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「私ね、嬉しかったよ、ハーマイオニー。
コンパートメントで初めて会ったとき、ハーマイオニーの方から、私に話しかけて、質問して、ハッフルパフの方がいいって心配してくれたから。
私はそれが嬉しかったの」
「……たった、それだけのことで…?それに、私、心配なんて……。」
「……私はね、いつも私の方から話しかけて、笑って、自分は敵ではない事を伝えて信じさせなきゃいけなかったの。
そうでないと、誰も私を相手になんてしてくれない、邪魔な虫けらと同じ扱いをされてしまうから」
「そ、そんなわけないわ!だってあなた、人気者じゃない!スリザリンのテーブルでも、ほ、他の寮の子たちだって、みんなあなたを親切でかわいいって言っているのよ!」
「その噂は知らない。私がホグワーツに来てから、初対面の人はみんな私を警戒したり、関わりたくないって顔したり、明らかに見下して悪口を言ってきたりしたわ。
スリザリンだから、ハッフルパフもどきだから、顔の作りが違うから、外国人だから、生意気だから。ね」
そこで一旦切ったヒサキは、少しハーマイオニーの言葉を待ってみたが、なにも返って来なかったので、続けることにした。
「私を人間扱いしてくれたハーマイオニーが好きよ。勇敢で、賢くて、知識を独り占めしないし、なによりあなたは優しい人だわ。
私は、身体を崩すほど努力しても」
「ヒサキ…でも、話しかけることくらいだれでも出来るわ」
「それが出来る、と、それを実施した、なんて雲泥の差なのよ、ハーマイオニー」
(面倒だが、有難いというべきだ。乱したというのに活躍所がもらえたことは)
ハリーとロンは急いで部屋を出ていった。ヒサキが立ち上がりもしなかったのに気が付いたのはトイレのドアを跨いで数歩のところで、今更引き返すわけにもいかず、後ろ髪をひかれながらもグリフィンドール寮のある西の塔の方へと帰っていった。
「聞こえなかったのですかな?」
立ち上がらず視線を泳がせ始めたヒサキを、スネイプが睨みつけた。
ヒサキは気まずそうに笑いながら、声を絞り出した。
「いや力が抜けちゃって……立てません」
杖を仕舞い、せがむ様に両手を上げた。
「でも教科書に書いてあったからさ」
受け答えをしながら、ヒサキは自分の空いた手に向けておもむろに杖を振った。
するとその杖先から丸いキャンディが4つ現れた。
それを手の上に収めた彼女は、杖を仕舞い、その一つの封を開けると自分の口に含んだ。
思い描いた通りのイチゴ味が舌に広がったのを確認しながら、その飴玉を口の端へ追いやって、ゴミをローブのポケットに仕舞った。
そうして改めて、ヒサキは残った3つの飴玉が乗った手の平をハリーとロンの方に突き出した。
「ね、今日はありがとう。これ、よかったら、二人とハーマイオニーに…」
ヒサキの突然の挙動にきょとんとしていたハリーとロンは、そこで彼女の手の中を見下げた。
透明な個包装の中で、ガラス玉のような暖色がキラキラしている。
「キャンディだよ。まだ何の変哲もないイチゴ味しかうまく作れなくて、苦手じゃなかったらよかったんだけど……」
「ううん!ありがとうヒサキ、君ってすごいんだね」
窺うように続けたヒサキに、ハリーがはっとしたように言って、その手の飴玉を3つとも取った。
それからその一つをロンに渡した。ロンは少しそれを見つめて、ヒサキに小さく「ありがとう」と呟いた。
ヒサキは嬉しそうに笑って頷いた。
鮮明に思い出せる味だからと言ってその味が好みなのかと言えばそうでもない。
飴を出す魔法。
包装を付けたり、形や味を自由にするのは術者の習熟度次第で、多少の練習がいる。
泣いている女の子には甘いものが効果的とどこかの人間失格で読んだから、今日に備えて以前より練習していた魔法だった。
この魔法を知ったのはスリザリンのチェイサー、3年生エイドリアン・ピュシーが一ヶ月ほど前ヒサキにこの魔法を披露してくれたことがきっかけで、詳細を聞けば親切にも図書室のとある実践魔法書を教えてもらった。
また、一瞬女性と見紛う綺麗なポニーテールをひっさげたキーパーの3年生マイルズ・ブレッチリーがその会話中、横槍にコツを教えてくれたりもした。
そうして身に着けた魔法は、決して簡単ではなかったが、しかしヒサキにとって、空き時間の片手間に習得できないレベルでもなかった。
ヒサキが持つ強大な魔力とやらのその『強大さ』は、扱う魔法を都合よくオートで最適化及び強化してくれるようなもので、その恩恵は大きな要因でもあった。
などとどうでもいい思考をしながらヒサキはスリザリンの寮目指して廊下を歩いた。
完全に視界の外。
背後から唐突に伸ばされた手が、目くらまし呪文のかかったヒサキに触れた。
とたんにその手はローブを掴み、もう一方の手がなりふり構わず掴みかかってきて、偶然にも僧帽筋のあたりをがっしりと抑え込まれてしまった。
ヒサキは思わず全身を跳ねさせ、次いで咳込んだ。
「フィニート・インカンターテム」
ローブを掴まれていた手が離れたと思えば、すぐにそんな声が聞こえてきた。
目くらまし呪文が強制終了され、みるみるうちに己本来の色を取り戻したヒサキは、目を見開いて振り返り、その人物を見上げた。
「て、テリー…」
「ヒサキ、君はいままでいったい何をしていたんだ?」
大溜息を吐いてヒサキから手を離したのは、テレンス・ヒッグスだった。
「監督生に知らされた情報だと、君は夕食前に退院していたと聞くし、けどどこにもいやしなかったからもしやと張り込んでみたらこれだ。それに、目くらまし呪文だなんて……」
説明を促すように腰に手を当てたテレンスに、ヒサキは全力で思考を回した。
この男にかわいがられていた自覚はあれど、まさかここまで気にされるとは思っていなかった。