□17 修学旅行編船上まで[10p]
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さて。
見張りとして通路に潜ませていた鉛分身から水月を追い払った(マジキチスマイルで追っかけてる)という意識共有を受けた私です。
打ち明けたいことなんて想像は付くが。
マギレ君にかぐや君、そして私は、とりあえず座った。
「俺の体質について、知ってもらいたいんだ」
そしてかぐや君が切り出した。
「体質…ですか?」
マギレ君は、おうむ返しに首を傾げた。
それにかぐや君は、相変わらずの鉄仮面でコクと頷いた。
「詳しく説明するにはまず…三つ目の源…自然エネルギーについて知ってもらう必要がある」
「自然エネルギー?」
「そうだ。身体エネルギーと精神エネルギーが、体内に存在するチャクラの源であることは、アカデミーでも真っ先に習う常識だが…自然エネルギーは体外に存在するチャクラの源といえばいいか…」
「体外…?」
そして紡がれる内容といえば、やはりわかりきっていた。
自然エネルギーについてとか、生まれつき自然エネルギーを微量ながらオートで吸収する体質であるとか。
そうすると無意識の破壊衝動がやってくるとかそういう話。
「だからよく…物を壊したりしていたんですね」
はー…と新しい知識に呆気にとられたようにマギレ君が呟いた。
かぐや君は「ああ」と肯定し、続けた。
「けれど、それに気付いてしまえれば、自然エネルギーを体内に馴染ませたり体外へ散らしてしまえる。俺の記憶は…それを教わっている場面から始まっている。物心つく前から、何よりも優先して教えられたことだ」
「……!」
「いや最初からハードルたっか」
「……それでも、散らしきれない時がある」
「え?」
「流血。より正確に言うなら、血管内部を通る経絡系が外気にさらされたとき、そこから多量に自然エネルギーが入り込んでくる体質なんだ」
「もしそうなったら……どうなるんですか…?」
マギレ君の質問に、そこで初めてかぐや君の顔に影が差した。
「……皮膚が変質し、身体が作り替わり、抑制していたすべてが解放される。そうして――」
視線を下げ、自分の手を見つめながら彼は答えた。
「――…そうして、忍耐の欠片も無い、破壊衝動にまみれた血狂いの化け物へとなり果てる」
そして苦々しげに、拳を握った。
「…血狂いの化け物…?」
「……っ」
「んあぁ、そう。大変ね」
復唱しただけのマギレ君の言葉。そこに恐怖や嫌悪は欠片もない。
それでも他人の口からその言葉を向けられたというだけで、かぐや君は傷付き怯えに耐えるような顔をしてしまった…ものだから。
空気を重くしたくない私は間髪入れず、あっけらかんとした相槌を挟んだ。
寄せられた視線には、爪を見ながらどうでもよさそうな態度を返してやった。
「じゃあそうなったら止めてやるよ。今まで通りじゃん」
言葉が返ってこないので、視線を上げれば、固まっているかぐや君と何か言いたげに口をもごつかせるマギレ君がそこに居た。
「なんだよ?話はちゃんと聞いてたさ」
「え、えっと…」
「あのなーあ、マギレェ…。この話をするにあたってかぐや君は真面目な組手を仕掛けてきて、私達は合格したんだよ。それはつまり、かぐや君は、私達ならそうなってしまった彼を止められると信じてくれたってことじゃないの?」
「!!」
「ねえ、かぐや君」
「…そ…れは。そう…いや、そこまで望みはしない…少なくとも…そんな俺に傷付けられることなく、逃げ果せてくれればそれで…」
「見くびるねぇ」
「……お前達は、あの俺を知らない」
「それを言うなら君だって、私達が隠している私達を知らない」
当然のことだね、お互い隠していたんだから。と肩をすくめる。
「『達』とは…マギレもなのか…?」
「ええっと……はい。ボクは、號さんと一緒に…あっ、と、つまりは一応…そういうことになります。少なくとも戦争…感情と痛みと死の渦…くらいなら…見たことはあります」
「…そうか」
希望的もしもに縋りたい気持ちと、絶望的もしもに怯えてやっぱり突き放したい気持ちに取り合われている調子を見ればよくわかる。
彼は自己抑制が人格に癒着するほど板に着いてはいるが、しかして感情に乏しいわけではないのだと。
どれだけ厳重な警告と教育を施されてきたかは知る由もないが、その判断は全く以て正しいので、それを攻めるつもりは微塵もない。
「そこまで望んでいい」
しかして私は例外であるので、彼を見上げた。
「だいぶ以前に話した時にも言ったけど、私は母経由で君の『色々』を知っている」
「……」
「そういえば、號さんはよく……急に燈夜さんの手を掴んだりして、力加減を間違える前に注意させてるというか、フォローしてましたね…」
「……あれは…、本当に助かっている」
「それはよかった」
マギレ君のナイス援護。
私が『知っている』事に対し説得力を感じざるを得なくなったようなかぐや君に、私はニッコリと返した。
「ハッキリ言うよ。かぐや君は危険だ」
「!」
再び突き落とされたように息を呑む音。反応が良いのは楽しい。
「私が思うに、現状、暴走状態のかぐや君に対応できる同級生は…私と、マギレ君と、ミツキしかいない」
「…ミツキさんも?」
「うん。まあアレはボルト君にしか興味ないしかぐや君が暴れても放置か処分やな」
「…ミツキは、俺を殺せるのか?」
「殺せると思うよ。私は一応ミツキの『色々』も知ってるから」
「……」
「話戻すけど。つまり、危険は危険でも、かぐや君は私やマギレ君で対応可能な程度の危険なわけ」
そもそも、かぐや燈夜なんてのは存在しないキャラクターなのだから。
有事の無力化は、同じく存在しないキャラクターである私の役目だ。
「私は強い。マギレ君もぶっちゃけ馬鹿みたいに強い。だから、」
「えっ」
おい。
「えってなんだオメー」
「いや…師匠はボクなんてまだまだだって…」
「あの人の基準でまだまだなら上等だぞお前。片手でお山吹っ飛ばすくらいが及第点だからなあの人」
「……どうしましょう、ありえそうで反論できません」
「……」
空気消し飛んだやんけ。
『ええ…何その師匠…』みたいな顔してるじゃんかぐや君。
確かにマギレ君はチャクラタンク無いとボス戦とか無理だけどさ。
それでもザコ相手かつ地形壊し放題なら単騎無双よ?
