□12 日常から抜粋した非日常
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ハリーがニンバス2000を手に入れた日。
ヒサキはいつものように、ふくろうが来る前に朝食を済ませて大広間を後にしていため、その現場を目撃することはなかった。
それをせずとも、箒の到着を確認するすべはいくらでもあったし、むしろ確認するまでもなくドラコがそれを授業の合間にスリザリン内に言いふらしていた。
これについてヒサキは興味も沸かなかったので、知らぬ存ぜぬふりをするとにしたのだが、どうしてかそうもいかなかった。
ハリーに箒が送られてきた、その翌日のことだった。
図書室で宿題を終え、夕食時にけっこう遅れてやってきたヒサキが大広間に入る前に、すでに食事を終えたハリーとロンが、興奮冷めやらぬ様子でヒサキを捕まえたのだ。
案の定、ニンバス2000が送られてきたことや、その性能の良さを語られるまではよかった。
しかしながら、
「ヒサキにも乗ってみてほしいんだ!」
「ええ…」
まさかその数日後、本当にクィディッチ練習場に連れていかれて、グリフィンドールのクィディッチチームの練習が始まる前の、メンバーが集まる前に、ぜひニンバス2000に乗ってみてと勧められたのは予想外中の予想外だった。
「僕が初めてでもあんなに飛べたのは、ヒサキが飛ぶところを見て勇気をもらったからでもあるんだ!だから…ぜひ飛んでみてよ!あのときの箒より、ずっとすごいんだ!」
ハリーはとにかくこの素晴らしさをヒサキと分かち合いたかった。
自分とよく似たヒサキなら、自分が素晴らしいと思ったものの良さが絶対にわかるはずだからと期待した。
とうのヒサキは箒で飛ぶのは、好きでも嫌いでもなかったわけだが。
「ありがとうハル。少し借りるね」
しかし変に断って食い下がられるうちにグリフィンドールのチームメンバーが集結するなんて面倒展開になりかねず――あまり良くないと判断したヒサキは笑顔でニンバス2000に跨った。
「ご主人様じゃなくてごめんね、少しだけよろしくね」と早口に呟いてからヒサキは地を蹴り、1分ほど遊ぶように飛び回った。
バレルロール、リバース飛行、急ブレーキ、ダイブとプルアップ、宙返り、仕上げに針の糸通し。
基本は利き手の片手運転で、リスクを感じたらすかさず両手に。
ホグミスの授業で覚えていた動きを片っ端から思い出した順で試した。
ブランコでうんと高く打ち上げられ、そのまま射出されたような浮遊感にも似る、――ヒサキは丁度10歳頃にその体験があり、そのまま落ちて囲いの鉄棒に背骨を強打した記憶もあるが、今は箒なのでそうはならないが感覚の参考にはなった。
その感覚をなるべく長く保ちつつ、全身でコントロールしたうえで、優しくキャッチするような。
階段を一段飛ばしてかけ降り、落ちるような感覚を楽しむような。
視界に気をやるのを放棄し、観客のようにぼうっとさせ、首から下の動作だけに神経を集中させてみれば恐怖感は薄れた。
長いローブとスカートはずっとバタバタはためいていた。
黒くて長くて豊かな髪は、ずっと、踊る炎のようになびいていた。
ヒサキは全く以て、楽しかったが、楽しむことができたのだが、二度目を乞いたいとも思えなかった。
とても自由で融通の利きすぎる『自転車』に「ありがとう」と呟いてヒサキは地上に降りた。
「ありがとうハル!確かにこれは手触りも座り心地も速さも操作性も見た目のカッコよさも全部が抜群で、すごく素晴らしい箒だね」
ヒサキはハリーの目の前に着地し、すぐにニンバス2000を差し出した。
ハリーはキラキラとした表情でヒサキを見下ろし、ニンバス2000を受け取った。
「さすがヒサキだ!」
ヒサキの飛行は、ハリーの見込み通りだった。
