傀儡使のブンラクは三味線と琴の名手だったけども……こっちも教えてたのか。
大太鼓と琴の曲は、先程の18分に渡る大演奏と違い、5分ほどで終了した。
相対的に短く感じるが、曲としては充分な長さと満足度だった。
演奏を終えて、今度はちゃんと二人ともお辞儀をして、楽器を回収しつつ舞台を去った。
拍手と感嘆の声がホールに響く。
やどりは、拍手のなか舞台袖に戻るなり再び蟲のベッドにバタンとぶっ倒れたのだった。
その後の自由時間。
なんでも、やどりさん達、公演後プレイルームに顔出しに行くと、前もって言っていたらしく。
ほとんどのクラスメートは興奮冷めやらぬようにプレイルームへと向かっていた。
私は寝室に戻ったが。
その後。
大浴場開放時間になったり、消灯時間になったり。
お家柄や秘術関係など事情のある生徒や、一人で入浴したい生徒なんかは、備え付けのシャワールームを使ってもいいとのことだったので私はそっちを使った。
浴場から戻ってきたクラスメートの話によれば、隣室のえんこちゃんなんかもシャワールームを使ったらしい。まあ予想通り。
一族秘伝の影響でお腕が紫だしな。
「というか、お風呂上りだってのによくそんな暑苦しい格好でいれるわよね…」
「え?そう?つるちゃんほどではないにしろだいぶラフだと思うけど」
「その甚平みたいな腰ひも留めの着物だけならね!そこにいつもの長ズボンに五分袖のハイネックに手首まで包帯グルグルおまけに黒手袋とトレンカって…ほぼ普段着じゃない…どんだけ寒がりなのよ」
「あははー」
「髪も下ろしてるから一層暑苦しく見えるし…癖毛というか…すごいボリュームあるわよね」
「がおー!ハリネズミだぞー」
「いやハリネズミでガオーはないでしょ」
風呂上がりの服装にツッコミくらったりもした。
まあ修行着やしな。四肢も胴体も傷だらけの封印術式だらけで見せられたもんじゃないし。
なお消灯までの間マギレ君の部屋に突撃した。
「ドーン!あーそーびーにーきーたーぞー!」
「うわあっ!?」
「號さん!?」
「なんだなんだ!?」
「えっ號!?オレ今パンイチなんだけど!」
「號おま服 暑苦しっ!?」
「女子が男子の部屋に単独で遊びに来るな」
皆びっくりする中、相変わらず動じない燈夜にコツンと飴投げられた。
「マギレ君お膝貸してー」
「は、はあ…」
「よっこいしょっと。そういえば大浴場どうやった?行った?広かった?」
「あ、はい、サウナとかありましたよ」
「まじで?ととのってきた?」
「ととの…?えっと、入り方が書いてあったので入っては来ましたよ。気持ちよかったです」
「いいなー」
「ところで何しに来たんですか?」
「いや、マギレ君の風呂上り姿と膝枕をゲットしに来ただけですけど」
「……號さんてボクのことわりと雑に大好きですよね」
「超好き」
「即答されるとは思いませんでした」
「お前は嫌いな奴に膝枕されたいと思うんか?」
「ないですけど」
「そうでしょうそうでしょう。つまりはそういうことです」
「なにやってんだあいつら…」
「いつも思うけど、あれでなんで付き合ってないんだよ…」
「よせって、気にしたら負けだぞ」
「あそこまでいってんのに委員長から號に乗り換えないマギレも相当だよな…オレだったらとっくに落ちてるよ…」
男子たちにヒソヒソされながらお風呂上がりでフカフカのマギレ君のお膝枕を堪能したりした。
いや、相変わらず固っ細くて寝心地微妙だけども。