□2話・手中の一生を十にし百とする
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一年が過ぎた。
奇しくも両者ともに同時期に育手に合格を貰い修行を終えた彼女らは、藤襲山へ向けて歩を進めていた。
「うーん」
不自然に重々しい足音。
師から借り受けた刀を抜いて眺めていた錺は、満足したのかくるりとそれを回し納刀した。
「どうしたの?」
一方、相応の足音。
行儀よく佩刀したまま歩いている実錫は、錺の顔を見上げて続きを促した。
「いや、なーんかしっくりこなくてさ」
たった一年で随分と背の高く、たくましくなってしまったこの妹弟子は、わざと聞かせるようなひと呼吸をしていた。
それはもはや慣れ親しんだ音。
「水の呼吸?」
「そうそう」
「使いこなしておいてよく言うよね」
すっかり意気投合したこの姉妹弟子は、ひと気のない里道を二人きりで並び歩きながら雑談に興じていた。
それぞれ佩刀するは、どちらも師より借り受けた刀。
ただし錺が、育手がかつてふるっていた刀を手にしているのに対し、実錫が下げているのは、かつて育手の相棒でもあった隊士が握っていた刀だ。
「何か前も言ってたよね。サラサラ過ぎるんだっけ?」
「うん。なーんか粘度もっと欲しいというか、熱が欲しいというか……」
「抽象的」
「言われましても」
「まあ、そんなに言うなら水の呼吸は錺にとって最適じゃないんだろうね。先生は水の呼吸の使い手だけど、他の呼吸もあるらしいし、派生の呼吸を独自で作ったりする人も居るらしいし」
「やっぱそう思う?」
「それでも私たちは水の呼吸しかできないし及第点も貰ってるんだから、不必要な場面で変に応用聞かせてしくじったりしないでよね」
「それはもちろん。そこまで生き急いではないよ」
「ならよかった」
「派生応用といえば、師匠に教えられたあの技には驚いたなぁ」
「ああ。先生と相棒さんで考えたってね。これもある意味では派生だよね」
実錫と錺は長い道中をひたすら歩く疲労感を他愛ない会話で誤魔化しながら仲良く進んだ。
その日の夜。
「ハワワ~!」
「いいから行くよ」
泊まった宿が騒がしく、鬼の気配がひとつ。
混乱し屋外へ走る宿泊客や宿主とすれ違ってその姿を視認すれば、今にこの宿主の一人娘を追い詰めた鬼が一匹。
「いやどんな確率」
「錺、波の二つ目」
「わかってるよ」
「「水の呼吸、波の型、山嶄花!」」
数分後。
頭を下げる宿主と娘の対応をする実錫の背後で、錺が持参の縄と、この宿の布団でできたぐるぐる簀巻きの上に腰掛けていた。
翌朝。
腰掛けている簀巻きが動く度に刀を突き刺して過ごしていればようやく日の出を迎えた。
錺はとりあえず簀巻きを日当たりの良い場所に置いておこうかと外に出た。
そこでたった今到着したらしい、この鬼を担当されてやってきた鬼殺隊と隠に出会った。
事情を説明し、錺と実錫はこのまま簀巻きをかついで宿を発った。
その日の日没までには、目的地へと到着した。
出迎えを受け、そこで引き渡した簀巻きは藤の向こう側へと運ばれていった。
日没後、今期の選抜は始まった。
「「水の呼吸、波の型、青凱波!」」
「まあ結局のところ、この派生が水の呼吸の枠外にでるこたないんだろうけどね」
「結局はね。水の呼吸で行使する併せ技だし一人じゃ使えないからメインに据えられないし」
「それにしても呼吸の合致確認と発破合わせるために技名言わないとなのも面倒だなー」
「もっと慣れれば言わなくても良くなるらしいけど」
「知ってるよー」
「うん、私達にはまだ難しいもんね。先生と相棒さんでもそこまでいくのに二年はかかったんだっけ」
