□オリオペ鍋
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そのような出来事から数日後。
その日もセロリシードは、行動隊D1に所属するオペレーター達の訓練後の治療を行っていた。
「少し疲労が出ているようですね」
そう言いながら、セロリシードはグローリーの腕を軽く揉んで筋肉の状態を確認する。
「……うん。二日ほど訓練はお休みにしておきましょう。届出は私の方で出しておくので、その間はゆっくり身体を休めて、けれど柔軟だけは必ず欠かさないように……後で投薬メニューも変えておきますね」
「了解。あざっす助かりっす」
セロリシードの言葉に素直に相槌を打って、グローリーは医務室を後にしようとしたが、そういえばと切り出した。
「ムリナールさんでしたっけ?彼って騎士ではなかったみたいですが、騎士のつもりで挨拶したんです?」
「と、いいますと?」
「かるーく嗅ぎ回られてましたよ。元競技騎士のオペレーターとほぼ同じ挙動で」
「ああ……」
セロリシードは納得したように小さく声を上げた。
「ええ。いたしました。彼は競技騎士とは違いますが、……もしかして接触されたということですか?」
突然話題を切り替えられた。つまりそれは『質問すべき事柄』……あえて問うて何かを差し出さなければ答えられない話題であることを示している。
「まあ」
グローリーは特に深掘りする気もなかったので、素直に流されることにした。
「直通IDを渡されたが平気なのかと聞かれたので、肯定しときました。人によって放置したり相談したり話し相手とかパシリとか好きに使ってるのであなたもお好きにどうぞとは言っておきましたけど」
「そうでしたか。ありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いえ別に。それじゃまた」
「はい、また」
そんな会話があった翌日。
朝食の時間を過ぎてしばらく経った頃、人も疎らな食堂で遅めの食事を摂っていたムリナールの元へ、トレーを持ったセロリシードがやって来た。
その口元は、いつものように穏やかで柔らかい笑みを浮かべている。
「隣、空いてますか?」
「……」
無言のまま視線だけを寄越して、ムリナールは食事を続ける。
「ありがとうございます」
それを了承と受け取ったのか、セロリシードは彼の隣の席に腰掛け、食事を始めた。
「あ、そうだ。おはようございます、ムリナールさん。昨晩はよく眠れましたか?」
「……」
「私はぐっすりと。ここのところ忙しくて、久し振りに熟睡できてしまいました」
そう言って何かの黒焼きを頬張り笑う彼の顔を、ムリナールは横目でちらと盗み見る。
それに気付いたセロリシードは嬉しそうに微笑んだ。
「私の顔に何か付いてます?」
ムリナールは応えない。
代わりに、手近にあったフォークを手に取ると、皿の上に残っていた肉料理の残りをぐさりと突き刺した。
「ふふ、そうですか」
会話する意思がない事を示すムリナールの態度にも、セロリシードは機嫌良く笑って返す。
「私、今日は予定のない非番でして。ムリナールさんもでしたよね?私のことをお調べになるくらいでしたら、今日は一緒に過ごしませんか?せっかくロドスに来たのですから、艦内の穴場や近道なんかを案内しますよ」
投げられたのは、暗に『お前の動きを監視しているぞ』と言われているも同然である言葉。
「……」
「ロドスには、まだ知らない場所も多いでしょう。きっと楽しいですよ」
「……何が目的だ」
ようやく口を開いたムリナールだったが、その言葉に抑揚はなく、どこか冷淡なものを感じさせるものだった。
「何も」
そしてセロリシードは笑顔を崩さない。
彼の皿にあるクロワッサンが、手慣れた動作で優雅に千切られていく。
「ただ、私の前職はもうお知りになったかと思います。ええ、ムリナールさんがおよそ忌避されている存在かと。けれど、だからこそ交流しお互いを知ることが大事だとは思いませんか?」
「……」
「もちろん今からでもムリナールさんがご希望されるなら、ロドス内でお手伝いできることは喜んでいたします。ですが、まずはあなたと個人的に仲良くなりたいと思っておりまして」
「……」
「ダメでしょうか?」
そう言って彼は、層に沿って一口大に千切り取られたクロワッサンを皿上から口内へと、パンくず一つ落とさず運ぶ。
洗練された動作で導かれたそれは、サクサクという軽い音を立てて咀噛され、飲み込まれていった。
「……お訊ねします、ニアール家の旦那様。何か私に、お手伝いできることはありますか?」
セロリシードは答えを待ちながら、食事の手を止めてムリナールを見つめる。
彼はその視線を気にすることなく、黙々と朝食を食べ進めていた。
程なくしてムリナールは、残り少なかったそれらを食べ終えると、席を立ちながら一言呟くように言った。
「…………結構だ」
セロリシードは笑った。
「そうですか。では、またの機会に」
ムリナールは答えなかった。
END.