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ヒサキはスネイプに視線を向けたまま、その大演説をガリガリと羊皮紙に書き写していた。
たまに文字は曲がってないか間隔はおかしくなってないか一瞬目を落とすが、ほぼスネイプの勇姿を見届けていた。
手元を殆ど見ずにノートやメモを書き取る技能は、すでに学生時代を全うしたヒサキにとって難しくもなかった。
――教科書や、黒板いっぱいに書かれた文字や図だけでなく、教科書にない教師の発言や解説をひたすらノートに写すなんて数えきれないほどやってきた。その上で自然に身に付く技法だ。(もっとも、当然最初は文字が変な方向に向かったり漢字がバラバラになったり間隔が広すぎたり狭すぎたりして、それなりに身に付いたのは15才を越えてからだったが)――
「―――ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」
スネイプの大演説が終わり、シーンとした空気の中、数秒遅れてヒサキの羽ペンの音も止まった。
その数秒のうち、筆記音を聞き付けてスネイプは音のする席――話を聞かない不真面目な生徒――を睨みつけた。
つもりだったが、予想外にも、真面目に話を聞くヒサキの顔と思いきり目があったため、スネイプは何も言わずにヒサキの羊皮紙を一瞥し、視線を戻しただけだった。
ヒサキの羽ペンの音が止まり、数秒後
「ポッター!」
スネイプは声を張り上げた。
スネイプがハリーをいじめ始めたのを見計らってヒサキは視線を手元にやり、書き取ったメモの最後に閉じ括弧を付けていた。
そしてクエスチョンマークを書くと、ハリーへの理不尽な質問を書き取って、その下にアンサーマークと解答スペース幅をとってその次のクエスチョンを書いていった。
生ける屍の水薬もベアゾール石も後に出番が来るから嬉しいなあ。
などと思いながら、他の授業同様にお得意の 話を聞く姿勢 を披露しフムフム静かに頷きつつペンを走らせた。
「―――どうだ? 諸君、なぜ今のを全部ノートに書き取らんのだ?」
いっせいに羽ペンと羊皮紙を翻すような音が教室内に響き渡った。
「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点。
Ms.ヒカサキ、君の慎ましく勤勉な態度は大いによろしい。スリザリンに一点与えよう」
慎ましく、のところでスネイプはこれ見よがしにハーマイオニーへと視線を向けていたため、スリザリンのテーブルから「でしゃばるからだ」という忍び笑い声が聞こえてきた。
ハーマイオニーは、思いきりヒサキを睨むと、やがて視線を落として拳を握りしめていた。
とうのヒサキは「(ファッ!?)」目を丸くして、隣に座っているクラッブによくやったと肘でつつかれながら、とっさに微笑みを作り「ありがとうございます、先生」という空返事が口をついただけだった。
掠れた声が出るかと思いきや、とっさに出たのは、静寂にすぅっと溶け込むような、聞き触りのよい声量と発音だった。まるで打ち合わせでもしたかのように。
見渡せば、ナイスとサムズアップで笑いかけてくるスリザリン生徒。
それに微笑みで返し机に向き直りながらヒサキはまさかと思案した。
夕食以外に顔を出さない、夕食時も誰とも会話しない自分を見たスネイプはもしかして、自分がクラスで浮いていると思って、スリザリンに溶け込めるよう気を聞かせてくれたのか?
だとか。
定番の事前メモを何となくでやってただけなのに、まさかハーマイオニーを笑い者にしちゃう結果となるなんて。思ってたのと違う。
だとか。
スリザリン贔屓素晴らしいこの学年で恐らくはじめてスネイプから点を貰ったぞウォウウォウたまんねえ!!
だとか。
しかし、ペアになったクラッブに、
なにも言わずスネイプの視線を遮断し口も出さず全部自分でやらせてくれるよう誘導説得しているうちに考えごとはさっぱりと消えていた。
「ウオォ」
汚い字で教科書の手順をノートにとりつつ好奇こ目を向けてくるクラッブの手前、ヒサキは妙な芸人魂を発揮して、ユーモラスかつ低く潜めた声を出しながら蛇の牙をサラサラになるまで磨り潰していた。これが結構大変。
クラッブの説得は成功した。
元々、
変身術では見本のマッチと針をさんざんべたべた触りまくって「(インプットは大事!)」出だしが遅れたものの、最初の一回でいきなりマッチを完璧な針に変えたところからヒサキは一目おかれていた。
加えてその日、どこからか話を聞き付けたらしいフリントに談話室で肩を叩かれた事がとっかかりとなって、親友は居なくともそれなりに打ち解けていた。
また、ヒサキのことを親に相談した生徒も手紙が戻ってきていた。
その日ルームメイトに純血かどうか聞かれ、混血ではない、とだけ答えれば好意的に接してくるようになった。
ドラコも実は親に手紙で相談した生徒の一人であった。
ただしドラコは手紙が返送された日から――ヒサキに何の質問もなく――クラッブとゴイルとともに機会があれば軽く話す程度にはなっていた。
この三人については、ゴイルの手を治したこともあり、信頼もあった。
最初こそ全体を一人一人見回っていたスネイプに「すりこぎの持ち方が悪い」と注意を受けたが――正しい持ち方を教えてもらったら確かにやりやすい――クラッブが見辛い位置にいることもありそれっきりスネイプは殆どこちらに視線を寄越してこなかった。
どうもグリフィンドールのあら探しに夢中らしかった。「(かわいいかよ)」それがヒサキにはありがたかった。
グリフィンドール生に視線を送っているスネイプを確認し、粉末になった蛇の牙を、あらかじめ熱しておいた鍋の中へ、中央へ振り掛けるようにして入れた。
そしてすり鉢を両手で持ちクラッブの死角、大鍋を挟んで向こう側に置き、左腕に固定された暴れ柳の杖の先を袖からちょっぴり出してこっそり掃除呪文を無言でかけた。たぶん誰にもばれていない。
醸造時間を確認し、角ナメクジの数を数え、ナイフ傍らに置いた。
ここからだ。
名付けて『授業はちゃんと受けないと痛い目見rウワァァァアア怪我した!!』作戦!
