□10 入学最初の週末
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「……えっ、私にですか」
手渡されたのは、ちょうど掌に乗るほどの四角い瓶。
冷たくて、子供の手には少し重い。
瓶底に和紙が敷いてあり、涼しげな濃淡色の金平糖がいっぱいに詰まっている。
「もちろんヒサキにさ。祖国から離れて辛いだろうと、日本のお菓子を送ってくださったんだ。」
「恐縮です。ありがとうございますとよろしくお伝えください」
パパフォイたらコネ作りかしらとヒサキは受け取った瓶を両手に持って丁寧に頭を下げた。
下げざまに改めて手の中の瓶を見下げた。
深緑色の和紙には銀箔が練られており、金平糖は白色と緑色。
やや白いものの方が多い印象だ。
頭を上げれば、父親への礼をまるで自分に向けられたようにふんぞり返っているドラコ。
「なんでも、コンペートーとかいう、ロックキャンディみたいなお菓子らしいじゃないか」
ドラコはヒサキの手に乗る瓶を不躾につついた。
その素振りから何となく、ねだるような雰囲気を感じ取った。
「そうですねえ。……小さいけどたくさんあるのでよければ皆さん一粒ずつどうぞ」
ヒサキが快く微笑めば、好奇心の滲んでいた周囲の取り巻きごと、ほんの少し目を輝かせた。
パンジーも調子よく金平糖を口に運んでいたし、クラッブとゴイルはもっともっとと欲しがったりした。
感想についても、
「なんだこれ?味を付けた砂利?」
「ただの砂糖。つまんないわ」
「ロックキャンディよりずっと柔らかいな!」
「優しい甘さだわ」
賛否両論だった。
ヒサキは改めてドラコに礼を言い、軽くルシウスを讃えて話題を移した。
ドラコが注目の中で家族自慢を始めたのを見計らってヒサキはソッと談話室を出た。
金平糖の瓶を鞄に沈ませたまま、ヒサキは気を取り直して防衛術の教室へと向かった。
約束通り教室は解放されていた。
扉こそ閉まっていたが、鍵はかけられていない。
教室内には誰もいなかったが、ヒサキはそれで良いと適当な席に腰を下ろした。
ニンニク臭が少し嫌だった。
闇の魔術に対する防衛術の教科書を取り出し、ぺらぺらと流し捲っていく。
悪意ある呪いにかけられたときの対処法から、
危険な動植物の知識と扱い、
攻撃されたときの処置方法など。
思ったよりもずっと白く健全な内容で、ヒサキはひとり肩をすくめた。
こんなにも健全極まりない授業の教員席にかけられている、任期一年の呪いに対して。
しばらく気に入ったテーマのページを読んでいれば、奥の扉が最小限の音と動きで開けられた。
目が会えば、クィレルは肩を跳ねさせた。
今日も体力あるなあと感心しつつ、ヒサキは笑顔で挨拶を向けた。
意図的に力入りっぱなしにする臆病の演技は疲れるものだ。
震える声のレスポンスは、昼飯の時間だと続けた。
ヒサキは笑顔で送り出そうとしたが、クィレルはそれをそのまま受けなかった。
「あ、あ、あなたも行くのですよ」
「え?」
近付いてきたクィレルにヒサキは首をひねった。
「しっかりた、た、食べなくては……い、いざというときに備えられません」
「はあ」
「わ、わ、私は心配なのです。闇の魔術に対する防衛には、た、体力は、不可欠です……!」
「え~……でも……ご飯食べると疲れません?」
「まさか、し、食事し消化するのに、た、体力を使うと言うのですか?」
「そうですね。それで体力持ってかれて眠くなったりします」
「では、な、なおさらです!体力を付けるには食事です!吸収に、つ、疲れるからと摂取しないままでは、悪循環になります」
「えー……」
先生みたいなこと言うな、とヒサキは目を瞬かせたが、すぐに察した。
クィレルは不在をいいことに事務室へ忍び込まれるのを懸念しているのかと。
ヒサキが解錠呪文が使えないという保証はない。むしろスパイなら教えられているはずだ、なんて思ってるのかなと。
「今日はお休みなのですから、ね、眠くなっても良いでしょう……?」
「うーん……クィレル先生がそう言うなら……」
従順でいると思わせたかったヒサキは、気が進まなかったがそれに頷いた。
揃って退室したところで、
「あ。そうだクィレル先生」
「ヒッ?!ど、ど、どうしました?」
ヒサキはニンニク臭を消し去りたいと進言した。
昨晩帰ったとき、ルームメートにつつかれたのだというヒサキの嘘を、クィレルは信じた。
「た、たしかに、この臭いが、生徒たちには、あ、あまり好評でないのは、知っています」
「みたいですねえ」
「しかしMs.ヒカサキは、き、き、吸血鬼が恐ろしくないのですか!?」
「クィレル先生。私スリザリンですよ。」
「と、というと……?」
「吸血鬼でもそうでなくても怖いと思えば誰かか何かの影に隠れてうまく逃げます。
で、もし吸血鬼以外の、ニンニクが平気かつ嗅覚の鋭い生き物に遭遇したら、この臭いのせいで逃げられなくなっちゃいます。体臭より強いので」
「……そ、そうですか。それなら……は、配慮が出来ず、申し訳ありませんでした」
ヒサキの言い訳に納得した様子で、クィレルは杖を振った。
「わ、私は、き、き、吸血鬼の対処が一番苦手なので、こ、このままですが……」と付け足しながら。