□カポネさんルート
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「酒は苦手だったか?」
新しく運ばれてきたコーヒーに目を落とすアルゴスに、カポネは優しく声をかけた。
「俺が勝手にしたことだ。余計な世話だったなら無理するこたないぜ」
「いえ、そんな…!その…いい香りですね」
「味もな。ここのブランデーコーヒーは悪くない」
そうして目の前で一口飲んだカポネの手前、アルゴスもそれに口をつけた。
ブランデーの芳醇な香りと濃厚な深煎りコーヒーの風味が程よくかみ合っていて、確かに上等だった。
人に勧めるにしては少し強いが、などと思うところはあったが、
「どうだ?」
「美味しいです」
そりゃ良かった、と微笑んだカポネを見ていたらどうでもよくなった。
その微笑に気を取られ、つられるようにしてアルゴスも微笑んだ。
この男は、決して絶世の美男というわけでもない。
性格も、良いとは言えない。昨晩見た光景から思うに今は猫をかぶっているのだろう。
だというのに、どうしてか惹かれてやまない。
明らかに含みを持って接してくるこの男が、それでも好きだ、とアルゴスは再認識していた。
対するカポネは、瞬時に我に返った。
不意に向けられた微笑に見とれていたことをすぐに自覚し、早鐘を打ち始めた心臓を落ち着けるため呼吸の速度を落とした。
動揺はない、美女を相手取っているのだから無理もない、と己に言い聞かせてまた一口コーヒーを飲み込んだ。
感情を逃がすように、その尾は苛立たし気に揺れていた。
余談として。
アルゴスが察した通りカポネがブランデーコーヒーをチョイスした理由は、彼女の判断力を酒で落とすためであった。
しかし、警戒を解くため同じものを頼む余裕がある程度には酒に強いカポネ以上に、アルゴスは酒に強かったので無意味だったのだが。
◇
他愛のない会話を重ねる中で、とある確信を得たアルゴスは、それを確かめるように指先を動かした。
ついては来なかった。
しかし、展開した視界で四方を囲い、たっぷりと様子を見ていた彼女は、偶然にしては不自然な比率で動作が似ることに気が付いていた。
意図的なミラーリングが行われていることは明白だった。
他愛ない雑談の中で、ここぞというタイミングでカップに触れる。
その男は腕の動きから動作を読んだのだろう、自然な動きでほぼ同時にカップに触れた。
そのうえ、カップの持ち方まで――彼を見つけてから相席となる間に彼がしていた持ち方と明らかに異なる――アルゴスの持ち方に似せるように変えていた。
「ふふ」
やはり。
目の前の男に観察されている。
その実感がアルゴスは、何故だか嬉しくて、思わず笑いが込み上げた。
観察されることには慣れている。例えば虎視眈々と口説いてくるシルバーアッシュなどが顕著だ。
そうされることに対し、思うところは特にない。
――はずであったのだが。
このカポネという男に注意を払われているという事実だけで、アルゴスの胸は悦で満たされていた。
「ああ…、フッ」
カポネは、己の動作を見て笑った彼女の意図を察したように、笑いを返した。
その実、特に察せているわけではなかったのだが。
丁度同じタイミングでそれぞれのカップを掴んだ男女が、可笑しそうに微笑み合い、カップに口を付ける。
結果として行われた動作は、ごく自然なものだった。
「気が合ったな」
「そうみたいですね」
――なんて嬉しそうな顔をするのだろう、と、カポネは目の前の女を改めて吟味した。
第一印象は、人形のように無機質に整った顔をした女。
だが、商談のように『気を使って』話してみれば、彼女の表情を固めていたものは容易く綻んだ。
外したら負けだというように真っ直ぐ向けられた瞳が、今ではこちらが本性なのか、視線は恥じらうように逸らしがちで可愛げがある。
ほんの少し俯き、眩し気に目を閉じて微笑む癖。
貼り付けたように顔を崩さず、一息を吐くように笑っていたのが嘘のようだ。
環境や感情によって輝きを変える芸術の雫のような瞳は、一貫して美しいばかりだが。
ギャップのような初々しさと可愛らしさも兼ね備えていたのだから、たまらない。
たとえば先ほどその手に触れて褒めてみたのだが。
一見して落ち着いているようで、目を凝らせば明らかに動揺していたのが愉快だった。
