■クナリメイジのインキー
業務外の審問官は、人が違ったようだと囁かれている。
普段の勇ましい立ち振舞いとは一線を画したものだというが、しかし休日は特定の人物としか会わないせいで噂されているだけかもしれないが。
「ロラニル、って子いるじゃないですか。」
「今は中庭に居るな。」
「可愛くないですか」
「お前の身長と比べたら大抵の種族は可愛いな」
そしてその噂の彼女はソラスを訪ねていた。
普段は髪の毛一束たりともたゆませることなく、後頭部にこれでもかと強く纏め縛り付けられた髪が、今は降りていた。
そのせいか少し幼く見える。
「……カレンの指揮下にいったらしいんですけど」
「そのようだな」
「……可愛いですよね」
愛想よく頭をかしぐ彼女の動きに合わせて、見馴れない彼女の髪が重たく揺れた。
二階から見下ろすドリアン。髪の降りた彼女の様子はもう慣れたものだが、それでもいまだ物珍しげにしている。
声色や口調も変に幼く砕けていたし、姿勢も縮こまり隠れるような仕草が癖になっている。
彼女はいま膝で立ち、テーブルに丸めた手を揃え、その陰から覗き込むようにソラスを見上げていた。
堂々と背を伸ばして歩く姿や、座して判決を下しているときの威厳などは欠片となく、まるで子牛のようである。
ソラスはその様子を気にすることなく呆れたように腰に手を置いた。
「指導者が恋人でもない一人の部下を私情で贔屓するのは模範的とは言えない」
「つまりコールは私の恋人だった……?!」
「コールは精霊だし、部下でもないだろう」
「ソラスが恋人だった……?!」
「勘弁してくれ」
「勘弁してくれって言われた」
「それで、見ればわかるが、非番か。何しに来たんだ?」
「いつものところにコールが居なかった……」
「私のところに来るということはそうだろうな」
「それでいつもの人目に付かない道トボトボしてたら丁度見張り番だったらしくて、声かけてくれたんですよ」
「ロラニルがか」
「はい」
「それで?」
「可愛い……」
「はぁ……
それで、私はどうすればいいんだ?」
「花を贈りたいんですが、デイルズエルフ的に切り花はナシですかね」
「一応聞くが……花を贈る理由は?」
「かわいいから」
「非番の君は人の話を聞く程度の知能すらないのか?
その髪は一生くくっていたほうが賢明だ」
「……うう。まさにその通りではありますけど……」
シュンと、でかい図体に見合わない仕草で引き下がる彼女の姿は、哀れでもあり滑稽でもある。
そんな一匹の子牛を一瞥し、ソラスは机の上の書類に再び目を落とした。
普段の勇ましい立ち振舞いとは一線を画したものだというが、しかし休日は特定の人物としか会わないせいで噂されているだけかもしれないが。
「ロラニル、って子いるじゃないですか。」
「今は中庭に居るな。」
「可愛くないですか」
「お前の身長と比べたら大抵の種族は可愛いな」
そしてその噂の彼女はソラスを訪ねていた。
普段は髪の毛一束たりともたゆませることなく、後頭部にこれでもかと強く纏め縛り付けられた髪が、今は降りていた。
そのせいか少し幼く見える。
「……カレンの指揮下にいったらしいんですけど」
「そのようだな」
「……可愛いですよね」
愛想よく頭をかしぐ彼女の動きに合わせて、見馴れない彼女の髪が重たく揺れた。
二階から見下ろすドリアン。髪の降りた彼女の様子はもう慣れたものだが、それでもいまだ物珍しげにしている。
声色や口調も変に幼く砕けていたし、姿勢も縮こまり隠れるような仕草が癖になっている。
彼女はいま膝で立ち、テーブルに丸めた手を揃え、その陰から覗き込むようにソラスを見上げていた。
堂々と背を伸ばして歩く姿や、座して判決を下しているときの威厳などは欠片となく、まるで子牛のようである。
ソラスはその様子を気にすることなく呆れたように腰に手を置いた。
「指導者が恋人でもない一人の部下を私情で贔屓するのは模範的とは言えない」
「つまりコールは私の恋人だった……?!」
「コールは精霊だし、部下でもないだろう」
「ソラスが恋人だった……?!」
「勘弁してくれ」
「勘弁してくれって言われた」
「それで、見ればわかるが、非番か。何しに来たんだ?」
「いつものところにコールが居なかった……」
「私のところに来るということはそうだろうな」
「それでいつもの人目に付かない道トボトボしてたら丁度見張り番だったらしくて、声かけてくれたんですよ」
「ロラニルがか」
「はい」
「それで?」
「可愛い……」
「はぁ……
それで、私はどうすればいいんだ?」
「花を贈りたいんですが、デイルズエルフ的に切り花はナシですかね」
「一応聞くが……花を贈る理由は?」
「かわいいから」
「非番の君は人の話を聞く程度の知能すらないのか?
その髪は一生くくっていたほうが賢明だ」
「……うう。まさにその通りではありますけど……」
シュンと、でかい図体に見合わない仕草で引き下がる彼女の姿は、哀れでもあり滑稽でもある。
そんな一匹の子牛を一瞥し、ソラスは机の上の書類に再び目を落とした。