□12 日常から抜粋した非日常
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ヒサキはその日、どうせなら仮病で寝込みたかったと強く考えることとなる。
朦朧とした思考と、侵食する苦痛のせいで、折角の見舞い人を煩わしく思った。
素晴らしい物語の中の人達を煩わしがる気持ちが本当に嫌だった。
それくらいには、ヒサキを見舞いに来た人は予想外に多かった。
§
診断の後、ベッドのに寝かされとにかく眠るよう言いつけられたヒサキは、体調の悪さもあり、抵抗なく意識を手放した。
はじめに意識を取り戻したのは、10時を回った頃だった。
意図的に前髪を退かされる感触に、ヒサキは目を覚ました。
近くで他者が自分の意識外から接近ないし接触している。それを感じ取った瞬間、ヒサキの意識は普段の寝起きの悪さなど飛び超えて急激に跳ね上がった。
トラウマなどはなく単にそういう性分だった。
息を呑みながらぐわっと目を開けて緊張したヒサキの視界に、銀色が映った。
それが何かすぐに識別できたヒサキは、固めた表情のまま大きく息を吐いて緊張と恐怖に強張っていた全身から少しだけ力を抜いた。
驚いたように手を離した義父のキラキラとした瞳が、そっと細められた。
「すまんのう。怖がらせてしまったようじゃ」
ダンブルドアは、声色を乗せず、息だけのヒソヒソ声で喋った。
仕切りがあるとはいえ、この部屋のベッドと病人はヒサキだけではないので、その配慮だろうとすぐにヒサキは思い当たった。
声を聞いているうちにヒサキは固まった表情を改めた。
「話は聞いておる。君には、随分と無理をさせてしまった」
「私が勝手に倒れたと思ってましたが。もしや仕向けたのですか?」
ゆだる脳で、ある程度の芸を返して答えた。
芸をする余裕がなければヒサキは、無理をさせられた覚えはないから謝るなと伝えただろう。
全く不要な装飾であるが、鈍った思考はそれに気づけなかった。
そんなヒサキにダンブルドアは、フムと素振りを返した。
「意図的に仕向けたかという質問には否と答えさせて貰うとしよう。じゃが、君はもっと、のびのびと生活しても良いのだと、そう言い聞かせることが出来なかったわしに責任がないわけでもない」
「とんでもない。私はいつだって自由でした」
「しかし君はこうして心労により倒れた」
「いつも、環境が変わると一度は体調を崩すんです。いつものことです。何の責任もありません」
ヒサキは未だ居残る熱と苦痛のなかでも、すぐに『酷い環境で育ったせいで賢くならざるを得なかった可哀想な女の子』になることができた。
そういう設定を読み込んだ上で深い思考無くそういう条件反射で声を発した。
こういう自己暗示はヒサキの得意だった。
ダンブルドアはじっとヒサキを見つめた。
ヒサキは人の目から視線をずらして話す癖がある。
たとえこちらを見ているようにみえても実のところ額や背後を見ていて、どうしても目が合わないのは承知していることなので、それは特に構わなかった。
ただ、そういう視線使いを覚えている彼女は、それを使いこなすには若すぎた。
「君は、歳並外れすぎる。この言葉の意図をきっと察してしまう程度には」
言葉遣いも、対人における妙な寛容さも、どこか悟った様子も、人によって全く変えてしまう振る舞いも、先程聞いた生活周期も、肝心なことは誰にも頼ろうとしない姿勢も、他にも数えきれないほど。
ダンブルドアの言葉に、ヒサキは眼前で手をヒラヒラ力無く横に降った。
「大袈裟ですよ。日本は勤勉に見せ掛けた怠惰と察しの国ですよ。私はそれはもう例えば、ハリーやドラコなどとは比べ物にならないくらい愛され恵まれ幸せに生きてきましたよ。だから少し聞き分けが良いだけの阿呆者です」
「わしは、日本の健やかな子供を知っておるよ」
窓を割ったり、イタズラしたり、些細なことでいじめを始めたり。
少なくとも君よりずっと子供らしい。言外の言葉を察したヒサキは力無く一息吹き出して、「そういえば今の日本はバブル完全崩壊して間もないときだっけね」と笑った。
「今と私の時代は違います。子供に子供でいて欲しいと願う大人は代わり映えしないようですが。いえ、大抵はそうですが。それを否定する子供など得てして。ええ、そうですとも、いや、そうじゃなくて……」
フーッとヒサキは苦し気に長く息を吐き出した。
今の自分では収集がつかなくなりそうだったし、今そんな体力はない。会話のために頭を使い、とてもぐらぐらしていた。
「謝りに来たのなら、必要はありません。お忙しい中、お見舞いに来てくれてありがとうございました」
ヒサキは言外に帰れという意図を伝えた。
ダンブルドアはそれを察したように物分かり良く頷いた。
「ゆっくり休みなさい。また近いうちに、色々と話そう」
そう言ってダンブルドアは医務室を出ていった。
ヒサキはもう一度長く息を吐き出した。
いくら深呼吸しようとちっとも良くならない息苦しさとともに、再度の眠りについた。
§
次に目覚めたのは昼前だった。
マダム・ポンフリーに他の起き上がれそうな患者共々起こされ、ベッドで病人食を摂ったのだが。
ゆっくり味わいたいと思えるような味ではなかったためさっさと食いきれば、早食いは体によくありませんとたしなめられながら食器を下げられた。
息苦しさと寒気の弱まりを感じ、己の鞄を抱き直して再び横になったそのとき、来客はやって来た。
同級生複数が面会に来た旨を伝えに来たマダム・ポンフリーに返事をして、そして連れてこられた人数はヒサキの想像を遥かに越えた人数だった。
ドラコ、クラッブ、ゴイルはまだ予想できたのだが。
ザビニ、パンジー、ダフネ、トレース、サリーの来訪については想定外だった。
来てない同級生はノットとミリセントだけである。
それからなぜか一人浮いているのが最上級生のテレンスだった。
いい家柄が多いだけあって、皆一様に大きな声を出したりする事はなく、まあまあお行儀はよかった。
口々に「辛そうだな」「具合が悪いのなら言って欲しかった」「ハロウィンには治るのか?」という言葉が来る辺り、心労関連の詳細は聞いていないようでヒサキは安心した。
また、女子の話を聞いていると、授業で些細な怪我したときはいつも治してくれて、幼子のように好意を示してくれて、率先して面倒なことを楽しそうにやってくれるヒサキにある程度情を持っていたことにも気付いた。
ダフネに手を包まれて、それを見かねて仲良しだったのかと質問したザビニに、彼女が「紙で指を切っちゃったとき、ヒサキが治してくれたの」と返していた。
パンジーはドラコへ優しい子アピールするために来たのかなとヒサキは思ったが、それもあるが、どうやら何かと笑顔で押し付けられてくれるヒサキに、少しはほだされているようだった。
テレンスは「今日の勉強に付き合ってくれる約束だったけど、気にしないでくれよ、また治ってからでいいからな」と言って小さなお菓子の包みをサイドテーブルに置いてすぐ退室した。
そのおかげで、スリザリンのシーカーと懇意にしてるのかと問い詰められたり偶々日本の文化について興味があったようだから云々話すはめになったのは面倒だったが。
それぞれの言葉をいなして疲れ始めたところで、マダム・ポンフリーが昼休みがもうすぐ終わることを伝えてきて面会は終了した。
意外と慕われてることを知れて、ヒサキは疲れともに、スリザリンの同胞愛に感心し再び眠りについた。