□14 ハロウィン翌日
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たった一本の、黒い髪の毛だ。
広げられた白いハンカチの上で、それは、その存在を然りと主張していた。
深く艶やかな黒檀色で、長さはちょうどヒサキの髪くらい。
英国人にしては太く、まっすぐで、けれどハンカチで包まれた癖が少しついてしまっていた。
「どうでしょう?」
ヒサキは思考を半周回し、首を傾げることにした。
わざわざ聞いてくる程でもないことを畏まって聞いてくるということは、間違いなく何か意図がある。ならば促されるままの肯定はあまりよくはないのでは、と。
「わかりません。私のかもしれないですし、そうでもないかもしれません」
「わ、わからない?」
「はい。私から落ちるところを目撃したのなら私のなのでしょうが、そうでなければ……」
「ち、違うと?」
「というよりは、ここは魔法学校で何がどうなってもおかしくない場所ですから、なんとも判断できないです」
「そ、そうですか」
クィレルは気まずそうに視線だけをキョロキョロさせた。
「じ、じ、実は……昨日、トロールが……その、Ms.ヒカサキやMr.ポッター達が退治したものと別に、も、も、もう一体、こここのホグワーツに入り込んで、い、いたのですが……」
「え!?」
ヒサキはすぐにしらばっくれた。
「し、しかしながら、そのトロールは1階の廊下で、すすすすでに倒されていて……、そのすぐそばに、この髪の毛が落ちていたのですが……」
「ええ゛!?」
ヒサキはまずったなと内心焦りながら声をあげた。
だがすぐに持ち直し、さらにしらばっくれてみることにした。
「じゃあ、つい私が通ったかもしれないところまでトロールが歩いてきたということですか?!こわっ……!」
「そ……そ……それがですね……スリザリンとグリフィンドールの双方の寮とも離れた地点で、み、見付けたのですよ……!」
「……ええと……?」
「つ、つ、つまり、あの後にグリフィンドールやスリザリンの寮に向かってまっすぐ、か、か、帰っていたなら、こ、こここれがあそこに落ちているはずがないのです!とくに、スリザリン寮への、み、道を通り過ぎていないとおかしくて……」
「うーん……グリフィンドール寮に向かう途中で別れてそこから一人で帰ったんですけど、いつもと違う帰り道で実は少し迷っていたのかも……?」
「な、なるほど……つ、つ、つまり、心当たりないと、い、言いたいのですね?」
「そもそも心当たりあったら、こうして無事なわけないじゃないですか」
「ど、どうしてそう言えるのですか?」
「いや、私まだ入学してから数ヶ月だし、呪文だって、やっと浮遊呪文を習ったってクラスメイトに聞いたばかりなんですよ?出席すらしてないです」
「し、し、しかしあなたはすでに沢山の呪文を使えると、あまりにも有名です。特に、得意呪文だというスコージファイなど……ほ、本来はとても難しい呪文なのですよ。それが使えるというのなら……」
「スコージファイだけは特別ですよ。毎日唱えてますし、だからできるんですよ」
「ま、毎日?」
「手とかわざわざ水で洗うより、スコージファイで綺麗にしたほうが早いじゃないですか」
「で、で、ではスコージファイについてはとても卓越していると」
「いやそこまでではないですけど……やっぱ難しいですし」
「Ms.ヒカサキ。た、単刀直入に問います」
「はい……?」
クィレルは、この訊ね方では会話が堂々巡りをするだけだと判断し、やめた。
「あなたが、と、と、トロールを退治したのです。そ、そのように、私は確信しています」
「はい?いや流石に無理がありませんかね」
「あ、あなた以外に考えられないのです。あなたでなければ歩幅が狭く、小さすぎる」
「歩幅?」
「私は、と、トロールを倒した何者かが走り去る音をき、聞きました、ずいぶんと歩幅が狭い音でしたが、そして……、真新しい足跡を光らせて見付ける呪文を私は知っています。も、もうその痕跡はすぐ、私の方で、け、消させていただきましたが……」
「……足跡ですか?」
「Ms.ヒカサキ。す、少し歩いていただけますか」
「はあ……」
白々しくしらばっくれて指示通り動いてみながらも、ヒサキの内心はぐるぐると回っていた。
歩行を断っても、断らなくても、明らかにこれ以上しらばっくれてみることはできないだろうと。
その結果、どうされてしまうのかと。
クィレルが杖を振るうと、ヒサキの足跡が、星のように優しく、しかしハッキリとした輪郭で光り始めた。
「ま、ま、間違いない。この大きさと形、紛れもなく……」
ヒサキはその足跡を見下ろしたまま、どうすべきか考えに考えた。
「あ、あなたですね、トロールを弄び、倒したのは。く、暗がりに赤い閃光だけが見えましたが、トロールに効いてしまうほどに……鋭く強力な、し、失神呪文を放ったのも。そして、私の足音にすぐ気付いて走り去ったのも……」
「……えーと」
「く、黒い髪に、く、黒いローブ……や、闇に馴染む姿のおかげか、その姿は、見えませんでしたが……」
ヒサキはついに心の中でお手上げポーズをとった。
「その……、……怒りますか?」
足元を見つめる小さな彼女。
ようやくその口からの肯定を得たクィレルは微笑んだ。
「怒りませんよ」
そして、ヒサキの目の前にしゃがんだ。
ヒサキは恐る恐るとクィレルに上目を使ってその表情を確認した。
「ち、力を見せびらかさないのは、ええ、す、素晴らしいことです……。秘密にして欲しいのなら、そ、そうしましょう」
目線をキョロキョロ、落ち着かない様子で、しかし安心させようとしているのか、ヒサキの行いを肯定するような言葉とともに、頑張って笑顔を浮かべようとしている。
「あ、あなたがここまで、と、飛び抜けて優秀であったということには、お、驚きましたが……誇らしくも、あ、あります」
そういうお優しい方向で来るのか、とヒサキは内心で思った。
「(しかし妥当なところか。父親を重ねて懐いてるってことにしてるから、それっぽくいたほうが忠誠を維持していられる)」
ヒサキはクィレルの言葉を聞いてほっとしたようにお礼を言いながら、どうせそれとなく頼み込まれるのであろう指示を予想するなどした。
「(脅迫できる事実をひとつ握られたことは迂闊だったが、まあ、いいか。それも餌のひとつになってくれるだろう。最悪バラされても構わないし……いや、嫉妬や畏怖や駒への勧誘は面倒だから構いはするか)」
そして実に楽しく思考を回していた。