■クナリメイジのインキー

「首飾りは持っている。鍵のかかったクローゼット、三重に包まれた箱の中、10枚のハンカチ。真珠のように仕舞い込んである」

「コール」

「あれがないとダメだけど、あれを使うと考えるだけで苦しい。
 ……ここにいるよ。催促はしない。」

「すまない」

「忘れさせることが僕はできる。痛いなら……
 茨が心臓を締め付け、トゲが食い込む、それが嫌なのに、失ってはいけない。とても大切

 なんで?どうしてそうなる?」

「……」

「その不安定な姿が心を揺さぶる。繰り出す言葉は全てが一生知ることのなかった灰かぶりの叡知。
 
 夢を見る、二つの悪夢。全てを知っている。それでも選択しなければならない、歪は正されるべき。」

「コール、私を聞いているのか。
 眩しくて見れたものではないと言っていなかったか」

「日輪が大きく暴れて、僕の虹彩に色を押し付けてくる。暖かな日差しは、泣きながら僕の肩をたたく
 僕は大丈夫。痛いのも泣いているのも知っている」

「覗く以前に、やかましいってことか」

「コール、コールコールコール。君が欲しい。言ってみただけ。手に入れる気はない。わかっているから苦しい。いけないことだと忘れてしまいたいが、それだけは出来ない

 酷く不安定。安定させなければならない。しかし今の彼が最適で、変わってしまうところは見たくない。その異物の混じる無垢が愛おしい

 ソラスは僕を精霊という。ヴァリックは僕を人間という。君は今のままの僕で居て欲しいという。

 わ、わからない、ぼ、僕はどうしたらいい?」

「どうも、しなくていいんだ
 それがきっと誰も傷付かない」

「僕は今のままじゃダメだ!安全じゃない!危険なんだ…支配に弱い!」

「化け物になったら殺してやると約束しただろう」

「今の君が僕を殺したら、君は自らを処刑する」

「……」

「君が死んだら、たくさんの人が傷付く。それはいけない。僕は死ねなくなってしまった

 僕を支配もしてくれない」

「コールを支配したら……先生に顔向けが出来ない」

「ソラスや君は……悪魔が好きだ。……だから、そんな二人だから大丈夫なのに、どうしてわかってくれないんだ……」

「コール?」

忽然と。
まばたきの間にコールの姿が意識から消えさる。

「忘れろ」

審問官の額で何かが光った。
いつものように。


今日も。コールに焦がれ尊重する気持ちを忘れた。
『コールの様子を見に来ただけの彼女』は辺りを見回す。
それに応えるように姿を表せば、彼女は気付く。

「ここにいるよ」
「居るならいいんだ。また来る」

コールの姿を認めた彼女が頷いて階段を降りて行く。

これで何度目だろう。

コールはその大きな背と、ねじれた角を見送った。
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