□カポネさんルート
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PM6:45
――嘘だろ。
ガタン、と、アルゴスは私室の椅子から飛び上がるように立ち上がった。
読んでいた心理学書が手から滑り、耳障りな音を立て落ちるのも気にしている場合ではなかった。
「うおっ!?どうしたんだ急に」
スペースのある部屋の一角でハイパーヨーヨーの練習をしていたイーサンが肩を跳ねさせた。
操っていた2つのヨーヨーがカチンとぶつかって、そのまま腕に絡まってしまった。
アルゴスは呆然と空虚を見つめていた。
否。
再び暴走した視界が運んできた情報に意識を集中させていた。
「おーい、ドクター?」
ペンギン急便の新人らしき少年を襲撃し――そしてペンギン急便の見知った面々と対峙している男の姿を。
昨晩一目惚れし、日中言葉を交わした男の姿を。
「イーサン」
「なんだ?ドクター」
「……世間は思いのほか狭いし、現実はままならないな」
「マジで突然どうした?」
脈絡が無さ過ぎる。悲観的な愚痴でもない。
突然紡がれたアルゴスの言葉に、イーサンは困惑しながら手元に絡まった糸を解いた。
とさり、と力なく着席したアルゴスは、明らかに心ここにあらずといった具合だった。
その表情のつくり方には、やはり違和感があった。
「どうしようもない、できない。これは、私の立場では、」
うわ言のようにそう呟いて、落ちた本も拾わず彼女はまたふらりと立ち上がった。
「ドクター?」
彼女はイーサンを通り過ぎ、そのままベッドに倒れ付した。
身動ぎもせず彼女は動かなくなった。
四肢から力は抜けきってないし、寝息も聞こえないので起きてはいる。
「おーい……」
とりあえずつついてみたが、反応はなかった。
アルゴスの今までにない挙動に、イーサンは困りはてた。
「……なあドクター。これは聞かれなかったから触れないでおいたんだが」
仕方なく、イーサンは彼女の伏すベッドに腰かけた。
足をぶらつかせながらも、彼女の様子を窺いつつ言葉を続ける。
「今そうなってるのって、昨晩話していたことと、今日龍門に出たことに関係あったりするか?」
ばっと彼女は身を起して彼に振り向いた。
「ある」
それだけ溢した彼女の表情に、イーサンは今日一番の違和感を覚えた。
全くこちらに注目していないような――いつもはもっとこちらの存在をかみしめるようにしていたような――気がするのだが。
「あるけど……言えない。関することなんだとは言えるが、そこからの説明ができない」
イーサンが感じた違和感の正体は、まさにそれだった。
彼女は業務時間外の自室でイーサンと時間を共にする間においては、いつでも『サヴラの感染者イーサン』だけに夢中で、恋い慕っていた。
しかし、今のアルゴスの胸には、もう一人分の陰があった。
他でもない『ガンビーノファミリー龍門支部長カポネ』の陰が。
知る由もないイーサンはとりあえず、落ち着きなく眉を下げた彼女の背をなだめすかすように尾の先で叩いた。
「申し訳なさそうにすんなよ。確かに、言えないってのは珍しいけどさぁ」
「うん……言いたくないんだ。これだけは、少し……障る」
「いいって。話したくなきゃそうしとけ」
「ありがとう」
「礼なんて言うなよ。そりゃドクターが話すことはなんだって聞くぜ?けど、だからってなんでも話さなきゃいけないなんてことは絶対にないんだからよ、な?」
「うー……イーサンだいすき」
「はいはい」
ごろんと転がってきた彼女が、イーサンの服の裾を掴んで丸まった。
そんな幼い仕草の彼女を見下ろし、つい頭を撫でようと伸ばした手は、いつものようにかわされてしまった。
何故か彼女は、とりわけ額付近を触られるのを嫌がる。
なので代わりにその肩口を軽く叩くように撫でれば、彼女はただ目を閉じ静かにそれを受け入れた。
いつもは嬉しそうに笑うのだが。
その後、夕食時に彼女を食堂に連れて行き食事を摂らせたのだが。
彼女はずっと、目に見えるほど深刻かつ感情的に、何か考え事をしているようだった。
夕食から戻り、夜が更け。
イーサンが自室に帰る時刻となっても、彼女は悩ましい様子で俯いていた。
