■クナリメイジのインキー

コールは人間になったとき、痛みが消えないと言っていたが。
はらわたを掴んでいたから、腹が減って痛いのではないかとヴァリックに言い損ねた。

今までは、人の形をしているが摂取も排出も必要としていなかった。

餓えたコールしか知らない慈悲の精霊は、そのままを写し取った。
だから、彼はお腹が空いているか、もしくは排泄をしたくて膀胱が痛いのかもしれない。

追いかけたかったが、悪夢はそこまでだった。


そう。
たくさん見た夢の一つの話をしている。

私はまだコールに首飾りを贈っていない。

左手がこうなったときから、不思議な夢ばかり見る。
まるで平行世界や未来を覗いているような。
そうして見た未来は必ず現実となっていた。
だからこそ、無謀な立ち位置から審問官としてここまでやってこれた。

ならずものの傭兵団出身、クナリの魔道士。
デカブツだとか、牛だとか、背教者、化け物、恐ろしい。
それが、今や世界を救える唯一の組織のリーダーときたものだ。


今、そうしてコールに首飾りを渡す夢を見た。
首飾りは受理されず、己が意志への服従を求める。
私に諭す力はない。
ソラスに頼めば彼は精霊に、
ヴァリックに頼めば彼は人間になった。

首飾りがコールの大きな変化につながるなど夢にも思っていなかった(見たわけだが)。

人間になったコールは私以外の人に関わるべきだ。魔道士とは無縁の、幸せな人生をきっと本物のコールは望んだ。しかし理屈でわかっているのに、恋人になりたいわけでもないのに、私はコールの中を占める私が減ることに拒絶反応を起こすし、人間になれば彼が苦しむ機会も増える。それが私には苦しい。

精霊になったコールはもはやコールの皮をかぶった慈悲そのもの。慈悲を絶望させたほどにかわいそうな本物のコールを慈悲は忘れてしまう。精霊だから。身体は軽いし、自分を取り戻せた慈悲は、幸せであると、ありがとうと言っているが、それでは本物のコールがあまりにもせつない。それに、彼が加入した理由である『助ける組織』たる審問会がなくとも、自分を取り戻した慈悲は自らすべきことを見つけて飛び立てる。精霊を脅かす空の裂け目さえすべて閉じれば、コールがここにいてくれる意味がいよいよなくなってしまう。


ああしかし。
首飾りを求めているのは他ならぬコールだ。
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