いつもの景色
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『-―イルミネーションどこ?』
銀さんに連れられたのは、かぶき町の中にあるコンビニだった。
コンビニの外には歓楽街が広がっていて、色んなお店の看板がピカピカと光っている。
「今お前の眼前に広がってるだろうが」
『いやこれイルミネーションじゃなくてネオン』
「ネオンもイルミネーションもイリュージョンもおんなじようなもんだろ」
どうやら彼は、このかぶき町の歓楽街(夜の街)のネオンのことを、イルミネーションと言ってるらしい。
キャバクラの看板やスナックの看板、ホテルの看板が電飾でギラギラと光っている。
『違う…イルミネーションってもっとこう…
キラキラドキドキワクワクで…!
うわぁ~って、目がキラキラになって心がトキメクのよ』
「この景色もキラキラしてんだろーが」
『これはギラギラなのよ…
欲望しか渦巻いてないのよ。
しかもいつも見てるし』
「贅沢言うんじゃありません。
いつも見てる景色にしか無いものもあんだよ。
ホレ肉まん」
差し出された肉まんをありがとうと受けとる。
寒空の下食べる肉まん、
お行儀悪いけど買い食いしちゃう肉まん、
悔しいけどおいしい。
「食ったら行くぞー」
食べ終わった銀さんに、ポイッとヘルメットを投げられ慌てて受け取った。
私がさっき渡したマフラーを巻いてくれている、めっちゃ嬉しい。
銀マークのスクーターの後ろにまたがって、どさくさに紛れて銀さんの背中にひっついてみる。
ーーあったかい。
イルミネーション…まぁいっか。
片想い中の相手の背中に、堂々とひっつけるこのポジションに感謝。
彼の体温を感じて、にやけてしまって、マフラーも嬉しくて。
イルミネーションは諦めた。
ーーーー
「着いたぞ」
てっきり帰宅するのかと思ったら、銀さんがバイクを停めた場所は、見たこともない場所だった。
少し小高い丘のような場所。
『?どこココ?』
「いーから来てみ」
銀さんから手招きされ、不思議におもいながら、彼のあとをついていく。
彼が立ち止まった場所のとなりに立つと、なんとそこにはキラキラの景色があった。
『わぁ……!』
それは少し高めの位置から見下ろす、かぶき町だった。
お店の看板、ホテルの看板、歓楽街の周りのビルの灯り。
先程見たギラギラとは違い、それは間違いなく、キラキラしていた。
「な?なかなかだろ」
『うん!すごい!』
同じ町なのに、いつも見てるのに、さっきも見たのに。
今はずいぶんと違って見えた。
少し場所を離れてみるだけで、少し遠くから見るだけで、いつもの景色が全然違って見えた。
「この街も、捨てたもんじゃねーな」
彼の横顔をソッと見上げる。
その景色を見ながら、自分の住む町を愛おしそうに眺めている。
ーーいつも見てる景色にしか無いもんがあんだよ。
先程の彼の台詞がストンと腑に落ちた。
これが、私の住んでる町。
こんなに綺麗だったなんて。
あそこに、たくさんの人の命が灯ってる。
働いてる人、飲み歩いてる人、私の友人たちだってあそこに暮らしている。
みんなで灯してる灯りがついてる。
みんなと、銀さんと。
一緒にいる、わたしの居場所。
だからこそこんなに輝いてる。
遠くから見て初めて気づいた。
これが、銀さんのいう「イルミネーション」なんだ。
『あの、銀さん。ありがと』
いつも見てる景色、
少し違う角度からーー遠くから見るいつもの景色。
私の好きな町、
私の好きな人が好きな町。
とてつもなく愛おしくて、この景色ごと抱き締めたくなった。
「おう」
『こんな特別なクリスマス、初めて』
本心からそう伝えた。
隣に居る人が、銀さんでよかった。
こんな素敵な景色を、銀さんの隣で見られてよかった。
どんなプレゼントよりも嬉しい。
すごく、すごく特別に感じた。
「そーかィ。そりゃよかった。
ま、俺からしちゃあ、クリスマスだろうが正月だろうが…お前といりゃ特別だよ」
『…!?』
銀さんの思いがけない言葉に息を飲む。
おもわず隣を見ると、彼の優しい眼差しが私に向けられていて、胸が高鳴った。
あれ?もしかしてイイカンジ…?
『ぎっ、銀さん…っ……くしゅんっ』
あ、クシャミ出ちゃった…
「さみぃか?」
『ぅ~、ちょっとね』
せっかく、イイカンジだったのに。
いまなら言えそうだったのに。
フワッ
そう思い鼻をすする私に、ぬくもりが突如降ってきた。
『あの。これは何事?』
「ん?オメーが寒いっつったから」
『言ったけど…』
気付けば銀さんがマフラーを私に巻いてくれていた。
…のはいいけど、問題は銀さんもマフラーを巻いたまま。
つまり、かなり至近距離。
「あったけぇな」
『……うん』
「マフラーも、お前もな」
『…っ』
銀さんとの距離に、あったかいどころか私は全身熱いくらいだった。
なんでこんなことしてくるのか、全然わかんない。
だって当の銀さんは平気そうな顔をしている。
だから私だけ真っ赤になってるなんて知られたくない。
悔しくて、夜の暗さに感謝した。
『銀さん』
「ん?」
『……メリクリ』
「おう。めりくり」
しばらくふたりで暖を取って、結局告白なんてする余裕はないまま、帰路に着いた。
fin.
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