□カポネさんルート
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AM0:50
――殺されてしまう!
彼女は感情的だった。
龍門停泊区を歩き終え、龍門市街へと足を踏み入れる。
安魂祭の喧噪に紛れ、無人と確認した細路地の暗がりを抜け。
ただの一人きりで歩を進めていた。
――いけない、いけない、このままじゃいけない…!
路傍の小石を蹴るように踏みつけ、次々と足を踏み出す。
視界の暴走は未だ止まない。
流れ続ける映像に、彼女の思考はこれ以上なく乱された。
――このまま泳がせれば彼は自滅する。明らかだ。指標が無いんだから。ゆえに意地に曇った思考は放置され無謀な欲となって、やがて挑んだ上位者の指先で殺されてしまう!
その視界を駆使し、人目を避け、たまに視点を配置し威圧を送ることで振り向かせたり気を逸らしたり。
誰にも知られることなく、Dr.アルゴスは堅牢なロドス移動都市からとっくに抜け出していた。
「王は彼から視線を外した。指標になる意思も義理もないと尾を揺らした。理解できる。ああそうだ、だからこそ……私が」
ブツブツと言葉として吐くことで気持ちの整理をつけながら、落ち着きを取り戻そうとしながら彼女は通る。
「わかってる、わかりたくないが、わからないことはできない。
そうさ、これを乞うた時点で、私は…これこそ本当に自分の意志で『ドクター(人の上に立ち導く者)』となることを乞うたことと同義だ、それはとても嫌だ、心から認めたくない。なりたくてなった立場じゃないともう言えなくなるのが嫌だ。だが、…けれど……だからと言って、彼をこのままにする方が嫌だ」
護衛などを誘うこともせず――そもそもどう言えというのか――日中にアーミヤとケルシーに頂いた苦言など気にも留めず、ただ前へ足を動かしていた。
照明すら届かない真っ暗な路地を当然のように把握して障害物を避けながら。
向かう先は、喧噪の元。
龍門は広く、暴走する視界は全く制御不能で、望む動きをしない。
動かせる視界を動員しながら、彼女は進んだ。
その姿を探す。
己の体力を鑑みると走ることはできず、走り出したい衝動をこらえて歩く。
事実、それだけでも息は上がり、疲労感を伴う痛みが彼女の足腰を苛んだ。
しかし止まるわけにはいかない。
当てはなく、手がかりもない。
まして、目標は移動している。
移動速度も目的地もわからない。
連絡もつかない。
だからこそ、なおさら彼女は感情的だった。
「……鋭利な岩を持つより、砂をすくうほうが容易で、だから王は、その岩が砕ける機会を与え、待ち、そして散らばる砂を懐へすくいあげる準備を怠らなかった。当然だ。
彼は目に見える一つの問題に気を取られすぎてそれに気付かなかった。その身の手足を疑わな過ぎた。それはすでに王の手によりすり替えられた義手であったのに。
しかも彼は携えた手足を簡単に殺してしまう。そんな義理と意志の弱い愚かなつぶてを懐に入れたいと誰が思う。砂にすらなりそうもない。
そうだ、王の言い分はよくわかる。彼は愚かで、明らかに不要だ。……けれど、それでも、……
死んではいけない。」
息を吐き捨てるようにつぶやく。
「死んで欲しくない」
狼狽した表情で、彼女は指を噛んだ。
◇
AM3:00
既に飴の雨は降り、喧噪の終息を彼女の視界が見届けた。
手がかりは目撃者。
落ち着いた中心地に赴けば、落ちて散らばった飴がいくつも踏まれ汚れきっている。
無残だ。
これに重ねてたとえられる事柄はいくつもあるが、今それをしている暇はない。
既に去った群衆もあるが、余韻に浸りながら残存する民衆も多い。
その中には、もちろんシラクーザマフィアの定番であるスーツ姿もあった。
「すみません」
首領の命のため首領に反旗を翻した勇気ある、今はすっかり大人しくなったマフィアの一人を呼び止めた。
「あ、俺か?ってあれ、あんた確か…」
「何か?」
「あっいや……なんでもない。ええと、何の用だ?」
「人を探しているんです」
丁度一人その場を後にしようとしていたその男はアルゴスの風貌を見て目を大きくした。
その挙動に彼女はもしやと希望を持った。面識のない彼らが自分を知っているというのなら。
迷いなく探し人の名を口にすれば、男は酸っぱい顔をした。
「――あぁ…やっぱりか。悪いことは言わねえから、その人のことは忘れたほうがいい」
奇しくもその男はカポネに近しかった部下の一人であった。
