□6 仕込み(今回から三人称視点です)
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逐一口に手を添えて、塩の利いたベーコンやローストビーフを行儀よく咀嚼しながらヒサキはある一点を見つめていた。
視線の先には、スリザリンのゴースト、血みどろ男爵。
虚ろな目、げっそりとした顔、銀色の血でべっとり汚れている衣服。
ヒサキは(血みどろ男爵といいスネイプといい、恋した女に不器用が過ぎるくせに罪悪感と愛があまりにも重いよなぁ)などと失礼なことを考えながら、振り向きもしない自寮のゴーストを漫然と見つめていた。
これでも今夜は気分がいい。
誰も気にせず話を振ってくることもなく置いてくれているのは気楽だった。
だからこそ、誰とも目を合わせたくない心境だった。
そんなヒサキにとって、血みどろ男爵は、視線の置き所として最高だった。
ヒサキはハリーのように、出された食べ物を全部少しずつ皿に取って口にしていた。
口直し用なのか、ごちそうのラインナップの中で少々浮いてしまっているハッカ入りキャンディは3つほど取ってハンカチに包み、ショルダーバッグに仕舞っていた。
皿の上に取った料理を早々に食べ終えると、おかわりもせず、ミネラルウォーターから手を離さなかった。
デザートが現れ、またそれを少しずつ取り分けて口にする。
そしてまたミネラルウォーターばかりを飲んで、辺りの生徒の話し声に耳を傾けながら時間を過ごした。
はたから見れば退屈そのものに見えていた事だろうが、とうのヒサキはとても楽しんでいた。
視線に気づいた血みどろ男爵は何度か振り返ったが、その虚ろな目を観察する前に、向こうから視線は外された。
「楽しんでいますかな?」
「おお?」
そんなヒサキの頭上から、とあるゴーストが逆さに覗き込んできた。
逆さであるからか、自分の頭をまるで支えるように押さえている様子を見てヒサキはピンときた。
「ごきげんよう。楽しんでいますよ」
「ごきげんよう、それなら良いですが。
……いや、本当に?血みどろ男爵を、まるで恋する乙女のように、虚ろに見つめ続けて……まさか?!」
「恋はしていませんよ。残念ながら。
申し遅れました、ヒサキと申します」
「私はニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿といいます。グリフィンドールのゴーストです。お見知りおきを」
「よろしくお願いします、ポーピントン卿」
「よろしく」
「気遣ってくださって嬉しいです。ありがとうございます」
「いえ。いえ。ただ、気になっただけですから。
食事も早々に、血みどろ男爵を見続ける生徒などそう居るもんでもない!」
ほとんど首なしニックは、グリフィンドールという言葉を聞いても態度を変えないヒサキに気を良くした。
しばらく雑談したのち、ニッコリと満足げに笑って、どこかへ飛んで行った。
それを見送ると、ヒサキは息をついて首を回した。
頭上を見上げ続けて少し固まっていたため、ほどほどに痛かった。
そして今度は果ての無い天井を眺めながら、会場のざわめきを聞いて楽しんだ。
ただ耳を済ませているだけで様々な情報が入ってくるのだ。
ヒサキはそれが楽しかった。
§
深い地下の湖の底。
寮に案内され、寝室までやってきた。
相部屋の子達と挨拶をし、ベッドを選び合う。
ヒサキは最後に残った、出入り口に一番近いベッドを使うことに決まった。
この中で談話室に荷物が置かれてなかったのはヒサキだけだった。
身軽のままベッドに腰掛けたヒサキの耳に、ふと、わざとらしい声量のヒソヒソ声が触れた。
「荷物が届いていないのかしら」
「間違ったところに届いたのかもよ」
「ああ、たとえば、ハッフ……なんとかって寮に?」
ヒサキは思わず鼻から吹き出した。
聞こえたけど気付いてないふりをしてますが面白いと思っています、という素振りで、喉でクックッと笑いをこらえつつ、ショルダーバッグから次々と物を取り出した。
それを見て女子達は驚き、ヒソヒソ声は静かになったが、それでも探るような目付きでヒサキの姿をチラチラとうかがっていた。
本当ならそのショルダーバッグについて聞いてみたいのだが、帽子がハッフルパフと言いかけていた事実が彼女達の脳裏をかすめているのは明らかで。
結局スリザリンへとやってきたわけだが、ヒサキへの接し方が良くわからず、声をかけあぐねていた。