□カポネさんルート
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稀に起こる能力の暴走。
視界が意志に反して動き回る感覚。
大きな支障はなく、むしろ見識を広げることもあるそれを、アルゴスはいつも野放しにしている。
――見えるものは見知らぬ景色であることがほとんどだが、稀に他組織側の会話や、敵地に置き去りにしてしまった仲間の息吹などを拾うこともある。
能力を隠している故、それを味方に伝えることもできず(この能力は部下に不快感や恐怖を抱かせ指揮に支障が出る可能性がある)、黙認に苦しむことがままあるが、あくまで動揺や心の糧にできる支障止まりであった。――
が、この時ばかりの暴走は。
ドクターにとって大きな大きな、取り返しのつかないほど大きな支障の原因となった。
およそ黎明の刻
「なにもかも…女、女、女どもが!!ふざけやがってッ!」
「よせガンビーノ!」
「!」
「あ、ドクター…! …あーあ…言わんこっちゃない」
その日、アルゴスは手を差し伸べた狼の刃によって貫かれた。
「ガンビーノ……っのクソが!!なにもかも…本当にッ何もかもお前がぶち壊しやがった!学習って言葉を知らねえのか*龍門スラング*野郎!!」
「黙れカポネ。シチリア人の誇りを二度捨てる気はねえ。そう俺は何度も言ったよな、腰抜けがよ!」
「なら大人しくおっ死んでろ!!この女の手を掴めば少なくとも生きられたんだ……よくも俺を道連れにしやがったな!」
「うん、その通りだ。」
「!」
「……」
「非常に残念だ。彼女は『我が主』……『我らが主』であったのに…それを失うなんて世界の損失にほかならない。
そうしてしまったゴミも、それを止められなかったクズも、同罪だ。」
「おい、とっとと構えろカポネ」
「はっ……意味ねえよ。俺達はもう」
「あはははは!そうさ、君たち、もう楽に死ねないよ。うん、たとえ僕が飽きて許しても、ロドスのみんなは絶対に許しはしない」
◇
PM11:35
発端は、昨晩…否、正確には一昨日の深夜の出来事だった。
暴走する視界を感じつつも、それを遊ばせたまま、アルゴスは書類仕事を行っていた。
弾薬や障害物などといった戦闘用物資の計算が予定外に合わず、月はすでに真上まで昇っている。
そこで、暴走している視界の一つが、とある人物の姿を捉えた。
それは、まったくの偶然。
「…! ……」
されど、それが、全ての始まりだった。
皮切りに、いわゆる時間外労働中のアルゴスは――はたから見れば唐突に――頭を抱えた。
「イーサン」
そして、傍らで別件の資料を作る本日の秘書に顔を向けた。
翌日が休日であることを抜きにしても、こんな時間まで働くドクターに付き合ってしまった彼も彼である。
「不味いことになった」
「どーしたよドクター?クラッシュでもしたか?」
自分の仕事から手を離さずに投げられたイーサンの返答。
質問されてみることで、その答えを改めて自覚してしまったアルゴスは、両手で顔を覆った。
「一目惚れだ」
イーサンの手が止まった。
「……ハイ?」
あまりにも今の状況と結びつかな過ぎる申告に困惑した彼は、目を点にして端末から顔を上げた。
対するアルゴスは、噛み締めるようなため息を大きく吐いていた。
「最悪だ。私は、一目惚れをしてしまったようなんだ」
「一目惚れって…誰に?」
「名も知らぬ、龍門に居る男に」
「えーと?、なんでよりによって今…?」
「私が聞きたい……」
悲壮感の塊のようにアルゴスは顔を覆ったまま俯いた。
ズーンとでも聞こえてきそうなほどだ。
「はあ……」
イーサンは、突然のことにどうしたものかと困った。
しかし、痛々しさ無く落ち込んでいるアルゴスの姿を、彼は初めて見た。
色恋に悩むなどむしろ微笑ましいぐらいのもので、思いもよらず新鮮だった。
そんなドクターにかける言葉を考えながら、物珍し気にそれを眺めるなどしてみた。
一方、双眸を遮断したことでアルゴスの意識は無意識に、暴走する視界の先へと集中していた。
そこに映る男が動き、言葉を紡いでいる。
声はわからないが、読唇術を学んでいたため発している言葉はなんとなくわかる。
ポーカー。
スペードのジャック。すり替えた指の動き。
ストレートフラッシュ。
口ぶりから男は明らかに犯罪組織の重鎮のようでもあった。不運以外の何物でもない。
