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【愛らしい人】
――ドクターは、気付いてくれる――。
アルゴスの事についてどのように思っているかと質問された場合には、こう答えようとマンティコアは心に決めていた。
その日、マンティコアはロドスの廊下に立っていた。
彼女に備わる天与の資でもあるステルス技能は健在で、いつの日も、人は彼女の存在に気付くことなく通り過ぎていく。
――ドクターを除いて。
今より通り過ぎるのだろうその姿を認めるたびに、マンティコアの心はくすぶるように踊った。
きっと自分はドクターを待っていたのだろう、と錯覚するほどには。
まっすぐと目的地へと向かうドクターは、マンティコアを一瞥して通り過ぎるだけだった。
その一瞥にまず、浮かび上がるほどの承認欲求が満たされるのを感じた。
「あ、あの」
さらなる承認を求めて、マンティコアは振り向いて声を出した。
ふつうは、気付かれずに終わってしまう。
が、ドクターの足は止まった。
認識していた故に、それが発した小さな声を耳に拾い、振り向いた。
「んっ?」
紫色の髪が揺れる。
マンティコアは見とれるように、その色を目で追った。
「(私と同じだけど、もっと暗い色…。)」
「どうした?マンティコア」
ドクターは当然のようにマンティコアへ視線を向けた。
あまりにも当然、あまりにも確固として。
「(緑色の宝石…)」
それは己の桃とおよそ反対に位置する色なのだと、以前読んだ本の記述がマンティコアの脳裏を掠めた。
改めて見れば見るほど、その瞳は深く冴え、水草の豊かな清泉のようにも思えた。
「……きれい」
「綺麗?」
「あっ…」
脈絡のない言葉となってしまった、とマンティコアは気が付いた。
それでも、ドクターは呆れるでもなく、ただ首をかしげて当然のように会話を続ける。
その姿にまた、承認された気持ちがマンティコアを温めた。
「えっとね…」
高くからやってくる視線。真顔の問い。
しかしマンティコアは恐れなく微笑んだ。
――見た目は無表情で、少し怖いかもしれない。
それでも、その声は、優しい。
仕草は、感情を察しやすい。
作られたものだとしても、――作ったものだからこそ。
「ドクターが、きれいなの……」
「そうか」
ドクターはその言葉に照れるでもなく、マンティコアに近づいた。
「ありがとう。マンティコアも綺麗だよ」
「ふぇっ!?」
「以前も言った覚えがあるが…、その頭翼と尾はいつ見かけても美しく、マンティコアはとても愛らしくて綺麗だ」
当然のように返ってきた言葉が、マンティコアの顔を熱くした。
ドクターは相変わらず、顔色一つ変わらない。
が。
その、女性にしては大きく、男性的な手を持ち上げていた。
「話し掛けてくれてありがとう。元気が出た」
「あっ…え…」
ぽんっとマンティコアの肩を軽く叩く。
マンティコアが温もりを感じる前にその手は離れていった。
「んっ?」
「えっと…」
名残惜しげな声を出したマンティコアに、ドクターは首を傾げた。
しかしマンティコアも、まさかそのまま言うわけにもいかず、しばらく視線を泳がせたのちに「なんでもないの」と愛想笑った。
ドクターは思考を回したのち、その健気なマンティコアの頭を撫でまわしたのだった。
END.
――ドクターは、気付いてくれる――。
アルゴスの事についてどのように思っているかと質問された場合には、こう答えようとマンティコアは心に決めていた。
その日、マンティコアはロドスの廊下に立っていた。
彼女に備わる天与の資でもあるステルス技能は健在で、いつの日も、人は彼女の存在に気付くことなく通り過ぎていく。
――ドクターを除いて。
今より通り過ぎるのだろうその姿を認めるたびに、マンティコアの心はくすぶるように踊った。
きっと自分はドクターを待っていたのだろう、と錯覚するほどには。
まっすぐと目的地へと向かうドクターは、マンティコアを一瞥して通り過ぎるだけだった。
その一瞥にまず、浮かび上がるほどの承認欲求が満たされるのを感じた。
「あ、あの」
さらなる承認を求めて、マンティコアは振り向いて声を出した。
ふつうは、気付かれずに終わってしまう。
が、ドクターの足は止まった。
認識していた故に、それが発した小さな声を耳に拾い、振り向いた。
「んっ?」
紫色の髪が揺れる。
マンティコアは見とれるように、その色を目で追った。
「(私と同じだけど、もっと暗い色…。)」
「どうした?マンティコア」
ドクターは当然のようにマンティコアへ視線を向けた。
あまりにも当然、あまりにも確固として。
「(緑色の宝石…)」
それは己の桃とおよそ反対に位置する色なのだと、以前読んだ本の記述がマンティコアの脳裏を掠めた。
改めて見れば見るほど、その瞳は深く冴え、水草の豊かな清泉のようにも思えた。
「……きれい」
「綺麗?」
「あっ…」
脈絡のない言葉となってしまった、とマンティコアは気が付いた。
それでも、ドクターは呆れるでもなく、ただ首をかしげて当然のように会話を続ける。
その姿にまた、承認された気持ちがマンティコアを温めた。
「えっとね…」
高くからやってくる視線。真顔の問い。
しかしマンティコアは恐れなく微笑んだ。
――見た目は無表情で、少し怖いかもしれない。
それでも、その声は、優しい。
仕草は、感情を察しやすい。
作られたものだとしても、――作ったものだからこそ。
「ドクターが、きれいなの……」
「そうか」
ドクターはその言葉に照れるでもなく、マンティコアに近づいた。
「ありがとう。マンティコアも綺麗だよ」
「ふぇっ!?」
「以前も言った覚えがあるが…、その頭翼と尾はいつ見かけても美しく、マンティコアはとても愛らしくて綺麗だ」
当然のように返ってきた言葉が、マンティコアの顔を熱くした。
ドクターは相変わらず、顔色一つ変わらない。
が。
その、女性にしては大きく、男性的な手を持ち上げていた。
「話し掛けてくれてありがとう。元気が出た」
「あっ…え…」
ぽんっとマンティコアの肩を軽く叩く。
マンティコアが温もりを感じる前にその手は離れていった。
「んっ?」
「えっと…」
名残惜しげな声を出したマンティコアに、ドクターは首を傾げた。
しかしマンティコアも、まさかそのまま言うわけにもいかず、しばらく視線を泳がせたのちに「なんでもないの」と愛想笑った。
ドクターは思考を回したのち、その健気なマンティコアの頭を撫でまわしたのだった。
END.