68 過去の人
名前変換5
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遠方でカラスが鳴いた。
相変わらず透明度60%な私は、加藤ジュリーの両腕を正面から掴み見上げる。
「私も薄明候補としての好奇心はあってね。特に一世と二世の薄明への興味はひとしおなんだ」
初代薄明はヴァニタに、その次は私に似ているのか否か。
この私という存在は非常に稀有だが、はたして。
掴んだ両腕をゆらゆらと振ってみる。
Dは煩わしそうにしていたが、抗いはしなかった。
「知りたかったのは、それですか」
「ぶっちゃけそれだけですね」
――くだらない。と、Dは呆れた表情になってしまった。
肩透かしでも食らったようで、いったい何を聞かれると思って身構えていたのか。
「なんですか。時にくだらなくて意味のないことこそが人生を豊かにするんじゃないですか」
くだらない問答と雑談で煙に巻くよう今まで引き伸ばしていたようだが。
そのくだらない雑談こそが私の目的だぞ。
「ああまったく……そっくりですよ。その言動といい、関心の基準が変なところといい…二世の薄明である彼女に」
「女性だったんですね」
「ええ。ボンゴレ二世の愛人でありペット。ありとあらゆるカジノから出禁をくらった極運の女王」
「ペット」
お仲間やん。
「彼女は記憶喪失だった。そしてとても不思議で、便利だった。最初のうちは妙な妄言が目立っていましたがね」
「妙な?」
「なんでも、異世界の未来からやってきたとか」
なんと
「そもそも、ある日突然、ボンゴレ二世が拾ってきたんですよ。
この物乞いにまとわりつかれているとき、幸運が立て続けに起きたのだと」
「んんん転移系…おきのどく…」
「なんです?」
「いや別に」
まさかの暫定トリップ患者だった。
「彼女は幸せでしたか?」
「二世は見目も手腕も権力も申し分の無い男でした。
そんな男に囲われて嫌がる者も少ないというもの」
「つまり?」
「守られながらも連れ回されていましたが、笑っていましたよ」
ビッタリ離さず連れ回す系の薄明か。
「その幸運がら、目隠しさせたまま地雷原を歩かせるようなこともよくさせていましたが…未知を彼女に賭けて間違うことはついぞなかった」
「それで二世は薄命を何として愛していたんです?」
「何とは?」
「道具としてか、人としてか」
「ああ、両方ですね。
何もせず居ても彼女は幸運のアミュレットでありましたが…。
狡猾に立ち回り、望外に求める言葉を吐き散らし、数多の心を掴んでまわっていた」
「へえ」
「彼女に心酔する人間の数は人の指では足らず、二世もその一人であった」
「痴情の縺れは?」
「ありませんでしたね。
なぜなら彼女は…極運に恵まれるわりには、やけに不幸慣れした賢しらな振る舞いと行動をするのだから」
「くくッ…」
それならその人は恐らく現実では普通の人だったのだな。
体質や能力にそぐわない性質や視野はトリップ患者の症状だと思ってるから。
「あの物乞いとは思えない教養と、対人における計算高さは……おそらく拐かされ売られた先で逃げおおせたのでしょう良い身分の子女だったのでしょうね。何かしらのショックで記憶をなくしただけの…」
「そんな彼女の死にざまは?」
「まあ、裏の人間の割には痛みも少なく綺麗に死にましたよ。亡骸は残りませんでしたが」
「それはよかった」
「…死因は聞かないのですね」
「聞いて欲しいんですか?」
「どちらでも」
「あそ」
拷問の果てだとかではなく、痛みの少ない最期ならそれでいい。
何となく私の最後も似たようなことになりそうだと思ったから。
大きな力には責任が伴うと言うが、私の場合その責任は所有者様におっ被ってもらっている。
決定権も責任も委ねて、ただ道具として扱われることで、心地よい同情の眼差しを集めながらも手中の大きな力に酔いしれて過ごす。
きっと2代目薄明もそんな感じなのだろうと仮定する。
極まった運などは、何よりも大きな力だ。
さて願わくば既に亡きその人が、二世萌の人であったことを祈る。
笑っていたと言ったが…だからどうだと言うのか。
笑顔は最も便利な表情だ。
その事実から幸福を悟ることなどできやしない。私はね。