□10 入学最初の週末
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リーと別れ、真っ直ぐと――やや遅れて――大広間へと到着した。
そのままいつものようにスリザリンのテーブルへ足を向けた。
ヒサキがいつも座っている席は空いていた。
そして、その斜め向かい――彼のいつもの席――に、ノットの姿もあった。
切り分けられたトード・イン・ザ・ホールを口にしている。
ヒサキはそれが美味しそうに見えたので、同じものを自分の取り皿に乗せた。
しかしこれだけでは一日分の空腹を満たすのに少し物足りないので、ヨークシャー・プディングを二つほど足してからテーブルに置いた。
座る前に、ヒサキは斜め前のノットがコップを置くのを見計らって声を掛けた。
「ノット様」
「……」
目が合った。
返事はないが、聞こえていると確信が持てた。
それがわかれば、ヒサキはそのまま頭を下げた。
「今朝はありがとうございました。とても助かりました」
ヒサキのお辞儀を見て、ノットは少し間を開けた。
が、やがて無愛想に
「……全く気にする事はない」
『Not at all.』と、お決まりの台詞を吐いた。
それだけ言うとノットはヒサキを伺うことなく、何事もなかったように食事を再開した。
(おお、しゃべった。しかも小洒落た言い回しでいらっしゃる)
初めてノットから言葉を受けたことにレア感を感じつつ、ヒサキは微笑んでから着席した。
息を一つ吐き、心の中で(いただきます)を唱えた。
水を飲み、ヨークシャー・プティングをナイフで切り分けていると、
「テーブルマナーがやっと見れるようになって来たな、ヒカサキ」
「わ、ありがとうございますフリント様。あ、ごきげんよう!」
遅れてきたらしいフリントが声を掛けてきた。
フリントの他にも、体格のいい数人の面子が固まってやってきていたが、それらは皆何も言わずにヒサキが座る席を通り過ぎていった。
フリントはヒサキの言葉と笑顔に、手をひらひら振って返すと、そのまま通過していった面子に合流していった。
(もしかしてクィデッチの練習あがりとかかな?)
なんて予想しながら、ヒサキはそのまま一人で食事を続けた。
デザートにフルーツたっぷりのトライフルを味わっていると、またフリントがやってきた。
ヒサキはその気配にいち早く気付いて、とりあえず水を飲んだ。
「ライスプティングは食わないのか?なんでも日本人はライスが好きというじゃないか、ヒカサキ」
「そうですね。確かにライスは好きですけど、甘く煮たものは嫌いなんです」
ふーん、とフリントはヒサキの隣に腰かけた。
そこでヒサキは、フリントに続いてもう一人やってきていたことと、その人物がフリントの隣に腰かけた事に、音と視界の端の動きで気が付いた。
「ならどうやって食べるんだ?」
「炊い…あー…味を付けずに少なめのお湯で汁気がなくなるまでゆでたり――」
が、紹介もされていないしと、気付かないふりをした。
「――もしくはライスプティングと同じ調理法ですけど、ミルクと砂糖じゃなくて、塩とだし汁で湯がいたりしますね。もしくはコンソメ」
「だし汁?」
「あー…昆布や魚のエキスですよ」
「昆布?あんなの、人が食べる物じゃないだろ。百歩譲ってダルスなら…いや、それだって全くありえない」
眉をしかめたフリントに、ヒサキはクスクスと口元を隠しながら笑った。
外国人は海藻食に馴染みが無いんだ、と知識の事実確認が出来たことが面白かった。てかダルスって何?
「ふふ、あの見た目ですからね。馴染みがなければそう思うでしょうとも。
でも、ちゃんと調理すればおいしいんですよ」
「……だとさ、テレンス」
そこでようやく、フリントがツレに声を掛けた。
声を掛けられた青年は――フリントもだが――すっかり大人の身体つきをしていた。
「日本では海藻を食べるって、本当だったんだな」
「食べる国は少ないって聞いています」
ひょいとフリント越しに話しかけてきた青年は色白で、シャキッとしたクイッフヘアが似合う、ライトブラウンの短髪をしていた。
ヒサキはどことなく既視感を覚えたが、パッと思い出せなかったので、いつかわかるだろと諦めて笑顔を返した。
「おっと、マーカス越しで悪いな……俺はテレンス・ヒッグス。日本食には興味があるんだ、良かったら色々教えてくれ」
「こちらこそ、――あ、フリント様、すいません――私はヒサキ・ヒカサキと申します。
イギリスには移住して来たばかりで、こちらこそ、ヒッグス様さえ良ければ勉強させてください」
「もちろん。そのことはマーカスから聞いている。だから丁度いいと思っていたんだ!」
まあそうだろうな、とヒサキは心の中で独り言ちた。
そんな冷めた感想とは裏腹に、ヒサキは手を合わせて首を傾げつつ、嬉しそうに笑っていたが。
「わあ、そうだったんですね。交流しに来てくれて光栄で嬉しいです。
フリント様、ヒッグス様を紹介してくれてありがとうございます。」
「ん、ああ、どういたしまして」
そろそろ自分越しに話される事に不満を覚え始めたところ、
まるで狙ったようにヒサキに話しかけられ、フリントはすこしどもった。
しかし会話の中に再び入ることができたとすぐに持ち直した。
「なあ、ヒカサキ気を付けろよ、テレンスはこう見えて年齢お構いなしの変態だからな」
「おい?マーカス!デタラメ言うなって」
「デタラメ?まさか!いいかヒカサキ、テレンスはな、去年最後のクィディッチ試合の後――」
「エホン!エホン!!」
「たった二年生の、女子生徒にだな――」
「悪かった!悪かったからその話はやめてくれマーカス!思い出したくもない……」
「へへへ、じゃあ貸しだな」
「マジかよ……」
「ふふふっ、仲良しなんですね。お二人とも」
去年に何があったんだ気になる。とか思いながらも、ヒサキは猫を被って笑い、間をつないだ。
その後も夕食の時間が終わるまで、イギリスと日本の料理やマナーについての話でしばらく盛り上がった。
(ちなみにダルスとはイギリスで食べられてる紅藻の一種らしかった。癖が強くて慣れが必要な味だそうで。食用というよりは動物のエサや肥料、保湿剤などに使われる方が主流らしい。)
また、何故かこの場でノットが本を読み出したものだから、彼も夕食時間最後まで居座っていた。
フリントとヒッグスの相手をしながら、ヒサキは内心首を傾げたりした。
(いつもは食い終わったら喧騒と悪臭から逃げるように席を立って行っちゃうのに。
……もしや私に用事?
いやいや……そしたら最初の時点で言ってるか)