□11 体育の授業
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名前を呼ばれたザビニは相変わらず、ドラコとはまた違った、高慢そうな雰囲気を纏っている。
彼はまた無遠慮にヒサキの髪を触り始めた。
「うーん。同じ黒でもこんなに違うなんてな。少しも縮れてなくて、一本一本が太くて、でも固くはなくてしなやか。けど完全なストレートというわけでもないんだな、少しうねってる。まあちょっぴり痛んでるけど」
「そこまで厳重な手入れしてませんからね」
いい気分ではないが、嫌がるほどでもなかったヒサキはそのままニコニコとザビニを見上げた。
ザビニはそんなヒサキを見下げて、どう見てもプライマリースクールの低学年ほどにしか見えなくて、改めて同い年という事実を疑いたくなった。
「ところで、一人ぼっち?仲間外れなら…」
「ではないです。ただ、授業が始まる前に、今回使う箒をよく見ていたかったので」
「こんなボロ箒を?なんでそんなこと?」
「使うからですよ」きょとんと首を傾げてヒサキは言った。「身を委ねる道具の情報はいくら知っても損はないと個人的に思うので」
そう言って彼女は、とっさに意味を理解できず返答できなかったザビニから視線を外した。
「……」
ザビニはその背中を黙って見つめた。
しゃがみこんで箒に目を向けるヒサキはやはり細くてちっぽけで幼児のように見える。
けれども。と、ザビニは今の会話を思い返した。
大人たちが使うような、少し難しい言葉をいくつも、まるで慣れ切ったように使いこなし、当然のように紡ぐのだ。彼女は。
ずっと上級生の、テレンスやマーカスの会話にも簡単についていく。
知識や学力のみは及ばずとも、裏を返せばそれ以外において、淀みなく会話を成立させることがヒサキには出来ていた。
会話の流れを汲み、難しい言葉を解し、ややこしく記載された文章を整理してみせたり、意見するときは謙虚に相手を持ち上げながら角を立てずに出す。
いっそ精神的なアドバイスを、プライドを傷つけることなくさり気に与えすらしていたところを、ザビニは先日の図書室で目撃していた。
無邪気で幼く危機感もなく誰にでも懐いていく、小さくて可愛らしい見た目とは裏腹に、――その言動というか言葉選びというか――やけに知的で、つまりヒサキは、今ザビニにとって一番不思議な女の子だった。
「僕と友達にならないか?」ザビニは気付けばそう言っていた。
「とっくにお友達だと思ってました」ヒサキは軽々しく返した。
「とっくに?」
「同じ寮で同じ学年なら皆もうお友達だと思ってますから」
「君は友達に頭を下げたり、ファミリーネームにMr.をつけて呼ぶのか?」
「現に」
ヒサキは振り返った。
いつものように笑っている。だから何かと言い出しやすいのかもしれない。
「……君の言う友達と僕の言う友達は少し違う気がする」
「齟齬の無い事柄なんて存在しませんよ」
「……ええと?」
ザビニがヒサキの言葉の意図を掴みかねていたところで、彼女が何かに気が付いたように顔の向きを校舎側へと変えた。
そして「あ、グリフィンドール」と言った。それから「その後ろに先生」と続けた。
ザビニもそちらの方を見ると、確かに、獅子寮生がやって来るところだった。
その少し後方にはマダム・フーチ先生の姿もあった。
「なにをボヤボヤしてるんですか」
ほどなく到着し、スピーディーに授業が始まった。
「みんな箒のそばに立って。さあ、早く」
フーチがこの場の主導権をさらうように、鋭く指示を投げた。
箒に乗るのを楽しみにしていた生徒も多かったこともあり、ほとんどの生徒は行動が早かった。
これにより自然とヒサキとザビニの会話は打ち切られた。
「うわ!いつの間に」
そうしてザビニがヒサキの隣の箒に視線を向けると、そこには既にノットが立っていた。
声を上げたザビニに、ノットは冷ややかな視線を向けた。
(いつの間にというか)
ヒサキはそこでようやく、先ほどから視界に入っていたノットにピントを合わせた。
実はノットは会話の途中からザビニの背後に立っていたのだ。
ザビニが校舎側を向いたのと同時に視界から外れるように動いていたのも、フーチの指示が飛んだときザビニが一瞬ヒサキへと目を向けたとき、ノットがそこの箒に立ち始めたのもヒサキはしっかり目撃していた。
「悪いがつめてくれないか?隣は空いてるみたいだし」ザビニはヒサキに背を向けながらノットに言った。「君が端っこを好むことは知ってるけど、今回は僕も端っこの気分なんだ」
「……」
ノットはやはり何も言わず、ザビニから視線を外しながら一つ向こうの箒へとずれた。
そうこうしているうちに他の生徒達も各々箒のそばに立ち終わったようだ。
その気配を感じ取ったヒサキは、箒をひと撫でし「よろしくね」と呟いてから立ち上がった。
背の低いヒサキなので、わざわざ視線を上げなければ誰かと目が合うことも無かった。