□14 ハロウィン翌日
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ピーキーが姿を消し、地上までの階段を登り切ったヒサキは一息深呼吸をし、足早に歩きだした。
せっせこ小走りに向かう先は大広間ではなく、闇の魔術に対する防衛術の教室だ。
§
軽い息切れと共に目的地へと到着したヒサキは、いつも訪ねるときのように教室のドアを四回ノックした。
返事はあったりなかったりまちまちであるが、どちらにせよ数秒おいてからドアノブを捻ることには変わりない。
今回は「ヒィッ」と声が返ってきたので、ヒサキは「失礼します」と返し、5秒開けてからそのドアノブを捻った。
開いたドアの先からむわっとニンニクの臭いが降りかかってくるこの感覚も、数日ぶりだ。
呼吸を整えながら入室して、静かにドアを閉める。
クィレルは生徒が座るテーブルの傍に立っていた。
相変わらず肩をちぢこめて、何やら畳まれたハンカチを手にしているようだった。
「すみません先生、久しぶりの授業で何かと手間取ってしまって、少し遅くなってしまいました」
「いいいいえ、そ、そんな、とんでもない!Ms.ヒカサキは、魔法薬学の授業は特に熱心で、いつも最後まで教室にの、の、残ってメモをまとめているのだと、き、聞いています……」
「苦手なんです」
うわ流石にご存じでいらっしゃった、とヒサキは内心まずそうな顔をしながらも、笑顔でクィレルの元へ近づいた。
「そ、そ、そんな謙遜を……しょ、初日から、とととっても優秀だと……ええ、そう、う、伺ってます」
「とんでもない。苦手だけれど、寮監の授業だから必死に予習しているだけですよ」
ニコニコとヒサキはクィレルの正面に立った。
「それで、忘れ物とは?」
ヒサキは首を傾げて見上げて上目に問いかけた。
クィレルはわざとらしく深呼吸をして、己を落ち着けるふりをしてから、意を決したように口を開いた。
「あ、あ、あのですね……その前に、聞きたいことが……」
「はい」
問うように返したヒサキの眼差しを、クィレルは苦し気に逸らした。
そしておもむろに、畳まれていたハンカチを広げ始めた。
「きき、昨日の…うう、と、トロールっ…の、ことです……」
クィレルの腕の位置は高く、広げたハンカチの上に何が乗っているかはヒサキには見えなかった。
「まさか、他の寮の、そこまで親しくしていなかった人のために、あんなお、おそろしいトロールに立ち向かうだなんて……思いもよらず……」
「入学前からの友達ですよ」
「ううっ……そ、そうでしたか、……し、し、しかしですね……私が言いたいのは……あ…あなたは確かに、言いましたが、恐ろしいものからは、誰を盾にしようと逃げ果せるのではなかったですか……?」
「あー、その時は心からそう思ってましたよ。けど、彼女――ハーマイオニーは私の大切な人だったから……逃げるよりも、守りたかったんです」
「そ、そうなのですか、な、なんて立派なのでしょう……」
「ありがとうございます」
くだらない前置きより早く本題に入りたかったので、ヒサキはタイミングを見て会話を区切るようにお礼を言った。
クィレルは、キュッと両目を閉じると、フーフーとまた心の準備をするように深呼吸を始した。そうして、「ところで――」と喋り出した。
「Ms.ヒサキは今日も素敵な髪の毛をし、していますね」
「そうですか?ありがとうございます」
「黒檀の様に高貴な黒で、一本ずつが太くて、癖が付きやすいのにまっすぐだから、整えやすく、――ここではとても珍しい」
「そうみたいですね」
「ときに」
そこでクィレルは、手の上に広げられたハンカチをそっとテーブルに置いた。
「こ、これは、あ、あなたの髪の毛で間違いありませんか?」
その上に乗っていたのは、一本の髪の毛だった。