□カポネさんルート
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聞こえた声と、肩に置かれた手に、アルゴスの頭は一瞬で冷え切った。
『恋する女』が引き戻され『ドクター』へと切り替わる。
薄く上気していた肌からは嘘のように血の気が引いていた。
「……説明とは?」
彼女の変化に、カポネはわずかに目を見開いた。
他を隔絶しているような目つき。
冷たく、低く、律毅然と感情の揺らぎを抹消した声色。
別人のように生気の引いた肌は、雑に漂白された人形のように白い。
これが彼女の『普段』であったのだが、そのようなことをカポネが知る筈もなかった。
片や、アルゴスが返した言葉に、イグゼキュターは口を閉ざしたまま彼女の肩より手を外していた。
彼女からの問いに対し、脳裏に浮き出た文言を、とっさに発音することを彼は出来なかった。
何故ならそれらは、イグゼキュターにとってどれも意義や意味の無いものであったから。
「どうした?イグゼキュター」
その様子に彼女は疑問符を浮かべた。
反応の早い、打てば響くような彼が即座に返答を返さないのは珍しかった。
「……そちらは?」
間を置いて発されたのはそのような言葉で、彼から話題を転換してくるのはさらに珍しい。
そう思いながらアルゴスはいつものように、『視線』の一つを展開し『最寄りのオペレーター』につけた。
直後見えた光景にアルゴスは心中慌てて、返答のため顔を上げ振り向き口を開いた。
――イグゼキュターは、カポネをわずかに睨むような視線を向けていた。
それを受けたカポネもまた、静かな警戒の意をイグゼキュターに返している。――
目前で敵対の視線が交差するのをすぐにでも止めるべく。
「行きずりの友人だ」
「左様で」
今度は打てば響いた。
瞬きを一つしたイグゼキュターが口を開く前に、アルゴスが続けた。
「私に何の用だ?」
裏の人間であるカポネの名を知られ、下手をしてロドスに認知されるのはあまり好ましくないと思ってのことだった。
好奇心旺盛なゴシップ好きのオペレーターなどに知られ調べられでもしたら最後だ。
掛けられた問いに、イグゼキュターはアルゴスへと視線を移した。
「……至急お耳に入れたいことが」
「耳に入れるだけか?」
「いえ。そのうえで迅速なご判断を」
「わかった。……少しだけすみません、カポネさん」
一転して、先ほどと同じように柔らかな声がカポネに送られた。
折角対話を経て解した表情は、再び作り物の様に固まってしまっているが。
カポネは、その切り替わりをどう受け取るかとっさに判断付かず、空返事のように頷いた。
イグゼキュターは、なぜ?と、再び疑問に似た感情が燻った気がしていた。
――この見知らぬ男に、なぜそのように…私のときよりも嬉しそうに接するのか。私はドクターの憧れであり、付き合いも、身内ですらないその男よりはずっと長いというのに。理解できない。なぜ。
その無意義な疑問がなんなのか。
イグゼキュターには、それに名称があるという発想すら、それが温度を持っていることにも気付きはしなかった。
そんな彼の胸中を知る由もないアルゴスは、カポネの頷きに礼を一つ返し、くいと指先でイグゼキュターに発言を促した。
そこでカチリと思考を切り替えたイグゼキュターは、口元を覆い彼女の耳に寄せた。
これにアルゴスは内心また驚いた。そのまま話し出すと思っていたが、しかし彼の経験からカポネが警戒すべき人物だということを見抜いたのだろうとすぐに納得した。
『違反者』を、数えきれないほど葬ってきた彼の目をアルゴスは信用していた。
イグゼキュターは、確かに経験上その男がこの店内において唯一堅気ではない人物だと薄ら感付いていた。
それに加え、アルゴスの笑顔を引き出したことに対する警戒と嫌悪感も混じっていたが。
しかしその程度の感情をあらわにすることなど月が落ちてもありえないのだろう彼は、息だけの発音で、白く清潔な彼女の耳に、アーミヤより預かった情報を平坦に流し込み始めた。
そうしてアルゴスが情報を受けている最中、カポネの携帯が振動した。
イグゼキュターはとっさに口を閉じ、アルゴスは静かにカポネへと視線を向けた。
カポネはその視線に気付かず携帯の表示を見て通話ボタンを押し、スピーカーに口元を寄せた。
「少し待て」
そう一言発し、通話を切らず携帯をポケットに入れながら顔を上げた。
二人からの視線は予想していたのだろう、カポネは特に驚くことも無く愛想の笑みを浮かべて口を開いた。
「俺の方にもお呼び出しだ。丁度いい、ここらでお開きにするか」
そう言って席を立ったカポネに、アルゴスも微笑みを向けた。
「そうしましょうか」
「約束通りこいつは貰ってくぜ」
言いながらカポネは、既にまとめていた二人分の伝票をひょいと拾い上げた。
彼女に色々と聞きたいことはあったが、もとより待ちかねていた部下からの連絡が入った。
それに加えて、第三者の派手な登場により少しばかり周囲の注目を得てしまっている以上、訪れた離席の機会を潰してまで長居する理由はなかった。
「今日はありがとうございました、楽しかったです」
「ああ、こっちの台詞だ」
カポネは頷きながら、踵を返した。
「連絡楽しみにしてるぜ」
「……機会があれば」
とっさの肯定が来れば言質となったのだが、背中に届いたのは無難な言葉だった。
これについては想定の範囲だったので特に構う事なく、カポネは返答代わりに尾を一振りし、会計に向かった。