視線は泳いでいたし、掴んだ手をわずかに震わせて、その真っ白な肌は薄桃に色付いていた。
新しく運ばれてきたコーヒーに目を落とすアルゴスに、カポネは優しく声をかけた。
「俺が勝手にしたことだ。余計な世話だったなら無理するこたないぜ」
「いえ、そんな…!その…いい香りですね」
「味もな。ここのブランデーコーヒーは悪くない」
そうして目の前で一口飲んだカポネの手前、アルゴスもそれに口をつけた。
ブランデーの芳醇な香りと濃厚な深煎りコーヒーの風味が程よくかみ合っていて、確かに上等だった。
人に勧めるにしては少し強いが、などと思うところはあったが、
「どうだ?」
「美味しいです」
そりゃ良かった、と微笑んだカポネを見ていたらどうでもよくなった。
その微笑に気を取られ、つられるようにしてアルゴスも微笑んだ。
この男は、決して絶世の美男というわけでもない。
性格も、良いとは言えない。昨晩見た光景から思うに今は猫をかぶっているのだろう。
だというのに、どうしてか惹かれてやまない。
明らかに含みを持って接してくるこの男が、それでも好きだ、とアルゴスは再認識していた。
対するカポネは、瞬時に我に返った。
不意に向けられた微笑に見とれていたことをすぐに自覚し、早鐘を打ち始めた心臓を落ち着けるため呼吸の速度を落とした。
動揺はない、美女を相手取っているのだから無理もない、と己に言い聞かせてまた一口コーヒーを飲み込んだ。
感情を逃がすように、その尾は苛立たし気に揺れていた。
余談として。
アルゴスが察した通りカポネがブランデーコーヒーをチョイスした理由は、彼女の判断力を酒で落とすためであった。
しかし、警戒を解くため同じものを頼む余裕がある程度には酒に強いカポネ以上に、アルゴスは酒に強かったので無意味だったのだが。
◇
他愛のない会話を重ねる中で、とある確信を得たアルゴスは、それを確かめるように指先を動かした。
ついては来なかった。
しかし、展開した視界で四方を囲い、たっぷりと様子を見ていた彼女は、偶然にしては不自然な比率で動作が似ることに気が付いていた。
意図的なミラーリングが行われていることは明白だった。
他愛ない雑談の中で、ここぞというタイミングでカップに触れる。
その男は腕の動きから動作を読んだのだろう、自然な動きでほぼ同時にカップに触れた。
そのうえ、カップの持ち方まで――彼を見つけてから相席となる間に彼がしていた持ち方と明らかに異なる――アルゴスの持ち方に似せるように変えていた。
「ふふ」
やはり。
目の前の男に観察されている。
その実感がアルゴスは、何故だか嬉しくて、思わず笑いが込み上げた。
観察されることには慣れている。例えば虎視眈々と口説いてくるシルバーアッシュなどが顕著だ。
そうされることに対し、思うところは特にない。
――はずであったのだが。
このカポネという男に注意を払われているという事実だけで、アルゴスの胸は悦で満たされていた。
「ああ…、フッ」
カポネは、己の動作を見て笑った彼女の意図を察したように、笑いを返した。
その実、特に察せているわけではなかったのだが。
丁度同じタイミングでそれぞれのカップを掴んだ男女が、可笑しそうに微笑み合い、カップに口を付ける。
結果として行われた動作は、ごく自然なものだった。
「気が合ったな」
「そうみたいですね」
――なんて嬉しそうな顔をするのだろう、と、カポネは目の前の女を改めて吟味した。
第一印象は、人形のように無機質に整った顔をした女。
だが、商談のように『気を使って』話してみれば、彼女の表情を固めていたものは容易く綻んだ。
外したら負けだというように真っ直ぐ向けられた瞳が、今ではこちらが本性なのか、視線は恥じらうように逸らしがちで可愛げがある。
ほんの少し俯き、眩し気に目を閉じて微笑む癖。
貼り付けたように顔を崩さず、一息を吐くように笑っていたのが嘘のようだ。
環境や感情によって輝きを変える芸術の雫のような瞳は、一貫して美しいばかりだが。
ギャップのような初々しさと可愛らしさも兼ね備えていたのだから、たまらない。
たとえば先ほどその手に触れて褒めてみたのだが。
一見して落ち着いているようで、目を凝らせば明らかに動揺していたのが愉快だった。
視線は泳いでいたし、掴んだ手をわずかに震わせて、その真っ白な肌は薄桃に色付いていた。