「確かね」
奇しくも両者ともに同時期に育手に合格を貰い修行を終えた彼女らは、藤襲山へ向けて歩を進めていた。
「うーん」
不自然に重々しい足音。
師から借り受けた刀を抜いて眺めていた錺は、満足したのかくるりとそれを回し納刀した。
「どうしたの?」
一方、相応の足音。
行儀よく佩刀したまま歩いている実錫は、錺の顔を見上げて続きを促した。
「いや、なーんかしっくりこなくてさ」
たった一年で随分と背の高く、たくましくなってしまったこの妹弟子は、わざと聞かせるようなひと呼吸をしていた。
それはもはや慣れ親しんだ音。
「水の呼吸?」
「そうそう」
「使いこなしておいてよく言うよね」
すっかり意気投合したこの姉妹弟子は、ひと気のない里道を二人きりで並び歩きながら雑談に興じていた。
それぞれ佩刀するは、どちらも師より借り受けた刀。
ただし錺が、育手がかつてふるっていた刀を手にしているのに対し、実錫が下げているのは、かつて育手の相棒でもあった隊士が握っていた刀だ。
「何か前も言ってたよね。サラサラ過ぎるんだっけ?」
「うん。なーんか粘度もっと欲しいというか、熱が欲しいというか……」
「抽象的」
「言われましても」
「まあ、そんなに言うなら水の呼吸は錺にとって最適じゃないんだろうね。先生は水の呼吸の使い手だけど、他の呼吸もあるらしいし、派生の呼吸を独自で作ったりする人も居るらしいし」
「やっぱそう思う?」
「それでも私たちは水の呼吸しかできないし及第点も貰ってるんだから、不必要な場面で変に応用聞かせてしくじったりしないでよね」
「それはもちろん。そこまで生き急いではないよ」
「ならよかった」
「派生応用といえば、師匠に教えられたあの技には驚いたなぁ」
「ああ。先生と相棒さんで考えたってね。これもある意味では派生だよね」
実錫と錺は長い道中をひたすら歩く疲労感を他愛ない会話で誤魔化しながら仲良く進んだ。
その日の夜。
「ハワワ~!」
「いいから行くよ」
泊まった宿が騒がしく、鬼の気配がひとつ。
混乱し屋外へ走る宿泊客や宿主とすれ違ってその姿を視認すれば、今にこの宿主の一人娘を追い詰めた鬼が一匹。
「いやどんな確率」
「錺、波の二つ目」
「わかってるよ」
「「水の呼吸、波の型、山嶄花!」」
数分後。
頭を下げる宿主と娘の対応をする実錫の背後で、錺が持参の縄と、この宿の布団でできたぐるぐる簀巻きの上に腰掛けていた。
翌朝。
腰掛けている簀巻きが動く度に刀を突き刺して過ごしていればようやく日の出を迎えた。
錺はとりあえず簀巻きを日当たりの良い場所に置いておこうかと外に出た。
そこでたった今到着したらしい、この鬼を担当されてやってきた鬼殺隊と隠に出会った。
事情を説明し、錺と実錫はこのまま簀巻きをかついで宿を発った。
その日の日没までには、目的地へと到着した。
出迎えを受け、そこで引き渡した簀巻きは藤の向こう側へと運ばれていった。
日没後、今期の選抜は始まった。
「「水の呼吸、波の型、青凱波!」」
「まあ結局のところ、この派生が水の呼吸の枠外にでるこたないんだろうけどね」
「結局はね。水の呼吸で行使する併せ技だし一人じゃ使えないからメインに据えられないし」
「それにしても呼吸の合致確認と発破合わせるために技名言わないとなのも面倒だなー」
「もっと慣れれば言わなくても良くなるらしいけど」
「知ってるよー」
「うん、私達にはまだ難しいもんね。先生と相棒さんでもそこまでいくのに二年はかかったんだっけ」
「確かね」
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