□カポネさんルート
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一方。
「――お時間よろしいでしょうか」
「…あっしですかい?」
「ええ。こちらを。人を探しているのですが、お心当たりはありますか?」
「あー…この写真の彼女さんなら――」
彼は、ドクターを探していた。
「――ご協力ありがとうございます。では、失礼します」
黒く染まり切り、それでも止まらない黒化に、歪んだ光輪。
それに劣らず目を引くのは、端正すぎていっそ無機的な顔の造形。
欠落した表情と均一な声色も相まって、もはや作り物と言われても納得してしまう。
「はー…いや、彼女さんもかなり目を引いてやしたが、彼さんも相当…」
などという青年の呟きを背に、イグゼキュターは足早に龍門の奥地へと消えていった。
目撃情報をもとに、彼はアルゴスの元へと着実に近づいていた。
◇
イグゼキュターは、目撃情報のあった、囲いのあるオープンカフェに向けて直進していた。
手荷物の重火器入りアタッシュケースの重さや厚み幅などものともせず、人混みを切るように進む。
さながら、獲物を追い詰めるターミネーターの如く、隙のない身のこなしは鮮やかですらあった。
まもなく、目的のカフェらしき屋根を視認した。
人混みや建物の間から見えてきたのは、1mほどの木製の柵で囲われた小洒落たオープンカフェ。
イグゼキュターは淀みなく接近しながら、鋭くそこを見渡しにかかった。
見当たらなければ店員に聞くだけだが。
無数のテーブルが置かれたオープンテラスの席。
近づくにつれ目視可能になっていく席が増えていく中で、片っ端から視線を回した。
ついにその薄蒼の瞳が目的の人物を捉え――息を呑んだ。
動揺。
到着もしていないのに、イグゼキュターの足はそこで止まっていた。
急に止まるものだから、誰かがぶつかったような気がしたが、彼の思考はそれどころではなかった。
――なぜ?
浮かんだのは驚愕と、次には疑問に限りなく近い、しかし決して異なる感情だった。
イグゼキュターは、その不可思議な感情の名称を知りはしていたが、今抱える感情がそれであると結びつけることはできなかった。
それほどまでにイグゼキュターに衝撃を残したのは、こちらに背を向けるアルゴスの姿。
彼の立ち位置は彼女の真後ろというよりは、やや斜めに位置していたために、その表情が伺えた。
見た事の無い表情だった。
少なくとも、イグゼキュターの記憶の中では。
――何を笑っている?
普段より表情を持たず、親近感を覚えていた。
そんな彼女が、まるで過去に言い寄ってきた女性の様に、顔を赤らめ、眩し気に微笑んでいる。
その光景は全く以て非現実的であり、しかし決して幻覚などではなかった。
別人ではないのかと思いもしたが、座り方と仕草、体格、何よりあの男性的な手は、間違いようもなく彼女のものと合致していた。
一歩、足を進める。
一歩、また一歩と。
――なぜ、気が付かない?
まだ距離は広くあるが、普段ならばとっくに彼女が振り向く範囲内であるというのに。
つい午前中の作戦時、今以上に離れた位置を駆けずっていたイグゼキュターや他のオペレーター等を当然のように把握し、淀みない指示を飛ばしていたのは紛れも無く彼女だ。
ついに木製の柵の前までやってきた。
それでも彼女は気が付かない。
イグゼキュターは柵に手をかけ、軽々と飛び越えた。
その行動に周囲から驚愕の声が上がる。
しかしそれらを気にもせずイグゼキュターは前進した。
カフェにざわめきが走り、そのイグゼキュターの突飛な行動はカポネの視界にも入っていた。
「――は?」
不審物には、必然的に目を奪われるもので。
「どうか?」
首を傾げたアルゴスの向こうで、その不審物、否、それは端正な美丈夫がこちらへ向けて迷いなく歩いてくる。
それを呆然と見つめていれば、その美丈夫は、彼女の肩に手を置いた。
「納得できません」
アルゴスの表情が、瞬時に消え失せた。
「ご説明願います、ドクター」
無機質な美人が、二人に増えた。