それでもその男が動く度、吸い寄せられるような衝撃がアルゴスの全身を駆け巡っていた。
決して不快感ではない、いつまでも見ていたくなるような、明らかな好意を自覚した。
上耳と下耳…スチュワードなどのように、獣型と人型双方の特徴を継いだタイプなのだと分かる。
スモーキーだが鮮やかにも見える鈍色の髪と体毛は、長すぎず、しかし量は多いようで、毛布のようにふかふかとしている。
立派なループスとつるんでいるからか、比較してしまうと上耳は小さく丸く見える。
それを誤魔化しているのか、それとも絶え間なく警戒している性格なのか。
ぺたりと伏せられた上耳はどこか愛らしい。
(耳を伏せる理由がもし後者なら、親近感でもっと好きになりそうだ。)
黄色いカラーグラスは、威圧するように大きめで反射率が高い。目を凝らさなければその瞳から感情を読むことは出来ないだろう。
その奥に見える瞳は、およそ苦痛と穢れをうんざりするほど知りつくしたような眼差しで――悪く言えば胡散臭く濁っていた。
よく言えば経験者特有の魅力に溢れていた。
ゆったりと動くのは、フカフカの太い尾。
無骨で丈夫そうなそれは全くデリケートな部位には見えず、思いきり掴んで撫で摩り顔を埋めたくなる。
「とりあえず指図書は完成したのか?ドクター。
悩んでいるトコ悪いんだけどさ」
アルゴスはハッと意識を取り戻した。
「いや、もう少しだ。すまない、手が止まっていた。」
「お望みなら明日にでも相談には乗ってやるから、今日のうちは今まで抑えていたようにしてくれや」
「……ああ」
アルゴスはたった今、一目惚れをしたわけだが。
彼女の能力を知らされていないイーサンは、燻っていた想いを何かのはずみで今自覚したのだと解釈したようだった。
「イーサンの方はどうだ?」
「俺が今やってんの明後日のノルマだし、いい加減眠くなってきたよ」
「そうか……申し訳無い。付き合ってくれてありがとう」
「いいって」
「フッ……イーサンは本当に優しいな」
「ドクター。他のやつらだってきっと同じようにするだろうし、俺が特別な訳じゃないからな」
「わかっている。大丈夫」
「ならいいんだけどさぁ」
結局、執務室の電気が落とされたのは日付を越えて30分後の事だった。
視界が意志に反して動き回る感覚。
大きな支障はなく、むしろ見識を広げることもあるそれを、アルゴスはいつも野放しにしている。
――見えるものは見知らぬ景色であることがほとんどだが、稀に他組織側の会話や、敵地に置き去りにしてしまった仲間の息吹などを拾うこともある。
能力を隠している故、それを味方に伝えることもできず(この能力は部下に不快感や恐怖を抱かせ指揮に支障が出る可能性がある)、黙認に苦しむことがままあるが、あくまで動揺や心の糧にできる支障止まりであった。――
が、この時ばかりの暴走は。
ドクターにとって大きな大きな、取り返しのつかないほど大きな支障の原因となった。
およそ黎明の刻
「なにもかも…女、女、女どもが!!ふざけやがってッ!」
「よせガンビーノ!」
「!」
「あ、ドクター…! …あーあ…言わんこっちゃない」
その日、アルゴスは手を差し伸べた狼の刃によって貫かれた。
「ガンビーノ……っのクソが!!なにもかも…本当にッ何もかもお前がぶち壊しやがった!学習って言葉を知らねえのか*龍門スラング*野郎!!」
「黙れカポネ。シチリア人の誇りを二度捨てる気はねえ。そう俺は何度も言ったよな、腰抜けがよ!」
「なら大人しくおっ死んでろ!!この女の手を掴めば少なくとも生きられたんだ……よくも俺を道連れにしやがったな!」
「うん、その通りだ。」
「!」
「……」
「非常に残念だ。彼女は『我が主』……『我らが主』であったのに…それを失うなんて世界の損失にほかならない。
そうしてしまったゴミも、それを止められなかったクズも、同罪だ。」
「おい、とっとと構えろカポネ」
「はっ……意味ねえよ。俺達はもう」
「あはははは!そうさ、君たち、もう楽に死ねないよ。うん、たとえ僕が飽きて許しても、ロドスのみんなは絶対に許しはしない」
◇
PM11:35
発端は、昨晩…否、正確には一昨日の深夜の出来事だった。
暴走する視界を感じつつも、それを遊ばせたまま、アルゴスは書類仕事を行っていた。
弾薬や障害物などといった戦闘用物資の計算が予定外に合わず、月はすでに真上まで昇っている。
