□カポネさんルート
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AM7:00
数時間の睡眠を経て二刻ほど前に起床したアルゴスは、自室の扉を開けた。
半数の視界は未だ眠っているが、作戦までにはじきに覚醒する為支障はない。
執務室に到着する前に、秘書のノイルホーンとアーミヤに食堂へ引っ張られたりした。
幸か不幸か。
本日の作戦は午前中、龍門市街地においてレユニオンの襲撃を阻止。のみ。
それ以降は午後休となっている。
元来、イーサンと同じくアルゴスも本日は休日の予定であった。
しかし昨日になって急遽ウェイからの申し入れがあり、彼の人直々の依頼となれば動かざるを得なかった。
今夜、龍門では安魂祭というイベントがある。
騒ぎに乗じて――否、午前途中であることから、非感染者の楽しみを壊す意味でか。楽しみを目前に浮足立った街の不意をつく意味でか。
『行事を狙う気持ちはわからないでもないが、そういった予想の付く依頼は前もってできたはずだ』と半ば立腹していたアーミヤをなだめるなどした。
「折角だ。午後はそんな龍門を歩かせてもらうとしよう」
「え?…ただでさえ人通りの多い龍門にですか?」
「珍しいな。ドクターが自分から外を歩きたがるなんて」
「まあ……たまにはな」
◇
龍門の中での戦闘は初めてではない。
しかし毎度ながら市街地まで侵入してくるだけあって、その物量と用意周到さはすさまじい。
人や障害物に紛れるレユニオンをいち早く見つけ伝達し――負傷したオペレーターが潰れる前に交代を走らせて医療チームの控える後方まで撤退させ――第何波目かの敵の攻勢に最適な配置と支持を飛ばし――。
飛び回るアルゴスの視界と、卓越した指示。
それらは全く衰えを見せず発揮され、作戦は当然のように完遂された。
想定外の負傷者もなく、基地に戻りメディカルチェックでも問題なしのお墨付きを受領。
午後も仕事のあるアーミヤに惜しまれながらも引継ぎを終えれば、アルゴスは自由の身となった。
秘書兼護衛を勤めたノイルホーンも、彼が本来所属する隊へと戻っていった。
◇
PM0:30
自室の中でしか袖を通すことのなかったロングカーディガンが、龍門の風にさらりと揺れた。
――こんなことあるか?
アルゴスは困惑していた。
「お客様」
「あ?」
「あいにくと席がいっぱいで。お一人様の方には相席をお願いしております。よろしいでしょうか」
品定めするような細い瞳孔が己に向けられて、どうにも落ち着かない。
作戦中に着用するロドスの装い以外で、護衛もつけず基地外に出るのは、(記憶を失ってからは)初めてのことかもしれないとアルゴスは今更ながら気が付いた。
「……好きにしな」
外された視線に一礼し、そのテーブルにアルゴスのトレーを置いたところで店員は去っていった。
「失礼します。ごゆっくり」
などと言い残して。
アルゴスはそれを会釈で見送り、そして目の前に座る男に向き直った。
「すみません、ありがとうございます」
目前の椅子を引き、着席がてら言えば、再び視線が向けられた。
半ば混乱混じりではあるが、幸いにも取り繕うだけの理性は持ち合わせていた。
――まさか、相席することになるとは、夢にも思わなかった。
丸いテーブルを挟んでアルゴスの向かいに座る男こそ、アルゴスが不自然にも龍門を訪れた理由。
昨晩アルゴスが一目惚れをした男、ガンビーノファミリーのカポネその人であった。
実在するのか、疑っているわけでもなかったが確認したい気持ちから、数多の支線を動員し探しはしていた。
結果、偶然か探し始めて5分と経たず付近のオープンカフェで財政専門紙を読み込んでいる姿を見つけるに至った。
この時点で出来すぎている気がしていた。
だのに、同じカフェに入店し注文したところでちょうどひとつ前の客で満席となり、店員の案内で通された先がこの席であった衝撃と来たら。
