□イグさんルート
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【鉄仮面】
「好きだなぁと」
彼女の呟きに、イグゼキュターは振り返った。
――執務室に、本日休日のドクターが一人。
今日、この部屋で行われる業務はない。
しかし翌朝納品予定書類の内容の穴をふと思い付いてしまった。
しまったからには、己の休日と、書類を修正しなかった場合の影響と。天秤は後者に傾いた。
そして、執務室へと向かうドクターを見かねてついてきた、本日同じく休日の執行者が一人。
「いかがなさいましたか、ドクター」
パチリと生理的な瞬きを一つ。
鉄仮面の如く、歪みの知らない端正な顔がアルゴスを視界に入れた。
「言っていなかったと思ってね。私は君が好きだよ、イグゼキュター」
モニターから目を離してはいない。
入力を止め、スクロールを多くしている手付きから何かのチェックをしているらしい。
その顔には、崩れることなく在る、もう一つの鉄仮面。
「唐突ですね。いえ、確かに私の容姿を好む方は少なからず存在しますが」
アルゴスは首を振る代わりに、人差し指の第二関節で机を軽く叩いた。
コツッと音が鳴り、「いいや」と声が被せられた。
「私は君の性格を好く」
「それはあまり言われませんね」
イグゼキュターは世界都市防犯ハンドブックを開いたまま、ドクターに改めて向き直った。
話を聞く姿勢。
興味を引いたらしかった。
「覚えているか?イグゼキュターを迎えたときの事を」
「具体的には、何を。と、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「突然背後を攻撃しただろう」
「――ええ、不明な気配を感じましたので」
正体を突き止めるには至りませんでしたが、と続けたイグゼキュターの声に抑揚はない。
チェックを終えたらしいアルゴスが、一息ついて視線を天井へと跳ね上げ――脳裏に思い起こす。
事前に受け取っていた書類をデスクに置き、
案内役兼付き添いの人事と共にやってきた来訪者を迎えるべく立ち上がる。
彼は、その髪色の反転色――特異な光輪を携えていた。
『初めまして、この度ロドスと協定を結ませていただいたラテラーノの者です。こちらが身分証明書になります。 ――失礼』
差し出された身分証明を手に取り、文字に目を滑らせる。
ついでに視線を増やして、その背面から姿を確認した瞬間。
弾かれる様に改造ウインチェスターM1887を手にして、視点に対し銃身を正確に薙ぎ払ったのだ。
当然そこには何もなく、捉えたのに空ぶって、突然の奇行という事実が生成されはしたが。
『どうか?』
『……いえ。』
ドクターは、慣れたシラを切る。
掛けられた声に彼は視線を呼び戻し、同時に得物を仕舞った。
視点を瞬時に察知するまでは手練れや才ある者の証拠であり見慣れもしているが。
その表情と呼吸に、瞳孔の大きさまでが水面のように凪いでいたのが印象的だった。
『では、書類はすでに届いているので、身分証はこのまま返却しよう。
さて…ロドスにおいては原則として本名ではなくコードネームで個を識別するのは知っているな?
そしてあなたはまだ未設定だ』
『何と呼べば良いか、ですか。』
察しが良かった。
『どうしても呼び名が必要であれば、イグゼキュターとでもお呼びください』
『ではコードネーム、イグゼキュター。ようこそロドスへ。歓迎しよう』
付き添いの人事に、イグゼキュターの突然の奇行について突き詰めないのかと差し挟まれたりはしたものの。
その反応は決して奇行ではない、寧ろ優秀の証明であると明かすわけにもいかず。
『顧慮しよう。
…行動について、どうかしたかと私が聞き、彼は否定した。現時点での問答はこれで充分だ。
心配してくれたのだろう。意見をありがとう。』
無為な行動ならば今後支障を来すほど再発した場合に一考。
有意な行動ならば現時点で聞き出せるものではないと判断し、保留。
などと誤魔化した。
『感謝します』
これを信用と判断したらしい彼は、律儀にも一礼した。
そうして、彼はロドスへとやってきた。
――ドクターは天井へと跳ね上げていた視線を、イグゼキュターに向けた。
そこでようやく無温の目が合う。
視線の正体がまだ掴めていないという話をしていたのだったな、とアルゴスは口を開いた。
「正体を突き止めることはしなくていい。」
イグゼキュターは意外にも、「ええ。」と物分かり良く頷いた。
「私も現状としてそのように判断しております」
その言葉にアルゴスも「ああ。」と返した。
「その不明の気配とやらは、現状無害であり、数多の認知の上放置されている」
「聞き及んでおります。
ドクターの覇気に気圧され幻想したものであるだとか、極秘の潜伏員や、亡霊などと…解釈や過程も分岐していますが」
知っているとも、とアルゴスは静かな表情のまま瞳を降ろして肩をすくめた。
そして再び開かれた瞳が、イグゼキュターの眼差しを無機的に受け止めた。
「例えばそれは在るとして、それが何かはどうでもいい。
話を戻そう。君の何を好ましく思っているかについて」