小さくて痩せっぽち、マグル育ち、もしかしたらひどい環境で育った、初めての箒を使いこなす。彼女との共通点が増える度に、ハリーは嬉しい気持ちになった。
彼女に感心すると、なんだか自分が感心されたような、不思議で気持ちのいい感覚になった。
「素直で性能の良い箒のおかげだよ。ハルには負けるさ」
ヒサキは空いた両手で、乱れた黒髪を直しながら謙遜し、ハリーを褒めた。
ハリーは嬉しそうにした。とても上機嫌だった。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るね。クィディッチの練習頑張って」
ハリーが上機嫌になったことで、目的は達成されたと判断したヒサキは、まだ誰も来てないうちに練習場を出ようとした。
手を軽く上げて出口へと足を向けた――ところで、彼女は「あらー」と笑みの種類を気まずいときのそれに変えた。
必然的にハリーも出口へと目を向けた。
難しい顔をしたウッドがこちらにやって来るところだった。
どう見ても機嫌はよくなさそうだった。
「ちょっと見ていたが、うん、実に見事な飛行だった。しかし、どうしてスリザリンがここにいるんだ?ハリー」
ウッドは腕を組んでヒサキをちらりと見てから、ハリーに話しかけた。
しかしハリーは、彼女と遊んでいたことを後ろめたいなんて思わなかったし、自分が悪いことをしているとも思わなかったので、迷い無く真実を答えた。
「僕の友達なんです。僕と同じ学年で、彼女は僕と同じくらい飛ぶのがうまいんです」
買い被りすぎです。とヒサキは言いたくなったが、口を挟むべきではないと判断して静かにしていた。
ウッドはハリーの言葉に最初はただ驚いた顔をしていた。
「友達だって!?スリザリンで……しかもハリーと同じくらい飛ぶのがうまい……?」
そう言っているうちにウッドは、みるみる豆鉄砲を食らったように顔を歪めていった。
「まさか……スリザリンにも強力な新しい選手……シーカーが入るって……?」
大変な誤解である。
ヒサキはたまらず、サッと真っ直ぐに手を上げた。
ウッドとハリーはすぐに気付いた。
視線を受けてもヒサキは許可を求めるように黙ってウッドを見つめていたので、ウッドはつい「どうぞ」と言った。
ヒサキは「誤解です」と切り出した。「スリザリンのクィディッチチームに私は入りませんし、今後加入する予定もありませんのでご安心ください」
ハリーが「そうなの?」と意外そうに口を挟んできたのでヒサキはつい「え、そうだよ」と返した。
それはそれとして、ヒサキは再びウッドに顔を向けて会釈をした。
「前後しましたが自己紹介します。はじめまして。私はヒサキ・ヒカサキと申します。私はスリザリンですが、組分けされる前からハリーとは友達で、フレッドとジョージ・ウィーズリーや、リー・ジョーダンとも仲良くさせてもらってます」
ヒサキは愛想よくウッドを見上げた。
ウッドはなにか思い出したようにあっと声を上げた。
「思い出したぞ、お前、組分けのときハッフルパフって言いかけられた一年生だろう!」
「あ はい」
「ということは、ジョージが言ってたスリザリンのスリザリンらしくないおチビっていうのがお前のことか!?」
「確かにおチビって呼ばれてますね。たぶんそうじゃないでしょうかね」
ウッドは「なるほど」と唸るように言った。
そこにヒサキは付け加えるように言った。
「今回は少しだけハリーと遊んでいただけで、他意はありません。お邪魔する気もなかったので、これからお城に戻るところだったんです」
その言葉に、ウッドは納得したようだった。
ただ、完全に信用したわけではなかったので「スリザリンになんの情報も漏らすなよ」と念を押したうえで、城に戻るヒサキを試すために今回は見逃すことにした。
「またねヒサキ!」
「うん、また!」
かくしてハリーと手を振り合いながら、ヒサキは練習場をあとにした。