「今だから教えてやるよ。そのカポネさんはあんたを騙して売るつもりだったんだ。…な?」
「承知しています」
「え」
「売春か運び屋をさせるつもりだったのでしょう。彼やあなたがそちら側の人間であることと、すでに彼があなたたちの上にはいないことも把握済みです」
男は驚愕を隠さないまま「ならどうして」と漏らした。
「そのうえで、彼を探しています。
彼が龍門のここではないどこかへ、もしくは龍門を去る前にどうしても話さなければいけないことがあるんです」
「そうまでして、何を……」
「言えません。しかし危害を加える気は誓ってありません」
もし彼に繋がる通信機が生きていれば、と望みをかけて。
アルゴスは困惑する男を強く見つめた。
「……、カジノでのことが、カポネさんの指示であったとしてもか」
「存じています。その後襲ってきた方々もきっとカポネさんの指示なのでしょう」
「そうか、そこまで察してるのか…」
男はうんうん唸ったあと、恐る恐る口を開いた。
「俺……実はあんたのこと聞いているんだ。美人のアルゴスさん。他の移動都市から来ていて、カジノでは全く欲を出さず、それどころか他のテーブルのサマまで全部見抜いて、物凄く強い美丈夫を従えて、ドクターとか呼ばれてて…俺、カジノの監視室に居たんだ」
「そうですか」
「それを報告して……結構な地位を持っているかもしれない、少なくとも唯者ではない、引き込むのは無理そうだと、カポネさんが残念がっていました」
「そうですね」
「そんなあなたが、今更どうして…?」
「問い方を変えても言えないものは言えません。そちらも言えないのならそう言ってください。他をあたります。失礼しました」
「え、あっちょっと!!」
「何か」
「……もしかして、あんた、カポネさんを連れ出してくれるのか…?なんて…」
「答える義務はありません」
明らかにウェイとつながりのある鼠王の砂(駒)に情報を開示するのは悪手だった。
それをしない限り埒が明かないと判断したアルゴスは早々にその男からの情報を諦めた。
向こう側から持ち掛けてきたにもかかわらず、何の提示もなく、一方的に求められた情報を無警戒に開示するほど、その男の善性は高くなく、頭も悪くはなかった。
結局、アルゴスは一般人を中心にカポネの身体的特徴を伝え得た僅かな目撃情報をたどることになった。
――殺されてしまう!
彼女は感情的だった。
龍門停泊区を歩き終え、龍門市街へと足を踏み入れる。
安魂祭の喧噪に紛れ、無人と確認した細路地の暗がりを抜け。
ただの一人きりで歩を進めていた。
――いけない、いけない、このままじゃいけない…!
路傍の小石を蹴るように踏みつけ、次々と足を踏み出す。
視界の暴走は未だ止まない。
流れ続ける映像に、彼女の思考はこれ以上なく乱された。
――このまま泳がせれば彼は自滅する。明らかだ。指標が無いんだから。ゆえに意地に曇った思考は放置され無謀な欲となって、やがて挑んだ上位者の指先で殺されてしまう!
その視界を駆使し、人目を避け、たまに視点を配置し威圧を送ることで振り向かせたり気を逸らしたり。
誰にも知られることなく、Dr.アルゴスは堅牢なロドス移動都市からとっくに抜け出していた。
「王は彼から視線を外した。指標になる意思も義理もないと尾を揺らした。理解できる。ああそうだ、だからこそ……私が」
ブツブツと言葉として吐くことで気持ちの整理をつけながら、落ち着きを取り戻そうとしながら彼女は通る。
「わかってる、わかりたくないが、わからないことはできない。
そうさ、これを乞うた時点で、私は…これこそ本当に自分の意志で『ドクター(人の上に立ち導く者)』となることを乞うたことと同義だ、それはとても嫌だ、心から認めたくない。なりたくてなった立場じゃないともう言えなくなるのが嫌だ。だが、…けれど……だからと言って、彼をこのままにする方が嫌だ」
護衛などを誘うこともせず――そもそもどう言えというのか――日中にアーミヤとケルシーに頂いた苦言など気にも留めず、ただ前へ足を動かしていた。
照明すら届かない真っ暗な路地を当然のように把握して障害物を避けながら。
向かう先は、喧噪の元。
龍門は広く、暴走する視界は全く制御不能で、望む動きをしない。
動かせる視界を動員しながら、彼女は進んだ。
その姿を探す。
己の体力を鑑みると走ることはできず、走り出したい衝動をこらえて歩く。
事実、それだけでも息は上がり、疲労感を伴う痛みが彼女の足腰を苛んだ。
しかし止まるわけにはいかない。