イグゼキュターは、ただじっと話を聞いている。
「好きだなぁと」
彼女の呟きに、イグゼキュターは振り返った。
――執務室に、本日休日のドクターが一人。
今日、この部屋で行われる業務はない。
しかし翌朝納品予定書類の内容の穴をふと思い付いてしまった。
しまったからには、己の休日と、書類を修正しなかった場合の影響と。天秤は後者に傾いた。
そして、執務室へと向かうドクターを見かねてついてきた、本日同じく休日の執行者が一人。
「いかがなさいましたか、ドクター」
パチリと生理的な瞬きを一つ。
鉄仮面の如く、歪みの知らない端正な顔がアルゴスを視界に入れた。
「言っていなかったと思ってね。私は君が好きだよ、イグゼキュター」
モニターから目を離してはいない。
入力を止め、スクロールを多くしている手付きから何かのチェックをしているらしい。
その顔には、崩れることなく在る、もう一つの鉄仮面。
「唐突ですね。いえ、確かに私の容姿を好む方は少なからず存在しますが」
アルゴスは首を振る代わりに、人差し指の第二関節で机を軽く叩いた。
コツッと音が鳴り、「いいや」と声が被せられた。
「私は君の性格を好く」
「それはあまり言われませんね」
イグゼキュターは世界都市防犯ハンドブックを開いたまま、ドクターに改めて向き直った。
話を聞く姿勢。
興味を引いたらしかった。
「覚えているか?イグゼキュターを迎えたときの事を」
「具体的には、何を。と、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「突然背後を攻撃しただろう」
「――ええ、不明な気配を感じましたので」
正体を突き止めるには至りませんでしたが、と続けたイグゼキュターの声に抑揚はない。
チェックを終えたらしいアルゴスが、一息ついて視線を天井へと跳ね上げ――脳裏に思い起こす。
事前に受け取っていた書類をデスクに置き、
案内役兼付き添いの人事と共にやってきた来訪者を迎えるべく立ち上がる。
彼は、その髪色の反転色――特異な光輪を携えていた。
『初めまして、この度ロドスと協定を結ませていただいたラテラーノの者です。こちらが身分証明書になります。 ――失礼』
差し出された身分証明を手に取り、文字に目を滑らせる。
ついでに視線を増やして、その背面から姿を確認した瞬間。
弾かれる様に改造ウインチェスターM1887を手にして、視点に対し銃身を正確に薙ぎ払ったのだ。
当然そこには何もなく、捉えたのに空ぶって、突然の奇行という事実が生成されはしたが。
『どうか?』
『……いえ。』
ドクターは、慣れたシラを切る。
掛けられた声に彼は視線を呼び戻し、同時に得物を仕舞った。
視点を瞬時に察知するまでは手練れや才ある者の証拠であり見慣れもしているが。
その表情と呼吸に、瞳孔の大きさまでが水面のように凪いでいたのが印象的だった。
『では、書類はすでに届いているので、身分証はこのまま返却しよう。
さて…ロドスにおいては原則として本名ではなくコードネームで個を識別するのは知っているな?
そしてあなたはまだ未設定だ』
『何と呼べば良いか、ですか。』
察しが良かった。
『どうしても呼び名が必要であれば、イグゼキュターとでもお呼びください』
『ではコードネーム、イグゼキュター。ようこそロドスへ。歓迎しよう』
付き添いの人事に、イグゼキュターの突然の奇行について突き詰めないのかと差し挟まれたりはしたものの。
その反応は決して奇行ではない、寧ろ優秀の証明であると明かすわけにもいかず。
『顧慮しよう。
…行動について、どうかしたかと私が聞き、彼は否定した。現時点での問答はこれで充分だ。
心配してくれたのだろう。意見をありがとう。』
無為な行動ならば今後支障を来すほど再発した場合に一考。
有意な行動ならば現時点で聞き出せるものではないと判断し、保留。
などと誤魔化した。
『感謝します』
これを信用と判断したらしい彼は、律儀にも一礼した。
そうして、彼はロドスへとやってきた。
――ドクターは天井へと跳ね上げていた視線を、イグゼキュターに向けた。
そこでようやく無温の目が合う。
視線の正体がまだ掴めていないという話をしていたのだったな、とアルゴスは口を開いた。
「正体を突き止めることはしなくていい。」
イグゼキュターは意外にも、「ええ。」と物分かり良く頷いた。
「私も現状としてそのように判断しております」
その言葉にアルゴスも「ああ。」と返した。
「その不明の気配とやらは、現状無害であり、数多の認知の上放置されている」
「聞き及んでおります。
ドクターの覇気に気圧され幻想したものであるだとか、極秘の潜伏員や、亡霊などと…解釈や過程も分岐していますが」
知っているとも、とアルゴスは静かな表情のまま瞳を降ろして肩をすくめた。
そして再び開かれた瞳が、イグゼキュターの眼差しを無機的に受け止めた。
「例えばそれは在るとして、それが何かはどうでもいい。
話を戻そう。君の何を好ましく思っているかについて」
イグゼキュターは、ただじっと話を聞いている。