いつか、この手の中に
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とんでもない地雷踏んで来やがった。
俺は視線を逸らして団子を無理やり口に押し込んだ。
甘いはずの味が、今日はやけに苦く感じる。
……この、鈍感女。
「バーカ。オメーが唐突すぎるからだろ。お前に言われるまでもなく俺は結野アナ一筋だからね。推し変とかしないからねっ!勘違いしないでよね!」
『なんでツンデレ娘調?』
彩はまたおかしそうに笑った。
ひどく、花が似合う。
むしろ、花が咲くように笑う。
その美しさに心臓を鷲掴みにされる。
何度も、何度も。
『そう、なかなか理想高いわね~。手の届かない恋をしたいタイプなのね』
その言葉はこれでもかってくらい的を得ていて笑えねェ。
花が咲き誇るように綺麗に笑う女。
儚げで、掴み所がなくて、でも凛としていて。
すれ違う男は自然と振り向いてしまうような、まさに、高嶺の花。
……なのにコイツは、自分がその言葉の主だってことに、露ほども気付いてねェ。
手の届かない場所から俺の全部を掴んで離さないのは
お前だってのに。
平気な顔で笑ってるその無自覚さが、悔しくて、いつも素直になれない。
「うるせーな、男は理想を追い求めてなんぼなんだよ。ロマンチストだからね銀さんは」
『初耳!似合わない!』
またも彩はおかしそうに笑った。
厄介なことに、こいつには自意識過剰って言葉が欠けてる。
つまり、自分が高嶺の花だってことに、全く気付いていない。
いい加減呆れてきた。
このままじゃ俺の想い、永遠に届かねェ。
だから、賭けに出てみることにした。
「そういうお前はどうなんだよ」
『私?』
「…どんなやつが、…好きなんだよ」
『……あーーー…』
最後の方は声が震えるのを必死に隠した。
今度はドクンドクンと連続して心臓が鳴る。
『背が高くて、スタイルよくて、イケメンで、優しくてぇー』
「……」
『というのはただの理想。というより冗談でーー』
実際は…、と続けると、彩は一旦言葉を切った。
そのあとの彩はというと、まさにこの女が高嶺の花だということをむざむざと見せつけられる仕草を繰り出した。
彩はベンチの上で体育座りをしてその膝に顔を埋める。
次の言葉を、焦らすかのようにゆっくりと。
俺はもう目が離せない。
そして埋めた顔をずらし、膝に置いた手に頬をそっと乗せたまま、こちらを向いた。
手の甲に柔らかい頬を預けて……少し照れたような顔を俺に向けたのだ。
『好きになった人がタイプ…かな』
「……っ!」
目尻と眉は下がり、頬をほんのりとピンクに染めて。
とんでもなく、優しく、柔らかく、微笑んだのだった。
たった、それだけと言われれば、それまで。
でも、心臓が止まるかとおもった。
気付けば手を伸ばしていた。
『なーんて。恥ずかしいね』
すぐに前を向いた彩は俺が手を伸ばしたことに気付かず、俺の手が届くギリギリでタイミングよく立ち上がった。
俺の手は虚しく空を切る。
帰ろう、そういって俺を振り向く彩。
まだ桜は咲いていないというのに俺の目に写る景色には桜の花びらが舞っていた。
日差しを浴びてこちらを振り向いている彩の背後には、ヒラヒラと桜の花びらが舞っているのだ。
俺を見て柔らかく微笑む彼女の姿は、まるで一枚の水彩画のように優しくにじんで、色鮮やかに俺の視界一面を彩った。
目をこすって、立ち上がる。
「……なんだよ今の」
ぼそりと呟いて彩のもとへ踏み出した。
いつかこの手が届く日が来るのだろうか。
こんなに近くにいるのにいつも俺の手をすり抜けていく。
近そうで遠い、お前を、この手で手繰り寄せて抱き締めてしまえる日が、来るのだろうか。
『銀さん』
「ん?」
『なんでもない』
ーーいつか必ず。その笑顔を俺だけのものに。
この手の中に。
fin.
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