もはや運命とも思えてしまうほどの状況に、困惑するほかなかった――。
「この辺じゃ見ない顔だな」
一方、カポネは目の前に座る女に同情した。
厄介な男に自ら声を掛け、付け入る隙を与えてしまった不運を。
同席しても不快に思わない容姿をしていたから追い返さなかっただけであり、黙っていれば見逃したというのに。
「観光か?」
「みたいなものです」
「だと思った」
顔だけでなく、声もかなり上等だった。
巧く捕まえて売りに出すことができれば、当分需要は止まないだろうと。
「なんせ、この龍門でもなかなか見ない美人だ」
カポネは新聞を畳み、人好きする笑顔を向けた。
それを受けた彼女は、じっと表情を崩さずカポネの瞳を見つめ、礼を言った。
「上手ですね」
「いや、本当に」
その緑の瞳と初めて真っ直ぐ向き合ったその時、カポネの呼吸が僅かに狂った。
「…一度見たら忘れられないだろ」
自然に出た感想だった。
それは、『まるで魔法の宝石のような』とかいう手垢だらけの表現が、本当に似合ってしまうような瞳だった。
目があった直後、――雲が一時的に太陽を隠し、日差しが弱まったのだが、すると――今まで黄金を帯びていると思っていた光彩の輝きが変わった。
それは今、どこまでも純粋で、果てなく吸い込まれそうな一色――悪魔が着る服の色が緑と言うのなら、それはきっとこの色に違いない――に変じていた。
ここまで美しく見応えのあるものを、およそカポネは生まれて初めて目の当たりにした。
否。
金でも、武器でも、『道具』でもないものに、初めて思考を奪われた。
それは一瞬のことではあったが。
「ありがとうございます。そこまで言われると、少し照れてしまいますが」
そう言いながら逸れず崩れずを保った彼女の顔。
しかし、どことなく焦るようなまばたきを三度もしていた。
数時間の睡眠を経て二刻ほど前に起床したアルゴスは、自室の扉を開けた。
半数の視界は未だ眠っているが、作戦までにはじきに覚醒する為支障はない。
執務室に到着する前に、秘書のノイルホーンとアーミヤに食堂へ引っ張られたりした。
幸か不幸か。
本日の作戦は午前中、龍門市街地においてレユニオンの襲撃を阻止。のみ。
それ以降は午後休となっている。
元来、イーサンと同じくアルゴスも本日は休日の予定であった。
しかし昨日になって急遽ウェイからの申し入れがあり、彼の人直々の依頼となれば動かざるを得なかった。
今夜、龍門では安魂祭というイベントがある。
騒ぎに乗じて――否、午前途中であることから、非感染者の楽しみを壊す意味でか。楽しみを目前に浮足立った街の不意をつく意味でか。
『行事を狙う気持ちはわからないでもないが、そういった予想の付く依頼は前もってできたはずだ』と半ば立腹していたアーミヤをなだめるなどした。
「折角だ。午後はそんな龍門を歩かせてもらうとしよう」
「え?…ただでさえ人通りの多い龍門にですか?」
「珍しいな。ドクターが自分から外を歩きたがるなんて」
「まあ……たまにはな」
◇
龍門の中での戦闘は初めてではない。
しかし毎度ながら市街地まで侵入してくるだけあって、その物量と用意周到さはすさまじい。
人や障害物に紛れるレユニオンをいち早く見つけ伝達し――負傷したオペレーターが潰れる前に交代を走らせて医療チームの控える後方まで撤退させ――第何波目かの敵の攻勢に最適な配置と支持を飛ばし――。
飛び回るアルゴスの視界と、卓越した指示。
それらは全く衰えを見せず発揮され、作戦は当然のように完遂された。
想定外の負傷者もなく、基地に戻りメディカルチェックでも問題なしのお墨付きを受領。
午後も仕事のあるアーミヤに惜しまれながらも引継ぎを終えれば、アルゴスは自由の身となった。
秘書兼護衛を勤めたノイルホーンも、彼が本来所属する隊へと戻っていった。
◇
PM0:30
自室の中でしか袖を通すことのなかったロングカーディガンが、龍門の風にさらりと揺れた。
――こんなことあるか?