そこで、暴走している視界の一つが、とある人物の姿を捉えた。
それは、まったくの偶然。
「…! ……」
されど、それが、全ての始まりだった。
皮切りに、いわゆる時間外労働中のアルゴスは――はたから見れば唐突に――頭を抱えた。
「イーサン」
そして、傍らで別件の資料を作る本日の秘書に顔を向けた。
翌日が休日であることを抜きにしても、こんな時間まで働くドクターに付き合ってしまった彼も彼である。
「不味いことになった」
「どーしたよドクター?クラッシュでもしたか?」
自分の仕事から手を離さずに投げられたイーサンの返答。
質問されてみることで、その答えを改めて自覚してしまったアルゴスは、両手で顔を覆った。
「一目惚れだ」
イーサンの手が止まった。
「……ハイ?」
あまりにも今の状況と結びつかな過ぎる申告に困惑した彼は、目を点にして端末から顔を上げた。
対するアルゴスは、噛み締めるようなため息を大きく吐いていた。
「最悪だ。私は、一目惚れをしてしまったようなんだ」
「一目惚れって…誰に?」
「名も知らぬ、龍門に居る男に」
「えーと?、なんでよりによって今…?」
「私が聞きたい……」
悲壮感の塊のようにアルゴスは顔を覆ったまま俯いた。
ズーンとでも聞こえてきそうなほどだ。
「はあ……」
イーサンは、突然のことにどうしたものかと困った。
しかし、痛々しさ無く落ち込んでいるアルゴスの姿を、彼は初めて見た。
色恋に悩むなどむしろ微笑ましいぐらいのもので、思いもよらず新鮮だった。
そんなドクターにかける言葉を考えながら、物珍し気にそれを眺めるなどしてみた。
一方、双眸を遮断したことでアルゴスの意識は無意識に、暴走する視界の先へと集中していた。
そこに映る男が動き、言葉を紡いでいる。
声はわからないが、読唇術を学んでいたため発している言葉はなんとなくわかる。
ポーカー。
スペードのジャック。すり替えた指の動き。
ストレートフラッシュ。
口ぶりから男は明らかに犯罪組織の重鎮のようでもあった。不運以外の何物でもない。
それでもその男が動く度、吸い寄せられるような衝撃がアルゴスの全身を駆け巡っていた。
決して不快感ではない、いつまでも見ていたくなるような、明らかな好意を自覚した。
上耳と下耳…スチュワードなどのように、獣型と人型双方の特徴を継いだタイプなのだと分かる。
スモーキーだが鮮やかにも見える鈍色の髪と体毛は、長すぎず、しかし量は多いようで、毛布のようにふかふかとしている。
立派なループスとつるんでいるからか、比較してしまうと上耳は小さく丸く見える。
それを誤魔化しているのか、それとも絶え間なく警戒している性格なのか。
ぺたりと伏せられた上耳はどこか愛らしい。
(耳を伏せる理由がもし後者なら、親近感でもっと好きになりそうだ。)
黄色いカラーグラスは、威圧するように大きめで反射率が高い。目を凝らさなければその瞳から感情を読むことは出来ないだろう。
その奥に見える瞳は、およそ苦痛と穢れをうんざりするほど知りつくしたような眼差しで――悪く言えば胡散臭く濁っていた。
よく言えば経験者特有の魅力に溢れていた。
ゆったりと動くのは、フカフカの太い尾。
無骨で丈夫そうなそれは全くデリケートな部位には見えず、思いきり掴んで撫で摩り顔を埋めたくなる。
「とりあえず指図書は完成したのか?ドクター。
悩んでいるトコ悪いんだけどさ」
アルゴスはハッと意識を取り戻した。
「いや、もう少しだ。すまない、手が止まっていた。」
「お望みなら明日にでも相談には乗ってやるから、今日のうちは今まで抑えていたようにしてくれや」
「……ああ」
アルゴスはたった今、一目惚れをしたわけだが。
彼女の能力を知らされていないイーサンは、燻っていた想いを何かのはずみで今自覚したのだと解釈したようだった。
「イーサンの方はどうだ?」
「俺が今やってんの明後日のノルマだし、いい加減眠くなってきたよ」
「そうか……申し訳無い。付き合ってくれてありがとう」
「いいって」
「フッ……イーサンは本当に優しいな」
「ドクター。他のやつらだってきっと同じようにするだろうし、俺が特別な訳じゃないからな」
「わかっている。大丈夫」
「ならいいんだけどさぁ」
結局、執務室の電気が落とされたのは日付を越えて30分後の事だった。