□シルおじルート
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
甲板で彼の愛鳥、テンジンが翼を広げる。
「(荒野を生息地とする灰色の猛禽類といえばオオタカだが…、それ以外の特徴はカンムリクマタカだな……そのあたりの近縁種だろうか)」
などと小さな考察を浮かべながら、アルゴスは視線を『空飛ぶ豹』から大空へと流した。
天気は薄曇り。
雲の向こうで太陽が輝いているのが見え、陰気な気持ちはあまり沸かない。
暑くも寒くも無く、実に過ごしやすい気候だった。
傍らのシルバーアッシュは、空を見上げるアルゴスを見つめていた。
マスクで顔の下半分を覆い、固定された前髪は左眉を覆う。
左側にくくられた髪は左後ろよりの視線を遮断する。
人の感情は左側に出るということを知ってか、そのような出で立ちをしている。
固まった表情も相まって、全く無味乾燥としている。
時として温かみと優し気を巧く孕み込む声色と、
堂々としつつもどこか遠慮がちな仕草のおかげで、冷たい印象はあまり受けない。
――などと見つめていれば、シルバーアッシュの視線に気付いたらしいアルゴスが振り向いた。
シルバーアッシュは特に何を言うでもなく、向けられた双眸を眺めて言葉を待ってみた。
暗い髪色に、明るい色の瞳はよく映える。
鮮やかに澄んだ緑色を持つ瞳の奥で、拒絶するような反対色(紫閃光)が走ったような気がした。
カランド貿易の人材を高く評価しているアルゴスの立場上、明確な拒絶は不可能であるとシルバーアッシュは確信している。
ゆえに、それが愉悦に繋がりもする。
否定的な者を利益実力で黙らせ、屈服させることを痛快に思う人種が少ない筈はない。
重宝懇請大いに結構。奉仕欲と優越感を同時に満たせる。
「……何か言いたいことでもあるのか?」
「お前はいつも浮かない顔をしている」
「フ」
シルバーアッシュの返答に、アルゴスは失笑を隠し微笑を作った。
お前自身もその要因の一つだ、と内心毒を吐いて。
「我が盟友よ。お前と居るときは、そうでもないさ」
口から出るのは、口説き文句。
「……何を望んでそのような顔をしているのか、その陰りを取り除きたい…と、私はいつも考える」
返答も、口説き文句。
これはおよそゲームのような、ある意味での根比べでもある。
アルゴスはシルバーアッシュの双眸を改めて見上げた。
「光栄だ」
彼の言う陰りの理由こそ、他でもない彼を失望させうるものだとアルゴスは考え定めている。
よって踏み込まれることを良しとしない。
「私ならば、必ずやお前の要求を満たすことができる。……そうだろう?」
「ああ。我が盟友はいつだって私の期待以上だ。無論、これからもそうであると確信している」
言外に言葉を求め踏み込もうとしてくるシルバーアッシュをアルゴスは跳ね除けた。
その印象を誤魔化すため、そっけなく媚びる話題を探して、アルゴスは視線を緩慢に空へ戻した。
上空には、シルバーアッシュの髪色のような灰色が広がっている。。
縦横無尽に天翔けるテンジンも灰色で、このままその雲に溶けて一体化でもしてしまいそうな。
「――今日は銀煤竹色に見えるな」
その曇り空の中で話題を見つけたアルゴスは再びシルバーアッシュの瞳に目を向けた。
「昨日は錫色に見えたものだが」
「話が見えん」
「……比喩だよ、瞳の印象の話だ」
人の眼の色は変わらない、など野暮だろう。
そう考えて、シルバーアッシュも一息笑った。
昨日今日での違いを指摘することで、知ったように錯覚させる気かと。
そもそも二日間気分や調子が全く同じである方が珍しいというのに。
乗ってやろうではないか。と。
「ならば、ポーンもそうだ。昨日はカドミニウムグリーンのようであったが、今日はグラスグリーンのようだ」
「今日の私は随分とくすんでいるな」
「浮かない顔と言っただろう」
「悪いな」
気を使わせて、と言ちるアルゴスの肩を、シルバーアッシュの腕が抱いた。
「……私はお前の慰めになりたい」
「なっているさ」
アルゴスは囁くように即答した。
肩に回る腕に手を重ね、容認するのを忘れずに。
――甲板に男女が立つ。
端から見れば、仲睦まじく見えることだろう。
その実、互いに疑惑しつつ有益な人材を逃さんとしているだけなのだが。
彼が。
雄鷹のように、献身をその身の愛としているならいざ知らず。
しかし彼女は、そうではないと確信していた。
END.