□1話・褥は虎穴に移り九死を得る
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音の源はやがて少しずつ進み、先ほど彼女が倒れていた地点にまで移動してきた。
物陰から様子を窺った彼女の網膜に、それは焼き付いた。
真っ赤な人影がふたつ。
現代医療においても絶対に助からないであろうほどに満身創痍な男と――
――鬼。
思わず彼女は頬に手を当てて声を漏らした。
「ハワワ~!(超理解。証明完了。おっけーこれは夢だ)」
男の悲鳴に覆われて掻き消えたそれは、彼女が思考を整理するとき、もしくは何かを決断するとき、または思考を放棄したときなど、気持ちを切り替えるときに出す口癖である。
そのような口癖が出た理由は、その光景が非現実的であるからだけではなかった。
「あの鬼殺隊さえ食い殺したあてから逃げようなんて、フホホホッ!浅慮で!愚かで!低能なこと!!大歓迎だとも!」
鬼が発した『鬼殺隊』という単語だった。
「(そして鬼滅の刃に出てくるようなデザインと……つまりはそういう……)」
ぎょろりと吊り上がった眼。
口角まで裂けた口は般若のように開かれている。
指先はかぎ爪状に変質していて、爪紅どころか肘まで真っ赤に染まっていた。
ばさばさに広がる髪は痛み切っているが、うようよと蛇のようにうねってご機嫌そうだ。
観察しているうちに、いよいよ男はひときわの声とともに急所を引き裂かれて、動かなくなった。
あまりにもグロテスクで痛々しい光景ではあったが、今の彼女はそんなことよりも夢であろうと鬼滅の刃の世界に存在しているという事実でそれどころではなかった。
「(つまりわ゛た゛し゛の゛プリンセスはどこですか!!!使命感!)」
ハアハアと興奮に呼吸を荒げてあたりを見回すものだから。
「おんやあ!はあはあ怯える惨めな息遣いがきこえゆう!」
そんな気配駄々洩れの彼女が見つかるのは当然の問題と言えよう。
気付いた時には回り込まれ、ずぅいと顔を覗き込まれて、初めて彼女は我に返り――。
――腹部に迫っていたかぎ爪一閃をかわした。
「はあ!?」
「ハワワ~!(心を決める音」
鬼の懐に飛び込み、完全に密着する形で。
これには鬼も不意をつかれたように目を見開いた。
その隙を逃さず、彼女はすべるように鬼の脇の下を潜り抜けてすれ違った。
距離を取られたことにハッとした鬼が振り返ったとき、彼女はすでに鋭利な枝と、拳ほどの細長い石を握っていた。
「にっ逃げるならまだしも、飛び込んでくるなんて――!」
そして
振り向いてすぐの鬼の眼孔めがけて、
何のためらいもなく
無言で
それらを勢いよく突っ込んだ。
「ぶぎゃあああッ!」
「(うるせぇぇええどけぼけがぁぁあああ!!!)」
彼女の内心はうるさかったが。
しかし無言のままその両腕は一瞬たりとも休まらなかった。
鬼の眼光を、枝と石で何度も突き刺し突き刺し突き刺した。
あまりの激痛に、鬼は数秒は両腕を伸ばすだけだったが、すぐに、手足をめちゃくちゃにもがき始めた。
鋭いかぎ爪がざっくりと二の腕に刺さりきる前に、彼女はその痛みにより反射的に身を引いた。
それでついたの勢いのまま全力で駆け出し、彼女はその場から逃げ出した。
恐ろしい声で恫喝する鬼の恨み節と、おぼつかなくもすでに規則性を取り戻しつつあるその鬼の足音を背に受けながら。
物陰から様子を窺った彼女の網膜に、それは焼き付いた。
真っ赤な人影がふたつ。
現代医療においても絶対に助からないであろうほどに満身創痍な男と――
――鬼。
思わず彼女は頬に手を当てて声を漏らした。
「ハワワ~!(超理解。証明完了。おっけーこれは夢だ)」
男の悲鳴に覆われて掻き消えたそれは、彼女が思考を整理するとき、もしくは何かを決断するとき、または思考を放棄したときなど、気持ちを切り替えるときに出す口癖である。
そのような口癖が出た理由は、その光景が非現実的であるからだけではなかった。
「あの鬼殺隊さえ食い殺したあてから逃げようなんて、フホホホッ!浅慮で!愚かで!低能なこと!!大歓迎だとも!」
鬼が発した『鬼殺隊』という単語だった。
「(そして鬼滅の刃に出てくるようなデザインと……つまりはそういう……)」
ぎょろりと吊り上がった眼。
口角まで裂けた口は般若のように開かれている。
指先はかぎ爪状に変質していて、爪紅どころか肘まで真っ赤に染まっていた。
ばさばさに広がる髪は痛み切っているが、うようよと蛇のようにうねってご機嫌そうだ。
観察しているうちに、いよいよ男はひときわの声とともに急所を引き裂かれて、動かなくなった。
あまりにもグロテスクで痛々しい光景ではあったが、今の彼女はそんなことよりも夢であろうと鬼滅の刃の世界に存在しているという事実でそれどころではなかった。
「(つまりわ゛た゛し゛の゛プリンセスはどこですか!!!使命感!)」
ハアハアと興奮に呼吸を荒げてあたりを見回すものだから。
「おんやあ!はあはあ怯える惨めな息遣いがきこえゆう!」
そんな気配駄々洩れの彼女が見つかるのは当然の問題と言えよう。
気付いた時には回り込まれ、ずぅいと顔を覗き込まれて、初めて彼女は我に返り――。
――腹部に迫っていたかぎ爪一閃をかわした。
「はあ!?」
「ハワワ~!(心を決める音」
鬼の懐に飛び込み、完全に密着する形で。
これには鬼も不意をつかれたように目を見開いた。
その隙を逃さず、彼女はすべるように鬼の脇の下を潜り抜けてすれ違った。
距離を取られたことにハッとした鬼が振り返ったとき、彼女はすでに鋭利な枝と、拳ほどの細長い石を握っていた。
「にっ逃げるならまだしも、飛び込んでくるなんて――!」
そして
振り向いてすぐの鬼の眼孔めがけて、
何のためらいもなく
無言で
それらを勢いよく突っ込んだ。
「ぶぎゃあああッ!」
「(うるせぇぇええどけぼけがぁぁあああ!!!)」
彼女の内心はうるさかったが。
しかし無言のままその両腕は一瞬たりとも休まらなかった。
鬼の眼光を、枝と石で何度も突き刺し突き刺し突き刺した。
あまりの激痛に、鬼は数秒は両腕を伸ばすだけだったが、すぐに、手足をめちゃくちゃにもがき始めた。
鋭いかぎ爪がざっくりと二の腕に刺さりきる前に、彼女はその痛みにより反射的に身を引いた。
それでついたの勢いのまま全力で駆け出し、彼女はその場から逃げ出した。
恐ろしい声で恫喝する鬼の恨み節と、おぼつかなくもすでに規則性を取り戻しつつあるその鬼の足音を背に受けながら。