□10 入学最初の週末
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「なら、消灯までここに居て良いですか?」
「構いませんが……そ、そ、その……わ、私は事務室から私室に戻りますよ……?」
「事務室って、そこの扉の向こうですよね」
「ええ。そ、そ、そうです」
「じゃあやっぱりここに居ます。寮より近いですし、近くに居てくれるだけで嬉しいです」
「そ、そうですか……では、消灯まで、で、ですからね……?」
「はい。ありがとうございます」
クィレルは心底恐ろしそうに立ち上がった。
「そ、そ、それでは……私はここで
……」
そして挙動不審に事務室へと歩み、怖々とドアを薄く開け機敏にその中へと身を滑らせた。
(臆病な野生動物みてえで面白れー)
バタン、と言う音が教室内に響いた。
ヒサキはそれを見届けると、開いていた教科書に目を落とした。
(まあ、当分は警戒されたままだろうな。
スリザリンの生徒だし、スネイプの差し金と考えるのが妥当か。)
次のページをめくり、習っていない範囲の予習を行うふりをしながら、
今の反省と今後の身の振りを考え始めた。
(でも実際私のことはどこまで知られようと、三次元での事実確認はできないだろうし、私は悪い家庭環境だったで通っているから問題はない)
ヒサキは新学期前のホテル生活の中でスネイプに確認したことを思い出した。
購入した本に開心術の記述があったとかでスネイプに問い詰めたりしたのだ。
そして二つのことが確認できていた。
ひとつは、
ダンブルドアと目を会わせたとき、実は開心術を使われていたが、人の目への恐怖と空白しかなかったと――つまりヒサキは目を会わせるとほぼ無意識に閉心術と似たような反応をするらしいと。
ふたつめは、
改めて心を落ち着かせてスネイプに開心術を使わせたところ、
どう頑張っても禁じられた森以降の記憶しか読み取れないのだと。(世界が違うからということで半疑に納得はしてくれた。)
――つまり。
三次元でのことは言いたい放題と言うことだ。
(さて、でもスリザリンの駒は欲しい筈だ。スネイプが鬱陶しくなるにつれて……。
いつ食いついてくれるかな)
釣り糸は垂らしたばかりだ、とヒサキは嬉しそうな仕草で無邪気に微笑んだ。
別室とはいえここもクィレルのテリトリー。
見られていない保証などないのだからと。
ここで作る表情と態度に気を抜いたりはしなかった。
(それにしてもニンニク臭いな。いい加減慣れてきたけども…)
そのまましばらく予習を続けていたが。
やがて、ふと気だるさを覚える。
暴れ柳相手に運動した疲れが今更来たのかとヒサキは手を開閉した。
丁度いい。
落ち着くと言ったのだ、その証拠にひと眠りかましてやるかと、ヒサキは教科書を脇に顔を伏せた。
§
消灯時間が間近に近付いた頃、クィレルは教室のドアを薄く開けた。
そして反応が無かったので、そのままゆっくりと戸を開いた。
クィレルの視界に入ったのは、教科書を傍らに机に伏しているヒサキの姿だった。
「み、み、Ms.ヒカサキ。何をしているのですか……?」
様子見にかけた言葉への反応はなかった。
気付かないふりをしているだけかもしれないが。
「ね、ね、眠ってしまったのですか?」
ふりだとしても、立場上このまま置いておくわけにはいかないので、クィレルは声を掛けながら近付いた。
恐々な足取りを忘れずに。
たどり着いて、穏やかな寝息を耳にした。
改めて声を掛けても、起きる気配はなかった。
その無防備さに、クィレルは一瞬顔をしかめた。
ヒサキの言葉は本当なのか、それともまだこちらは手を出す段階ではないからと見越しての策略か。
……素直に現状の感想を述べるとするなら、
『都合のよい駒が向こうからやって来た。』だ。
善悪も判断つかない子供が持つ、忠誠に一番近い感情といえば、
子が親に向ける、盲目的かつ無償の尊敬と献身だ。
彼女の それ を己に向けさせることができれば非常に便利になるだろう。
しかしだ。
探して見つけたわけでもない、突如としてやって来たこの少女。ご丁寧に美味を引っ提げて。
いかんせん、都合が良すぎるようにも思えてならない。
頭部に寄生する主人に相談するまでもなく、見極める時間が多少なりとも必要になるだろうと、内心独り言ちた。
なんて思考していても起きる気配すら見せない少女を、そろそろ起こさなければ、と。
クィレルは息をつめて見せた。
そして、おそるおそる、というふうにヒサキの肩を揺すぶった。
「…………。……お、お、起きてください。……消灯までと、い、言ったでしょう」
揺すぶるだけじゃ起きもせず。
声までかけてようやく、ヒサキの指先がピクリと動いた。