□11 体育の授業
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(はー言っちゃった言っちゃった言っちゃいました酷い家庭環境で可哀相な女の子ムーブ!)
走り込んで上がった息を整えながら、ヒサキは階段を下っていた。
四階の『禁じられた廊下』へと足を向けて。
(さあ次のイベントは一週間後だ。ハリーに箒が来る。それ以降はハロウィンまでの約二ヵ月間何もないから……自由だーーー!!おーほほほほーー!!!!)
ヒサキは足音を最低限に歩き、四階の廊下の入り口を掠めるように通りがかった。
もしやクィレルがいるかもと目を向けたら、スネイプがこちらに背を向けて立って居るのを見かけた。
(一人か)
ヒサキはふーんと口許を上げた。
心の中でここを通りがかった理由を考えながら、そっと廊下を後に大広間へと向かった。
§
その日の魔法薬学では、ヒサキはゴイルと組み、ことなげもなく薬を完成させた。
予備知識がなくとも、ヒサキの薬はスムーズに作られ、何の問題もなかった。
もとより、適切と納得できる指示を、その通り行使するのはヒサキにとって当然に行うべきことで、自然な事でもあった。
――毎日システムの中枢におけるオペレーションをツーマンセルで行う仕事をしていた経験から、システムオペレーションに限らずとも、些細な自己判断の恐ろしさと指示通り正確に行うことの大切さ、不明点を質問するハードルの低さが培われていた――。
なお、最初はゴイルに様子見もかねて作業を任せてみたのだが――社会人経験のあるヒサキにとってだが――とにかく全く以てすっとろく、見てられなかった為、手出しはさせずノートだけ取るようにむしろ頼んだ。
どれだけすっとろかったかと言えば、
道具の扱いはぞんざいで危なっかしく、今手順で不要なものだろうが興味がわいたら最優先にそれでふざけたがるし、行動はどんくさいうえに、自分の体積を自覚してないのかやたらとぶつけて動かしたり倒しかけるし、さらには壊滅的に忘れっぽく、その上プライドからか忘れたともわからないとも言いすらせず、一人で思い出そうと悩み続けて硬直するので、助け舟として教科書を確認するよう言って渡しても、今どの手順をやっているのか探すのにすら時間がかかったところで、ついにヒサキは笑顔で指を鳴らしてゴイルを見限ったのだった。
余談だがその時、指パッチン音に気付いたスネイプに軽く睨まれた。
ヒサキは教科書の手順通り、かつ、たまに教科書と食い違うスネイプの指示は聞き逃すことなく従って、次の工程の合間になるなり後でまとめるための備忘メモに殴り書いた。
何かをしながらも耳に入る情報は鋭くキャッチし、すぐさま理解・反映させるなどヒサキにとって何も難しくはないどころか、癖と言っても過言ではなかった。
――厳しいコールセンターに在籍していた経験もあり、鳴り止まぬクレームおよび依頼の電話対応と報告書作成と技術者派遣業務を同時に行いながらも背後周囲の上司同僚の声による最新情報を然りと聞きつつ適切な判断を下さなくては、それもスピード勝負で行わなければいけなかった頃に身に着けざるを得なかった能力だ――。
とにかくヒサキにとって、魔法薬学は難しい科目ではなかった。
むしろ、スネイプの指示を優先した分だけ成果物のグレードが上がるところは、『教師の話を聞いただけ得があり評価も得られる』ため、先生を信じて真面目に話を聞けば聞くほど報われ易くなるという、素晴らしい授業だったことに気付いた。
そういう授業をする恩師をヒサキは学生時代持っていたし、ヒサキはその教師をその時期取っていた授業における教師の中で一番尊敬していたし好きだった。
その教師は高圧的で話が難しく、出題の正解を全く褒めず、間違いにとりわけ厳しかった分、9割以上の生徒に嫌われていた。
が、要求レベル以上の回答や実績を出したときだけは必ず感心したように褒めたし、質問すれば必ず明確な回答が返ってきた(これができる教師は結構珍しい)し、役に立たない無駄話や間違った事は一度たりとも言わなかった。ついでに言えば裏技に詳しかったし、生徒には愛情をしっかり持っていた。
その恩師とスネイプのやり方はよく似ていると思った。
スネイプの方は多少のひいき目があるところだけが残念だが。
(あの先生元気かなぁ)
そんなことを考えながら、ヒサキは前週通りスネイプに翻訳薬の追加を受け取って鞄に沈めた。
「そういえば先生」
そしてスネイプを見上げた。
「今朝ちょっと人付き合いで大広間までの道迂回しようとしたら大いに迷った時に通りがかったんですけど、先生今朝禁止されてる四階の廊下に居ませんでしたか?」
スネイプは、気に障ったようにヒサキを睨みつけた。
「なぜそのようなことを聞く?」
「いや見かけたからですけど」
「足音はなかったと記憶しているが?」
「ああ。存在を認知させたいとき以外はなるべく足音鳴らさないようにしてるんですよ。癖で」
「それで、我輩がそこに居たことで何か不都合でも?」
「いや全く。ただ、その背中は何をしてたのかなーと」
ヒサキの言葉に顔を歪ませていた大コウモリは、フンとその鉤鼻を鳴らした。
「見回りだ。禁止されたところにわざわざ入りたがるバカ共が居るせいでな」
「ほるほどです。それって他の先生と交替なんです?それとも毎朝スネイプ先生が?」
バンッ!とテーブルを叩く音が鋭く弾け、ヒサキの肩が跳ねた。
当然、スネイプがその手とデスクで出した音だった。
「それが、Ms.ヒカサキ?……君と、何の関係があると?――君があの双子の問題児共と懇意にしている事は、勿論我輩も存じ上げているところだが――もしや、何かそこにご予定でも?」
せせら笑うように、しかし強く咎めるような語調でスネイプが言った。
「アッ無いっす。無いっす。スミマセン」
ヒサキは反射のように両手と首を横にブンブンと振って、ご機嫌を伺うように引き下がった。
「ならば直ちに出ていけ!いつまで無駄話を続けるつもりだ?」
「アッセンシター!シチャシャース!センセンシャル!!」
そのまま追い出されるようにしてヒサキは魔法薬学の準備室から転がり出て、教室からも飛び出した。
そこからは歩きとなったが。
大広間へ向かうべく階段を登る最中、ヒサキはふと、わき目をふった。
(双子と私が交流してる事を知ってるなら私がクィレルに懐いてることもとっくにご存じだろうに言及されなかったな)
ふむとヒサキはまた一歩、小さな足を踏み出した。
(まだその必要が無いと判断したかもしくは……こっちも見極め期間中かね?)
階段を登りきったところで、ヒサキは数度スキップをした。
(だったら物凄く面白い!)