□カポネさんルート
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手に入れたい。
必要だ。
そう思い立てば行動は早かった。
カポネは通りがかるウェイターに声をかけ、新しいコーヒーを2杯分注文した。
「え?」
思わず出たアルゴスの声を制するように、カポネは手を突き出した。
彼女の手元のコーヒーはまだ熱いのに。
そうされてしまうと、彼女は発言を続けられなくなり、受注したウェイターが下がるのを黙って見送るほかなかった。
「この後、どこに行くんだ?」
制した手を下げながら、カポネはあっけらかんと聞いてきた。
「えっと?」
「観光だろ?」
「ああ……いえ。特に、決まったプランは立てていませんので…」
ならよかった、とカポネは笑った。
「もう少し話せればと思ってたんだ」
彼としては、多少強引にでも、彼女を席に縛り付けておきたかった。
それが叶わずとも、既に注文をした以上、このまま離席すれば少なり罪悪感を植え付け、埋め合わせの名目で切っ掛けを作ることもできる。
はした金で恩と印象が売れるならそれを逃す手はなかった。
「でだ。貴重な時間を貰う代わりと言っちゃなんだが、奢るぜ」
「そんな、とんでもない」
「遠慮しなくていいさ。俺の顔を立てると思って、な」
「……そう言われてしまうと。…では、お言葉に甘えさせていただきます、ありがとうございます」
アルゴスはカポネが目に見えて囲い込みに来た気配を感じていた。
そう、きっと『商品を手に入れるためのビジネス』だ。
そうと予測付いても、心臓がくすぐられるような感覚は全く静まってくれないようで。
それどころか、できるだけ高価に見られたいだなんて気持ちまで沸いていることに、アルゴスは溜息を吐きそうになった。
「どこから来たんだ?」
「小さな移動都市からです」
「どこの国だ?」
「ある程度の移動ルートは決まってますが、特定の国家に属してはいませんね」
名称をあえて伏せているのか、都市名がないのか。
しかし深入りするまでもなく、国家でないのなら一人消えてもそう面倒なことにならなそうだ。
まだ湯気の立つレモンコーヒーに口をつけるアルゴスを眺め、カポネは内心ほくそ笑む。
機嫌よく、彼女に倣うように手元の冷めたレモンコーヒーを啜った。
すっきりとした酸味が気を引き締め、ぶれる気持ちを落ち着かせる。
「龍門にはどれぐらい滞在する予定なんだ?」
「どれぐらい……」
アルゴスはレモンの酸味がきき始めたコーヒーもう一口飲み込んだ。
よくある雑談、そして明らかな情報収集。
アルゴスはそれに応じながらも、極力ロドスの名と自分の地位については伏せることにした。
惚れている男に隠し立てしたり嘘を吐くのは心苦しくもあるが、恋心などという完全なる私情に従って振る舞うことは、非常に好ましくないことだ。
立場上、重々承知している。
「宿泊先は?何ならいいホテル紹介しようか?俺の紹介なら安く泊まれるぜ」
カポネは、言い淀まれたことに対してはこれ幸いとあえて追及せず、そのまま言い淀まれたくない質問をアルゴスに投げた。
彼女の良心に頼ることになるが、連続してだんまりを避けたがれば良いと。
彼女の宿泊先に部下を向かわせ多少回収してやれば、彼女を金に困らせることができる。
もしくはまだ決まっていなければ息のかかったホテルに誘導し、目先に留めて置ける。
「ご好意は嬉しいですが。龍門停泊区に移動都市ごと来ているので」
「そうか。それは残念だな」
結果として、現実はままならないものだということが分かった。
カポネの尾がほんの少し元気を無くしたように揺れたのをアルゴスの視界が捉えていた。
「ん?…一つ聞くが、つまり、」