当てはなく、手がかりもない。
まして、目標は移動している。
移動速度も目的地もわからない。
連絡もつかない。
だからこそ、なおさら彼女は感情的だった。
「……鋭利な岩を持つより、砂をすくうほうが容易で、だから王は、その岩が砕ける機会を与え、待ち、そして散らばる砂を懐へすくいあげる準備を怠らなかった。当然だ。
彼は目に見える一つの問題に気を取られすぎてそれに気付かなかった。その身の手足を疑わな過ぎた。それはすでに王の手によりすり替えられた義手であったのに。
しかも彼は携えた手足を簡単に殺してしまう。そんな義理と意志の弱い愚かなつぶてを懐に入れたいと誰が思う。砂にすらなりそうもない。
そうだ、王の言い分はよくわかる。彼は愚かで、明らかに不要だ。……けれど、それでも、……
死んではいけない。」
息を吐き捨てるようにつぶやく。
「死んで欲しくない」
狼狽した表情で、彼女は指を噛んだ。
◇
AM3:00
既に飴の雨は降り、喧噪の終息を彼女の視界が見届けた。
手がかりは目撃者。
落ち着いた中心地に赴けば、落ちて散らばった飴がいくつも踏まれ汚れきっている。
無残だ。
これに重ねてたとえられる事柄はいくつもあるが、今それをしている暇はない。
既に去った群衆もあるが、余韻に浸りながら残存する民衆も多い。
その中には、もちろんシラクーザマフィアの定番であるスーツ姿もあった。
「すみません」
首領の命のため首領に反旗を翻した勇気ある、今はすっかり大人しくなったマフィアの一人を呼び止めた。
「あ、俺か?ってあれ、あんた確か…」
「何か?」
「あっいや……なんでもない。ええと、何の用だ?」
「人を探しているんです」
丁度一人その場を後にしようとしていたその男はアルゴスの風貌を見て目を大きくした。
その挙動に彼女はもしやと希望を持った。面識のない彼らが自分を知っているというのなら。
迷いなく探し人の名を口にすれば、男は酸っぱい顔をした。
「――あぁ…やっぱりか。悪いことは言わねえから、その人のことは忘れたほうがいい」
奇しくもその男はカポネに近しかった部下の一人であった。
「今だから教えてやるよ。そのカポネさんはあんたを騙して売るつもりだったんだ。…な?」
「承知しています」
「え」
「売春か運び屋をさせるつもりだったのでしょう。彼やあなたがそちら側の人間であることと、すでに彼があなたたちの上にはいないことも把握済みです」
男は驚愕を隠さないまま「ならどうして」と漏らした。
「そのうえで、彼を探しています。
彼が龍門のここではないどこかへ、もしくは龍門を去る前にどうしても話さなければいけないことがあるんです」
「そうまでして、何を……」
「言えません。しかし危害を加える気は誓ってありません」
もし彼に繋がる通信機が生きていれば、と望みをかけて。
アルゴスは困惑する男を強く見つめた。
「……、カジノでのことが、カポネさんの指示であったとしてもか」
「存じています。その後襲ってきた方々もきっとカポネさんの指示なのでしょう」
「そうか、そこまで察してるのか…」
男はうんうん唸ったあと、恐る恐る口を開いた。
「俺……実はあんたのこと聞いているんだ。美人のアルゴスさん。他の移動都市から来ていて、カジノでは全く欲を出さず、それどころか他のテーブルのサマまで全部見抜いて、物凄く強い美丈夫を従えて、ドクターとか呼ばれてて…俺、カジノの監視室に居たんだ」
「そうですか」
「それを報告して……結構な地位を持っているかもしれない、少なくとも唯者ではない、引き込むのは無理そうだと、カポネさんが残念がっていました」
「そうですね」
「そんなあなたが、今更どうして…?」
「問い方を変えても言えないものは言えません。そちらも言えないのならそう言ってください。他をあたります。失礼しました」
「え、あっちょっと!!」
「何か」
「……もしかして、あんた、カポネさんを連れ出してくれるのか…?なんて…」
「答える義務はありません」
明らかにウェイとつながりのある鼠王の砂(駒)に情報を開示するのは悪手だった。
それをしない限り埒が明かないと判断したアルゴスは早々にその男からの情報を諦めた。
向こう側から持ち掛けてきたにもかかわらず、何の提示もなく、一方的に求められた情報を無警戒に開示するほど、その男の善性は高くなく、頭も悪くはなかった。
結局、アルゴスは一般人を中心にカポネの身体的特徴を伝え得た僅かな目撃情報をたどることになった。