スネイプの様子を伺いながら、綺麗になったすり鉢にヤマアラシの針を入れ、すりこぎを持った。
年のためクラッブにシー人差し指を口に当てて頷いて貰ってから、すりこぎでヤマアラシの針を静かに潰した。
スネイプがドラコの鍋に視線を向けたのを確認し、自分の鍋に向けて杖を降った。
鍋からピンクの煙がたった。
成功を確認し、教科書と鍋とを見比べて目をぱちくりさせたクラッブにウィンクをしたあと、ヒサキは席を立った。
スネイプの方を向くふりをしてネビルを視界に入れる。
鍋を火にかけたまま。
ヤマアラシの針を手にとって数えていた。
そのとき、スネイプがドラコの鍋を褒めた。
それを聞いた、ネビルはギクリとして自分の鍋を覗き込んでから――恐らく自分の角ナメクジを確認し、自信がなかったのだろう。ならせめて早く完成させたいと思ったのか――焦ったように手の中の針を鍋の上に持って行った。
ここぞとばかりにヒサキは「えっ」と目を見開いて走り出した。
ヒサキは日本人持ち前の小柄さと回避性能を生かし、テーブルの間をぬってネビルのテーブルまで向かう。
通り過ぎたテーブルのスリザリン生から疑問符を浮かべられスネイプの注意の声も聞こえた気がしたがそんなことよりヒサキにとってははネビルの手が開かれたことの方が重要だった。
到着間近というところでヒサキはネビルのすぐ横で驚いた顔をしてこちらを見ている男子生徒――恐らくシェーマス――とバッチリ目があった。
まてまて気付くのは仕方なくてもそこにいたらお前も薬かぶるよ。
危ない。
ヒサキはとっさに手を伸ばしシェーマスとネビルの間に飛び込む様にして、シェーマスとネビルの半身を庇った。
ジュワッと針を中心にあぶいていた鍋が、爆発したのとその行動とは同時だった。
爆発とともに破裂した鍋の破片が飛んでローブに穴を開けて刺さり、捻れた鍋がテーブルを転がった。
床に広がった薬品が、シューシューと付近の生徒の靴底を溶解する音が聞こえ、シェーマス含む生徒は我に返ったように椅子の上へ避難したため、被害はほぼ無かった。
だがその中心の被害は甚大だった。
彼女の後頭部から背中、そしてネビル側に広げた腕全体にかけて、それとヒサキの腕で覆いきれなかったネビルの半身は緑色の煙を出す液体をぐっしょりと濡れていた。
「い゛っ…ヤマアラシのばかぁぁああああ!!」
※ヤマアラシは悪くありません
「馬鹿はお前だ大馬鹿者!!」
スネイプの怒鳴り声が教室内に響き渡った。
ヒサキの背中には酷い痛みと痒みが走っていた。
スネイプがネビルを注意したりハリーを減点したりする声が遠くに感じられた。
支えが欲しくて、思わず目の前の椅子の上に居るシェーマスにすがり付いた。全体重をかけはしなかったのでよろめくことはなかった。
一見して髪やローブお陰でおできだらけなのは伸ばした手の甲だけだったが、その隠れた部位が酷かった。
ネビルが作中でシクシクと泣いていた意味をよく理解しながらヒサキはもうろうとする意識と痛みを押さえ付けて立っていた。
「Ms.ヒカサキ!」スネイプがヒサキの背中に怒鳴り付けた。
「はい」
ヒサキは痛みの中で呼ばれた声に反応し振り返ろうとしたが、うなじのおできが痛んでそれができず、少し頭が動いただけだった。
「なぜ声を上げなかった?走る暇があったのなら言葉で注意できただろう!」
痛みの中でヒサキは、かけられた言葉を理解するのに数秒かかった。
「……とっさに言葉が浮かばず、行動で教えようと、しました。
あ、人をかばうより、鍋を抱き込んだ方が、被害もっと抑えられましたよね、浅はかでした。すみません」
ヒサキは薄い意識のなか、あらかじめ考えていた言い訳を呟くように羅列した。
スネイプは苦々しげになにか言おうとしたが、今話しても無駄であると判断してやめた。
そしてシェーマスにネビルを。
クラッブにヒサキを医務室に連れていくよう言い付けたところで、ヒサキが口を挟んだ。
「ビンセント様はまだ鍋があります、続きがあります」
「…驚くべきことに、その鍋とやらはすでに完成しているように見受けられるが?」
「完成して、終わり、じゃないでしょう。そのあとの作業、ありますよね。迷惑かけられません。私、つかむ裾さえあれば、自分で歩けます」
何事か言ってもヒサキは反論し拒否するのでスネイプはらちが明かないと判断し、シェーマス一人に何度も念押しした上で二人を任せることにした。
医務室に行く道中、シェーマスはネビルの背を押し、ヒサキは頑なに手を引かれるをの拒んだため、裾をつかませていた。