あーもうめちゃくちゃだよ。
「聞いてのとおりね、やべー人は沢山いるのよ。
確かにかぐや君は特別だけど、最強でも最悪でもない。
かぐや君に『最』は付かない。
どんな化け物に変化しようが、どんな悪辣人格に変わろうが、狂った暴走しようが全然余裕よ。戦場で暴走状態なろうもんなら逆にうまいこと誘導して共闘したるわ」
マギレ君の頭をぐしぐし押さえつけるように撫でる嫌がらせしながら、私はかぐや君に向けて笑顔で親指を立てた。
「……」
かぐや君はしばらくぽかんとしていた。
「いっ痛いです號さん!やめてくださいっ!」
「あっ怪力使うの卑怯やぞお前。人の腕折る気か」
「もし折っちゃったならちゃんと治しますっ!」
マギレ君は嫌がって私の手を力ずくで止めた。
私に逆らうとはいい度胸じゃねえかこいつ。
どうしてくれようかとマギレ君の腕を、もう片方の手で掴んだ、その時だった。
「……は、ハハッ」
かぐや君が、初めて声を出して笑った。
きゃらきゃらと、無邪気な声で。
あまりにも聞きなれない声色だったもので、私もマギレ君もつい手を止めて、彼の方に顔を向けた。
「……ありがとう」
思ったよりずっとあどけない、年相応の少年の笑顔がそこにあった。
「號の言葉を、信じてみようと思う」
落ち着いた空気と恵まれた体格により、ときにずっと年上な青年のように見える彼ではあるが、けれども彼は間違いなく少年なのだ。
「…おう任せろ。お前が変になった時はしっかり止めてやるから」
「ああ、頼む。……頼む、か…不思議な感じだ……もしや俺は、気を付けているつもりで、本当は驕っていたのか?」
「えっいや、違うからね?かぐや君の対応は正しいから勘違いしないでね?私やマギレ君とかがおかしいのであって、それ以外の人には引き続き気を付けてね?そこまでフォローできんからな?頼むよ?」
「必死か」
「そら必死よ。間違った解釈されそうになれば」
そんな感じでグダりつつも体質の話はいい具合にまとまった。
「…んンでも戦うのも血を見るのも好きだよなお前」
「…、……」
「組手した時と血ィ見たときのお前すげー瞳孔開いてるし何ならたまに一瞬笑っとるぞ」
「……。否定はしないが…それはそれとして、仲間を傷つけたくはないんだ」
「難儀だなぁ」
その後ずるずると続けるようにして、かぐや君は、一族のことや、血継限界である屍骨脈を使えることとかも教えてくれた。
これについても、ほぼマギレ君の授業だった。
「――体内から皮膚を突き破って骨を…?それって、燈夜さんの体質とかなり相性悪くないですか……?」
「やー確か謎の髄液とか皮膚は飛び散るけど血は出なかったはず」
「その通りだが、まるで見たことがあるような口ぶりだな」
「そうかい?」
「よかった、体質の方には影響しないんですね」
「いや…」
「いや?」
「違うんですか?」
「……確かに本来は、血管を避けて流血なく骨を出すのが基本なんだが…、」
「なんだが?」
「俺の場合、骨を皮膚から出す際につい血管ごとやってしまう悪癖があってな…」
「草」
「ピンポイントすぎませんかその悪癖…」
「……治したいとは思っているんだがな…」
「だから私の鉛結晶ドーンと蹴散らすんじゃなくてわざわざ皮膚ごしにカンカンバキバキしたんか…」
「ああ…。流血なく出来るなら俺もそうしていた」
「でも内出血は起きてないよね?血管よけるとこまでは操作出来てるんだ?」
「そこまではな。だが皮膚の外に出す瞬間、血管の操作が覚束無くなって、まるで塞ぐように元の配列に戻っていくから、どれだけ急いでもかすって流血してしまうんだ」
「ン~なるほど」
「えっと…あくまで操作であって治癒ではなくて…それで、癖の流血は過失によるもの、ということなら…体外に骨を出す度に怪我をしてしまうと。そう考えるとすぐにでも克服したくなりますね…」
「暴走時も血は出るの?その場合うっかりハリネズミみたいな事したら全身の血管ズタズタになって自滅するのでは?」
「いや…、我を忘れている時はどうしてだか、ちゃんと正しく出せるんだ」
「じゃあもうそれ精神的問題では?」
「えっと、ボクもそう思います…」
「やはりか……」
「それだけに躍起にならずいこうな。別のところ伸ばして忘れているうちにいつの間にか出来るようになってるかもだし。喉の小骨みたいに気になっているうちはノーカンで」
「あえて問題を先延ばしにして忘れろということか?」
「そうそう」
「……それは考えたことなかったな」
「まあ、あくまで私がそれでうまくいったことがあるってだけで、効果は保証しないし、最終的な判断は君に任せるけど」
「検討したとたん急に保身に走るな」
「アハハ」
まあ。
そんな感じで。
わりと長話が続いた。