□13 ハロウィン
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「ふざけないでよ!」
ヒサキの告白は、ハーマイオニーにとって予想だにしなかった言葉だった。
「とても信じられないわ!」
「そうだよね」
泣きわめくハーマイオニーにヒサキは決して引き下がらず、はっきりとした優しい声をかけた。
「いままでならそれでもよかったけど、あなたがひとりぼっちで傷付いてると聞いたからには、放っておけないわ」
「ど――、どういうこと?」
「なかないで。って言いたいけど、泣いたり一人になることで楽になることもあるからそれを言う権利は私にはないけれど…」
ここまで言ったところでヒサキは話しながら少し考えを変えた。
ついいろいろな言葉を考えてはきたものの、相手は聡明とはいえその精神は明らかな少女なのだから、変に小難しくはできないな?と。
「あのね、ハーマイオニー。
私は、大好きなあなたが、こんな風に落ち込んで悲しんで苦しむのが嫌なの。
今は落ち着いても、このままならきっとまたハーマイオニーは今日のように泣いてしまうでしょう?そんなの、我慢できない。だから、あなたのことが大好きな友達がここにいるよってはっきり伝えたくて、力になりたくて、ここに来たの」
「……わからないわ」
なるべくゆっくり、柔らかく発音されたヒサキの言葉に、ハーマイオニーは静かに鼻をすすった。
「どうして?」
「どうしてって、何が?」
「私、あなたに好かれること何もしてない…、お見舞いにもいかなかったし、じ、授業では、あなたをたくさん睨んだわ……それに、ついさっきまで声だって忘れていたのよ…?」
自分の非を素直に羅列することのできたハーマイオニーの性根の良さに、ヒサキは微笑んだ。
「構わないよ。それでも私がハーマイオニーを好きな気持ちは変わらない」
「そんな言葉信じられないわ。だって、あなたの気持ちがわからないもの……」
そりゃそうだ、とヒサキは共感しながら頭の中の言葉を組み立てた。
弱っている子に、信じ込ませたい言葉を繰り返し聞かせることで刷り込みはできるのかという実験の一環でもあったので、変に突拍子が無くなっていることは承知の上だった。
ヒサキは言葉を組み終えて「あのね、ハーマイオニー」と切り出した。
「私、とても嬉しかったんだ」
「え…?」
また突拍子の無いタイトルを告げて、ヒサキは話し出した。
「私ね、嬉しかったよ、ハーマイオニー。
コンパートメントで初めて会ったとき、ハーマイオニーの方から、私に話しかけて、質問してくれて、ハッフルパフの方がいいってアドバイスまでして親切にしてくれたから。
私はそれが嬉しかったの。それであなたのことを好きになったわ」
「……たった、それだけのことで…?」
「たったそれだけのことでも、それをしてくれたのがあなただったわ」
「でも…でも…自分から話しかけることくらい誰でも出来る事よ…?それこそ、私でなくても…」
「それが出来る、と、それを実施した、じゃ雲泥の差なのよ、ハーマイオニー。
誰でも出来るからって、誰もがするわけじゃないわ」
「それは…そうだけど」
「きっとハーマイオニーの思っている通り、私は誰でもよかったし、それがハーマイオニーだったってだけだけど。
生成された事実と、今の私の、この気持ちは本物だわ。
……それとも、こんな理由じゃ、私はハーマイオニーを好きになったらダメ?」
「……ダメじゃ、ないわ」
「ありがとう、ハーマイオニー」
嬉しそうに、優しく、安堵を滲ませた声。
ヒサキは内心でふうとひと心地つき、その『安堵感』だけを切り取り、そこに乗せてお礼を言った。
「でも、……ごめんね、それでも私、すぐには信じられないわ。だってあなたはスリザリンだもの…」
「いいのよ。私の気持ちを否定しないでいてくれただけで。チャンスがもらえただけで。心の整理をしながら、ゆっくりで」
ハーマイオニーから『すぐには』という、今後の行動次第で『いずれは』と同義語になり得る言葉を引き出したヒサキは、自分に及第点を下した。
たとえその言葉が、表面上やその場の雰囲気に流されてのことであろうと、好意を拒否させることなく認めさせたという事実が生成された。
人には自己矛盾を避けたがる心理がある。
ハーマイオニーは小説のメインキャラクターに選ばれる程度には性根が清いので、あとは彼女が良いように解釈して、良きように計らってくれるくれるだろうと。
ああ疲れた。もう会話を終わらせにかかってもいいだろう、と内心言ちながらヒサキは続きの言葉を繰り出した。
「ただ、今夜は傍にいていい?ハーマイオニーを放っといてパーティーなんて楽しめないから」
「……うん」
「ありがとう」
「私の方こそ…」
返ってきた了承にヒサキは軽くガッツポーズを決めた。
そして、なら隣の個室にでも居ようかしらと思ったそのときだった。
ヒサキの耳が、待ちかねた足音を拾ったのは。
(思ったより早かったな…。いっそ話中に来てくれても全然よかったのに)
それからハーマイオニーが鼻をかんだ音も聞こえてきて、おやとヒサキは個室のドアを見上げた。