□13 ハロウィン
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日本人特有の小さな身体と回避性能を駆使して人の大波を抜け出したヒサキは、そのまま目立たぬよう通路の隅をコントロール重視の速度で駆けた。
見知った顔に捕まると厄介だなと思いながら、しかしすぐに息が上がるため、頻繁に歩きを挟みながらヒサキは進んだ。
ひとけがあるところを抜けてからは、もし大広間に向かうクィレルと遭遇したとしたらと考えが浮かんだ。
するときっとトロール騒動に紛れ込めず、グリフィンドール主人公3人組に近付いて本編閲覧ルートを歩もうという本来の意図からは外れてしまうが。
それはそれでクィレルの様子と言葉選び次第では裏ルート解放出来そうな気がしてアリかもしれないと満更なく、もしもの言葉を考えながら引き続きヒサキは足を進めた。
その思考は無駄に終わったが。
これといって邪魔者に立ち塞がられることや鉢合わせすることもなく、ヒサキは目的のトイレまで到着した。
トロールが侵入すべきドアは、想定通り空きっぱなしだ。
近寄る際には足音を殺し、そっと耳をすませたが、廊下からは泣き声らしき音はなにも聞こえなかった。
ならばヒサキは気配を殺して女子トイレの敷居をゆっくり跨いだ。
そこでようやく気配を感じた。
一番奥の個室から、塞ぎ混むような、泣き止みはしたが興奮冷めやらぬような呼吸が聞こえてきた。
静まりかえったトイレがその僅かな音を反響させていた。
(さすがに午後いっぱい泣きっぱなしはないか)
ヒサキは軽く思案し、やがて、そっと足音を響かせることにした。
足音を聞いてか、気配は息をひそめたのか、音を消した。
気付かれずいて欲しいのだろう。
そして放っておいて欲しいのだろうが、そうはいかないとヒサキは悪者のような薄笑いを浮かべた。
ヒサキの足は問答無用で一番奥の個室前に止まった。
そのまま静かに、トントンと切り替えるように自分の頬を人差し指で叩けば、瞬間、ヒサキの表情と姿勢は一変した。
「あの…ハーマイオニー」
「…誰?」
(いや誰は草)
ヒサキは思わず音なく息を飲んで噴き出しそうな口元を押さえた。
なににしても、個室の中から返ってきた少女の声は、確かに痛々しく擦れていて、今にも泣きだしてしまいそうだった。
「ここに…わ、私がいるって、い、いったい誰に聞いたの…?!」
「私よ、ハーマイオニー」
ヒサキはなるべく優しく言った。
「し――知らない声だわ!あなたは、いったい誰なの?!な、何しに来たの!」
(そういえば最近言葉交わしてなかったけども。いや授業で声聞いてたはずなんやが…本気でもあてつけの拒絶でも嫌われすぎててもう草。歳並の私なら傷付いてたけども)
ヒサキはハーマイオニーの言葉に、少しだけ傷付いたが、思考を回して傷付いていないふりをした。
両手を寄せて、俯きがちに、窺うようなまなざしでヒサキは個室のドアを見上げた。
健気な空気を纏い直して、ヒサキは少し悲しそうな声を意識して喉の上部を覆うように力を込めつつ口角を少し上げた。
「ヒサキだよ。ハーマイオニー」
「ヒサキですって?」
ハーマイオニーは声を低めて聞き返した。
それに対してヒサキは優しく肯定を返したが、そんなこと聞こえていなかったハーマイオニーは、打ちのめされたようなしゃくり声をあげた。
「あ――ごめんね、ハーマイオニー……。私、あなたを困らせるつもりじゃなかったの」
しゃくりあげる音を聞いたヒサキはとりあえずすぐに謝った。
「び――病気のあなたが、どうしてここにいるのよ…?」
「さっき退院したの。それで、大広間に行こうとしたら、ハーマイオニーが一人で泣いているって聞いて……」
「わ、私を馬鹿にしに来たのね!!」ハーマイオニーは、手負いの獣が噛み付くように叫んだ。「帰ってよ!ええ、私は確かにここで泣いてたわ!よかったわね!!スリザリンのテーブルで、わ、私を笑いものにすればいいんだわ!」
ヒサキはハーマイオニーの言葉を最後まで聞いてから、口を開いた。
「しないわ。ハーマイオニー」
悲し気に、優し気に、案じるように個室のドアを見つめて、少し指先をいじった。
ヒサキはようやく、自意識の空気を、予定していたものに切り替え終えた。
「誓ってそんなことはしないわ。だって私、ハーマイオニーが好きだもの」