しかしすぐにその尾が気を取り直したようにピクと動いたのも見ていた。
「住んでる移動都市が龍門に寄ったから降りて来ただけで、龍門の何が目当てとかではないのか」
「そうなりますね」
「なら、カジノにはもう行ったか?」
「カジノ?」
随分と大胆に出たな、とアルゴスは僅かに目を見開いた。
「その反応だと、行ってないみたいだな」
カポネは彼女の様子から、そのような場所とは無縁であることを想定し、あえて投げかけていた。
次の手を打つために。
「都会を楽しむなら特にお勧めだ。それとも、賭け事は嫌いか?」
「嫌いというわけではないですが…」
楽しいとも思えない、というのがアルゴスの本音だった。
戦術的な賭けはもちろんとして、賭博などの不確定要素に一喜一憂する趣味はアルゴスにはなかった。
賭博は射幸心を強力に刺激する。故に、のめり込む者は多い。
が、チェルノボーグでの経験により恒常的な罪悪感に捕らわれている彼女の射幸心は、極めて低かった。
もっと言えば、不可視の透視眼を自在にする彼女の能力からして、カード関連のゲームは茶番とも言えた。
「知り合いが営業してるカジノがあってな」
そのような事情を知る筈もないカポネは、先ほどアルゴスのトレーに置いた紙ナプキンを取った。
保有しているカジノに誘導し、ある程度接待し存分に勝たせたうえで最後にガッサリ毟り取るのが狙いだった。
――金に困って、俺を頼り、まずは心身ともに破滅しろ。そうしたら拾い上げて、大事に使ってやる――。
カポネは後でカジノに出す指示を考えながら、余白にそのカジノの番地を書き込んだ。
そうして文字の増えた紙ナプキンをアルゴスに差し出した。
「話は通しておくから、行ってみてくれよ」
「…ありがとうございます」
あてのない観光と言った手前、娯楽施設への紹介を無下にできるはずもなく。
アルゴスは差し出された紙ナプキンを受け取った。
彼女がそれに目を落としたところで、先ほどカポネが注文したコーヒーが運ばれてきた。
必要だ。
そう思い立てば行動は早かった。
カポネは通りがかるウェイターに声をかけ、新しいコーヒーを2杯分注文した。
「え?」
思わず出たアルゴスの声を制するように、カポネは手を突き出した。
彼女の手元のコーヒーはまだ熱いのに。
そうされてしまうと、彼女は発言を続けられなくなり、受注したウェイターが下がるのを黙って見送るほかなかった。
「この後、どこに行くんだ?」
制した手を下げながら、カポネはあっけらかんと聞いてきた。
「えっと?」
「観光だろ?」
「ああ……いえ。特に、決まったプランは立てていませんので…」
ならよかった、とカポネは笑った。
「もう少し話せればと思ってたんだ」
彼としては、多少強引にでも、彼女を席に縛り付けておきたかった。
それが叶わずとも、既に注文をした以上、このまま離席すれば少なり罪悪感を植え付け、埋め合わせの名目で切っ掛けを作ることもできる。
はした金で恩と印象が売れるならそれを逃す手はなかった。
「でだ。貴重な時間を貰う代わりと言っちゃなんだが、奢るぜ」
「そんな、とんでもない」
「遠慮しなくていいさ。俺の顔を立てると思って、な」
「……そう言われてしまうと。…では、お言葉に甘えさせていただきます、ありがとうございます」
アルゴスはカポネが目に見えて囲い込みに来た気配を感じていた。
そう、きっと『商品を手に入れるためのビジネス』だ。
そうと予測付いても、心臓がくすぐられるような感覚は全く静まってくれないようで。
それどころか、できるだけ高価に見られたいだなんて気持ちまで沸いていることに、アルゴスは溜息を吐きそうになった。
「どこから来たんだ?」
「小さな移動都市からです」
「どこの国だ?」
「ある程度の移動ルートは決まってますが、特定の国家に属してはいませんね」