しかし結局のところ、彼女はイーサンに何も言わなかった。
――嘘だろ。
ガタン、と、アルゴスは私室の椅子から飛び上がるように立ち上がった。
読んでいた心理学書が手から滑り、耳障りな音を立て落ちるのも気にしている場合ではなかった。
「うおっ!?どうしたんだ急に」
スペースのある部屋の一角でハイパーヨーヨーの練習をしていたイーサンが肩を跳ねさせた。
操っていた2つのヨーヨーがカチンとぶつかって、そのまま腕に絡まってしまった。
アルゴスは呆然と空虚を見つめていた。
否。
再び暴走した視界が運んできた情報に意識を集中させていた。
「おーい、ドクター?」
ペンギン急便の新人らしき少年を襲撃し――そしてペンギン急便の見知った面々と対峙している男の姿を。
昨晩一目惚れし、日中言葉を交わした男の姿を。
「イーサン」
「なんだ?ドクター」
「……世間は思いのほか狭いし、現実はままならないな」
「マジで突然どうした?」
脈絡が無さ過ぎる。悲観的な愚痴でもない。
突然紡がれたアルゴスの言葉に、イーサンは困惑しながら手元に絡まった糸を解いた。
とさり、と力なく着席したアルゴスは、明らかに心ここにあらずといった具合だった。
その表情のつくり方には、やはり違和感があった。
「どうしようもない、できない。これは、私の立場では、」
うわ言のようにそう呟いて、落ちた本も拾わず彼女はまたふらりと立ち上がった。
「ドクター?」
彼女はイーサンを通り過ぎ、そのままベッドに倒れ付した。
身動ぎもせず彼女は動かなくなった。
四肢から力は抜けきってないし、寝息も聞こえないので起きてはいる。
「おーい……」
とりあえずつついてみたが、反応はなかった。
アルゴスの今までにない挙動に、イーサンは困りはてた。
「……なあドクター。これは聞かれなかったから触れないでおいたんだが」
仕方なく、イーサンは彼女の伏すベッドに腰かけた。
足をぶらつかせながらも、彼女の様子を窺いつつ言葉を続ける。
「今そうなってるのって、昨晩話していたことと、今日龍門に出たことに関係あったりするか?」
ばっと彼女は身を起して彼に振り向いた。
「ある」
それだけ溢した彼女の表情に、イーサンは今日一番の違和感を覚えた。
全くこちらに注目していないような――いつもはもっとこちらの存在をかみしめるようにしていたような――気がするのだが。
「あるけど……言えない。関することなんだとは言えるが、そこからの説明ができない」
イーサンが感じた違和感の正体は、まさにそれだった。
彼女は業務時間外の自室でイーサンと時間を共にする間においては、いつでも『サヴラの感染者イーサン』だけに夢中で、恋い慕っていた。
しかし、今のアルゴスの胸には、もう一人分の陰があった。
他でもない『ガンビーノファミリー龍門支部長カポネ』の陰が。
知る由もないイーサンはとりあえず、落ち着きなく眉を下げた彼女の背をなだめすかすように尾の先で叩いた。
「申し訳なさそうにすんなよ。確かに、言えないってのは珍しいけどさぁ」
「うん……言いたくないんだ。これだけは、少し……障る」
「いいって。話したくなきゃそうしとけ」
「ありがとう」
「礼なんて言うなよ。そりゃドクターが話すことはなんだって聞くぜ?けど、だからってなんでも話さなきゃいけないなんてことは絶対にないんだからよ、な?」
「うー……イーサンだいすき」
「はいはい」
ごろんと転がってきた彼女が、イーサンの服の裾を掴んで丸まった。
そんな幼い仕草の彼女を見下ろし、つい頭を撫でようと伸ばした手は、いつものようにかわされてしまった。
何故か彼女は、とりわけ額付近を触られるのを嫌がる。
なので代わりにその肩口を軽く叩くように撫でれば、彼女はただ目を閉じ静かにそれを受け入れた。
いつもは嬉しそうに笑うのだが。
その後、夕食時に彼女を食堂に連れて行き食事を摂らせたのだが。
彼女はずっと、目に見えるほど深刻かつ感情的に、何か考え事をしているようだった。
夕食から戻り、夜が更け。
イーサンが自室に帰る時刻となっても、彼女は悩ましい様子で俯いていた。
しかし結局のところ、彼女はイーサンに何も言わなかった。