アルゴスは困惑していた。
「お客様」
「あ?」
「あいにくと席がいっぱいで。お一人様の方には相席をお願いしております。よろしいでしょうか」
品定めするような細い瞳孔が己に向けられて、どうにも落ち着かない。
作戦中に着用するロドスの装い以外で、護衛もつけず基地外に出るのは、(記憶を失ってからは)初めてのことかもしれないとアルゴスは今更ながら気が付いた。
「……好きにしな」
外された視線に一礼し、そのテーブルにアルゴスのトレーを置いたところで店員は去っていった。
「失礼します。ごゆっくり」
などと言い残して。
アルゴスはそれを会釈で見送り、そして目の前に座る男に向き直った。
「すみません、ありがとうございます」
目前の椅子を引き、着席がてら言えば、再び視線が向けられた。
半ば混乱混じりではあるが、幸いにも取り繕うだけの理性は持ち合わせていた。
――まさか、相席することになるとは、夢にも思わなかった。
丸いテーブルを挟んでアルゴスの向かいに座る男こそ、アルゴスが不自然にも龍門を訪れた理由。
昨晩アルゴスが一目惚れをした男、ガンビーノファミリーのカポネその人であった。
実在するのか、疑っているわけでもなかったが確認したい気持ちから、数多の支線を動員し探しはしていた。
結果、偶然か探し始めて5分と経たず付近のオープンカフェで財政専門紙を読み込んでいる姿を見つけるに至った。
この時点で出来すぎている気がしていた。
だのに、同じカフェに入店し注文したところでちょうどひとつ前の客で満席となり、店員の案内で通された先がこの席であった衝撃と来たら。
もはや運命とも思えてしまうほどの状況に、困惑するほかなかった――。
「この辺じゃ見ない顔だな」
一方、カポネは目の前に座る女に同情した。
厄介な男に自ら声を掛け、付け入る隙を与えてしまった不運を。
同席しても不快に思わない容姿をしていたから追い返さなかっただけであり、黙っていれば見逃したというのに。
「観光か?」
「みたいなものです」
「だと思った」
顔だけでなく、声もかなり上等だった。
巧く捕まえて売りに出すことができれば、当分需要は止まないだろうと。
「なんせ、この龍門でもなかなか見ない美人だ」
カポネは新聞を畳み、人好きする笑顔を向けた。
それを受けた彼女は、じっと表情を崩さずカポネの瞳を見つめ、礼を言った。
「上手ですね」
「いや、本当に」
その緑の瞳と初めて真っ直ぐ向き合ったその時、カポネの呼吸が僅かに狂った。
「…一度見たら忘れられないだろ」
自然に出た感想だった。
それは、『まるで魔法の宝石のような』とかいう手垢だらけの表現が、本当に似合ってしまうような瞳だった。
目があった直後、――雲が一時的に太陽を隠し、日差しが弱まったのだが、すると――今まで黄金を帯びていると思っていた光彩の輝きが変わった。
それは今、どこまでも純粋で、果てなく吸い込まれそうな一色――悪魔が着る服の色が緑と言うのなら、それはきっとこの色に違いない――に変じていた。
ここまで美しく見応えのあるものを、およそカポネは生まれて初めて目の当たりにした。
否。
金でも、武器でも、『道具』でもないものに、初めて思考を奪われた。
それは一瞬のことではあったが。
「ありがとうございます。そこまで言われると、少し照れてしまいますが」
そう言いながら逸れず崩れずを保った彼女の顔。
しかし、どことなく焦るようなまばたきを三度もしていた。