これから行う部下への指示を頭の中で組み上げながら。
『恋する女』が引き戻され『ドクター』へと切り替わる。
薄く上気していた肌からは嘘のように血の気が引いていた。
「……説明とは?」
彼女の変化に、カポネはわずかに目を見開いた。
他を隔絶しているような目つき。
冷たく、低く、律毅然と感情の揺らぎを抹消した声色。
別人のように生気の引いた肌は、雑に漂白された人形のように白い。
これが彼女の『普段』であったのだが、そのようなことをカポネが知る筈もなかった。
片や、アルゴスが返した言葉に、イグゼキュターは口を閉ざしたまま彼女の肩より手を外していた。
彼女からの問いに対し、脳裏に浮き出た文言を、とっさに発音することを彼は出来なかった。
何故ならそれらは、イグゼキュターにとってどれも意義や意味の無いものであったから。
「どうした?イグゼキュター」
その様子に彼女は疑問符を浮かべた。
反応の早い、打てば響くような彼が即座に返答を返さないのは珍しかった。
「……そちらは?」
間を置いて発されたのはそのような言葉で、彼から話題を転換してくるのはさらに珍しい。
そう思いながらアルゴスはいつものように、『視線』の一つを展開し『最寄りのオペレーター』につけた。
直後見えた光景にアルゴスは心中慌てて、返答のため顔を上げ振り向き口を開いた。
――イグゼキュターは、カポネをわずかに睨むような視線を向けていた。
それを受けたカポネもまた、静かな警戒の意をイグゼキュターに返している。――
目前で敵対の視線が交差するのをすぐにでも止めるべく。
「行きずりの友人だ」
「左様で」
今度は打てば響いた。
瞬きを一つしたイグゼキュターが口を開く前に、アルゴスが続けた。
「私に何の用だ?」
裏の人間であるカポネの名を知られ、下手をしてロドスに認知されるのはあまり好ましくないと思ってのことだった。
好奇心旺盛なゴシップ好きのオペレーターなどに知られ調べられでもしたら最後だ。
掛けられた問いに、イグゼキュターはアルゴスへと視線を移した。
「……至急お耳に入れたいことが」
「耳に入れるだけか?」
「いえ。そのうえで迅速なご判断を」
「わかった。……少しだけすみません、カポネさん」
一転して、先ほどと同じように柔らかな声がカポネに送られた。
折角対話を経て解した表情は、再び作り物の様に固まってしまっているが。
カポネは、その切り替わりをどう受け取るかとっさに判断付かず、空返事のように頷いた。
イグゼキュターは、なぜ?と、再び疑問に似た感情が燻った気がしていた。
――この見知らぬ男に、なぜそのように…私のときよりも嬉しそうに接するのか。私はドクターの憧れであり、付き合いも、身内ですらないその男よりはずっと長いというのに。理解できない。なぜ。
その無意義な疑問がなんなのか。
イグゼキュターには、それに名称があるという発想すら、それが温度を持っていることにも気付きはしなかった。
そんな彼の胸中を知る由もないアルゴスは、カポネの頷きに礼を一つ返し、くいと指先でイグゼキュターに発言を促した。
そこでカチリと思考を切り替えたイグゼキュターは、口元を覆い彼女の耳に寄せた。
これにアルゴスは内心また驚いた。そのまま話し出すと思っていたが、しかし彼の経験からカポネが警戒すべき人物だということを見抜いたのだろうとすぐに納得した。
『違反者』を、数えきれないほど葬ってきた彼の目をアルゴスは信用していた。
イグゼキュターは、確かに経験上その男がこの店内において唯一堅気ではない人物だと薄ら感付いていた。
それに加え、アルゴスの笑顔を引き出したことに対する警戒と嫌悪感も混じっていたが。
しかしその程度の感情をあらわにすることなど月が落ちてもありえないのだろう彼は、息だけの発音で、白く清潔な彼女の耳に、アーミヤより預かった情報を平坦に流し込み始めた。
そうしてアルゴスが情報を受けている最中、カポネの携帯が振動した。
イグゼキュターはとっさに口を閉じ、アルゴスは静かにカポネへと視線を向けた。
カポネはその視線に気付かず携帯の表示を見て通話ボタンを押し、スピーカーに口元を寄せた。
「少し待て」
そう一言発し、通話を切らず携帯をポケットに入れながら顔を上げた。
二人からの視線は予想していたのだろう、カポネは特に驚くことも無く愛想の笑みを浮かべて口を開いた。
「俺の方にもお呼び出しだ。丁度いい、ここらでお開きにするか」
そう言って席を立ったカポネに、アルゴスも微笑みを向けた。
「そうしましょうか」
「約束通りこいつは貰ってくぜ」
言いながらカポネは、既にまとめていた二人分の伝票をひょいと拾い上げた。
彼女に色々と聞きたいことはあったが、もとより待ちかねていた部下からの連絡が入った。
それに加えて、第三者の派手な登場により少しばかり周囲の注目を得てしまっている以上、訪れた離席の機会を潰してまで長居する理由はなかった。
「今日はありがとうございました、楽しかったです」
「ああ、こっちの台詞だ」
カポネは頷きながら、踵を返した。
「連絡楽しみにしてるぜ」
「……機会があれば」
とっさの肯定が来れば言質となったのだが、背中に届いたのは無難な言葉だった。
これについては想定の範囲だったので特に構う事なく、カポネは返答代わりに尾を一振りし、会計に向かった。
これから行う部下への指示を頭の中で組み上げながら。