名称をあえて伏せているのか、都市名がないのか。
しかし深入りするまでもなく、国家でないのなら一人消えてもそう面倒なことにならなそうだ。
まだ湯気の立つレモンコーヒーに口をつけるアルゴスを眺め、カポネは内心ほくそ笑む。
機嫌よく、彼女に倣うように手元の冷めたレモンコーヒーを啜った。
すっきりとした酸味が気を引き締め、ぶれる気持ちを落ち着かせる。
「龍門にはどれぐらい滞在する予定なんだ?」
「どれぐらい……」
アルゴスはレモンの酸味がきき始めたコーヒーもう一口飲み込んだ。
よくある雑談、そして明らかな情報収集。
アルゴスはそれに応じながらも、極力ロドスの名と自分の地位については伏せることにした。
惚れている男に隠し立てしたり嘘を吐くのは心苦しくもあるが、恋心などという完全なる私情に従って振る舞うことは、非常に好ましくないことだ。
立場上、重々承知している。
「宿泊先は?何ならいいホテル紹介しようか?俺の紹介なら安く泊まれるぜ」
カポネは、言い淀まれたことに対してはこれ幸いとあえて追及せず、そのまま言い淀まれたくない質問をアルゴスに投げた。
彼女の良心に頼ることになるが、連続してだんまりを避けたがれば良いと。
彼女の宿泊先に部下を向かわせ多少回収してやれば、彼女を金に困らせることができる。
もしくはまだ決まっていなければ息のかかったホテルに誘導し、目先に留めて置ける。
「ご好意は嬉しいですが。龍門停泊区に移動都市ごと来ているので」
「そうか。それは残念だな」
結果として、現実はままならないものだということが分かった。
カポネの尾がほんの少し元気を無くしたように揺れたのをアルゴスの視界が捉えていた。
「ん?…一つ聞くが、つまり、」
しかしすぐにその尾が気を取り直したようにピクと動いたのも見ていた。
「住んでる移動都市が龍門に寄ったから降りて来ただけで、龍門の何が目当てとかではないのか」
「そうなりますね」
「なら、カジノにはもう行ったか?」
「カジノ?」
随分と大胆に出たな、とアルゴスは僅かに目を見開いた。
「その反応だと、行ってないみたいだな」
カポネは彼女の様子から、そのような場所とは無縁であることを想定し、あえて投げかけていた。
次の手を打つために。
「都会を楽しむなら特にお勧めだ。それとも、賭け事は嫌いか?」
「嫌いというわけではないですが…」
楽しいとも思えない、というのがアルゴスの本音だった。
戦術的な賭けはもちろんとして、賭博などの不確定要素に一喜一憂する趣味はアルゴスにはなかった。
賭博は射幸心を強力に刺激する。故に、のめり込む者は多い。
が、チェルノボーグでの経験により恒常的な罪悪感に捕らわれている彼女の射幸心は、極めて低かった。
もっと言えば、不可視の透視眼を自在にする彼女の能力からして、カード関連のゲームは茶番とも言えた。
「知り合いが営業してるカジノがあってな」
そのような事情を知る筈もないカポネは、先ほどアルゴスのトレーに置いた紙ナプキンを取った。
保有しているカジノに誘導し、ある程度接待し存分に勝たせたうえで最後にガッサリ毟り取るのが狙いだった。
――金に困って、俺を頼り、まずは心身ともに破滅しろ。そうしたら拾い上げて、大事に使ってやる――。
カポネは後でカジノに出す指示を考えながら、余白にそのカジノの番地を書き込んだ。
そうして文字の増えた紙ナプキンをアルゴスに差し出した。
「話は通しておくから、行ってみてくれよ」
「…ありがとうございます」
あてのない観光と言った手前、娯楽施設への紹介を無下にできるはずもなく。
アルゴスは差し出された紙ナプキンを受け取った。
彼女がそれに目を落としたところで、先ほどカポネが注文したコーヒーが運ばれてきた。