□11 体育の授業
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「右手を箒の上に突き出して」生徒たちが配置についたのを確認したフーチが声をあげた。「そして、『上がれ!』と言う」
フーチが言い終わるや否や、すぐにあちこちから「上がれ!」と叫ぶ声が上がった。
ヒサキはまず、何も言わずあたりを見回した。
ハリーの箒が一言目にその手へ収まったり、ハーマイオニーの箒がコロリと転がるのをバッチリ見届けた。
原作の動作をしっかり目撃した喜びと感動に歓声上げたくなったのを我慢しつつ満足したヒサキは早々に気持ちを切り替えた。
意識を自分の状況にシフトしたヒサキはマイペースに手をかざして、優しく「上がれ」と言った。
箒は一度目にしてフワと浮かび、大人しくヒサキの手の平に柄を押し当てた。
それを掴み「ありがとう」と呟けば、箒は身を委ねるように浮力を消した。
(すごい魔力あるということになってるわけだし、まあ予想通りではある)
ヒサキは箒を縦に持ち替え、スリザリン側を見た。
すぐ隣に居た、すでに箒を手にしていたザビニと目が合い「さすがだな」と言われた。
ヒサキは「そっちこそ」と微笑んで会話を切りつつ数歩下がり、スリザリン側の列の背中を見渡した。
ドラコはしっかり箒を手にしていたが、その両隣りのクラッブとゴイルはまだのようだ。
ノットはたった今、箒を手にしたようだった。
女の子達に目を向ければ、パンジーとミリセントなどはまだだったが、ダフネやサリーがすでに箒を手にしていた。
暫くして、ようやく全員が箒の同意を経て手に収め、ヒサキも元の位置に戻った。
そうして授業の段階も進み、箒のまたがり方や、握り方の教授を経て、ようやく飛び立つところまで来た。
「さあ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りてきてください。笛を吹いたらですよ」
フーチの言葉を聞きながら、いよいよだとヒサキは真っ青な顔で震えているネビルへと視線を向けた。
「一、二の――こら、戻ってきなさい!」
フーチが大声を上げ、ヒサキは他の生徒同様にそれを目で追った。
(なるほど)
ネビルの飛び立ち方は、小説版の原作通りだった。
彼の箒は、映画版のように緩急つけてやたらめったら飛び回るではなく、ひたすらに真っ直ぐと急上昇していった。
やがてネビルは声にならない叫びと共に落下して来た。
鈍い音を立て、何かが折れる嫌な音も聞こえた。が、ヒサキは上空の箒を見続けた。
痛々しそうで見るのが嫌だったのもあるが、それよりも。
さらに高く高く昇り続ける箒が、禁じられた森の方へに向けてゆらゆら漂いはじめた時をねらってヒサキは地を蹴った。
「おい!どこに行くんだ!?」
「こんな時に何ですか!?まあ、何を考えているのですか!戻りなさい!」
隣に居たザビニと、それに気付いたフーチの叫びが地上の方で聞こえた。
(余計な事を)ヒサキは一番に声を上げたザビニに舌打ちをしたが(前もって口止めしとかなかった私が悪いか)と考えてすぐに切り替えた。
教えられたとおりのフォームでヒサキは上昇した。
グローブ越しに感じる箒の感触を逃さず掴み、進路へ導くように力を籠め、速度を上げた。
そのような加速と上昇を始めてすぐにはたと、ヒサキは気付いた。
これは、前後への力でスピードが増減するだけの、坂を下る自転車のようなものだと。
後は簡単だった。
ヒサキは弾丸のようなスピードで垂直に加速し、遥か上空をふらふら漂う箒のところまであっという間に追いつくと危なげなく減速しながら平行姿勢に戻った。
そのまま右手を放し、操作性を確かめるように片手運転ですいすいと舵を切りつつ、漂う箒に横付けした。
「大変だったね。おいで」
なお禁じられた森の方へふらふらと止まらない箒に向けて、ヒサキは優しく語り掛けながら右手を伸ばした。
漂っていた箒は拒む様に暴れるでもなく、すんなりとヒサキに掴まれ、浮力を消した。
「っどぉっ!?っとと……はは、受け入れてくれてありがとう」
子供の小さな手腕に優しくない突然の重みにヒサキは体勢を崩しかけたが、とっさにその箒の重みを軸にして横へ回転し、箒を自分の頭上にすることでバランスを持ち直した。
(自転車と違って上下にも融通の利くのは箒の利点だなうん。まあ全方向に力加えられちゃうのは利点でもあり欠点でもあるけど)
安定した中で、掴んだ箒を小脇に抱えながらヒサキは地上へ向かった。
(チャリ通経験あってよかったー)
ヒューッと落ちるように下降し、上空5mほどから急減速し、そうしてヒサキはゆっくりと地上に降り立った。
ヒサキが地上を離れてから、ほんの30秒にも満たない帰還だった。