□14 ハロウィン翌日
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遅れた授業の内容を教えてもらうこと自体は極めてありがたい申し出であり無下にする選択肢は悪手でしかない。
学力的にも心象的にも。
「倒れたのが月曜だから遅れてはいないが、今日の魔法薬学の予習もしておくか?」
「えっと、はい!ありがとうございますノットさん!!」
ヒサキは早々に目的と気持ちを切り替えることにした。
「……悪いんだけどさ、僕にだけ敬称の発音の格を下げるのを止めてくれないか?」
「へあっ!?すすすみませんノット様!ご不快だったならそのとき言ってくださればよろしかったのに…!」
「自分の教科書は今持ってるよね。魔法史の」
「あ、はい」
「魔法史の授業はあの教え方だから、これまででどれだけ覚えられているかの確認と復習もしておこう」
「ええっ!ご丁寧にありがとうございます!!」
「図書室が開く時間帯になるまで長引くようならそっちに移動するから」
「承知です」
§
数時間後、ことのほか身に着いておらず長引いたため、予定通り図書室へと場所を移す羽目になった。
「――揺れもほとんどなくて、医務室のドアを開けてくれたりとか、事情説明もしていただけて……入院してからも、きっと気を使わせないようにお見舞いを控えてくださって、その分こうやって退院後のことを考えて準備していただけて、こうして今も面倒を見ていただけて……、本当に、何から何まで。
先日からずっと、本当にありがとうございます」
その移動中にようやくタイミングを掴み直したヒサキは、先日の礼をやっと述べることができた。
しかしノットはふるふると首を横に振った。
「いや。危険なところを歩かせてしまった」
「危険なところ?」
「もう少し退院が遅れていれば、トロールと遭遇する危険のあった廊下をヒカサキは歩かなかった。僕は君の言葉に従って放っておけばよかったんだ。多少苦しくても、トロールに遭遇する危険にさらすよりは絶対にマシだった」
「あー。いや、そんなことないですよ」
ヒサキはノットがそんな罪悪感を持っていたなんて考えもしていなかった。
その罪悪感にこぎつけたい要求も特にない――あるとしたら勉強を教えて欲しいというぐらいだが既にしてもらっている――ので、そのこぎつけ先は好感度の肥やしへ。と瞬時に判断した。
「結局こうして元気ですし、昨日談話室で楽しい時間を過ごせたのはノットさんのおかげですし、授業の遅れや予習にだって付き合っていただけているのですから、私の方がむしろ貰い過ぎなほどですよ」
「敬称」
「ノット様」
「なら……これについて貸し借りはなし、それで終わりということにしよう」
ノットの言葉に気遣いを感じたヒサキは、クスと声を乗せず静かに笑った。
「優しいんですね」
「……」
これに対して、ノットはどのような反応したらいいか分からず、少しだけ口を閉ざした。
これがドラコや他の学友に言われたことなら簡単に言葉を練り上げて返せるのに、なぜわからないのか、わからなかった。
するとその事実がなんだか、不快というか、悔しい気持ちが湧いてきて、ノットは気付けば何も考えずに口を開き直した。
「マーリンの別名は?」突然の出題であった。
「魔法使いのプリンス」ヒサキはカツンと跳ね返るように反射で答えた。
「杖は何の木でできていた?」間髪入れずにノットは次の質問を出した。
「ヨーロッパナラ」ヒサキもまた答えた。
「マーリン勲章の略称は?」
「M……ッスゥー……あれ…M?……わかりません」
「『O.M.』だと教えただろ。人の機嫌を取るより優先することがあるようだな」
冷たく発されたノットの言葉。
しかしヒサキは軽く一息噴き出すように、眉を下げて笑った。
「これは一本取られてしまいましたね」
――今のように笑う時、片手で軽く口元を隠す癖。
先ほどのようにごく小さく笑う時は、少しだけ顔を逸らす癖――。
ふと、ノットはヒサキにそんな癖があることに気が付いた。
今まで目に入っていたことなのに、なぜ今まで気が付かなかったのかとノットは己の観察眼の無さを自覚した。
実のところ、的外れではあったのだが。
しかし本来よりもずっと早く『何度視界に映るものでも、識別を意識しなければ何も印象には残らない』ことを知るきっかけを得ることにはなっていた。
兎にも角にもノットは、これが、ヒサキに対する関心が今とても高まっている故の気付きであったという事実には、ついぞ気付けなかった。
自分だけ親し気に呼ばれる気恥ずかしさを、不快感と識別してしまうぐらいには。
一方のヒサキはと言えば、ニコニコ顔をくっつけたまま(ほーんノットはこういう照れ隠しの仕方をするのか)などと考えていた。