六匹目・第一章
「##NAME3##!」
地獄堂の戸を開け、ただいまと言うか言わないかの内に、椎名が飛びかかってきた。常よりも感情豊かに思えるその顔に、何か良い事でもあったのかと考える。
「おやじに貰ったんだ!」と興奮しながら見せびらかしてきたのは、金色の懐中時計のような指南盤だった。
「へぇ、これは……」
一目で上物だと分かるそれ。時計好きの椎名からすれば天にも登る心地だろう。
私が到着した時には大体の話は終わっていたようで、私に興奮しながら喋っている椎名を四人(?)は生暖かく見詰めていたが、唐突におやじが口を開いた。
「##NAME1##、お前は絶対に行くなよ」
真名を呼ばれ、まるで身体を見えない鎖で雁字搦めにされたように固まり、苦しそうな表情で絞り出した声は震えていた。
##NAME3##、と心配そうに見てくる椎名も視界には入らない。
「……何でさ、じいちゃん」
おやじの目は真剣そのものだった。暫く見つめ合い、張り詰めた沈黙の後、折れたのは##NAME1##の方だった。詰めていた息を吐いて、諦めたように座り込む。
「……分かった。“私”が行ってはいけない「何か」が居るのか、それとも有るのか、今は聞かないでおく。
でも、この結末にだけは私は関わらなきゃいけない。そんな気がするんだ」
夢と記憶の交雑したあの日の夢と、先程の夢を思い出す。
如月女医が側に居たから、というだけではない気がする。
あの青い目。座敷牢。
何か、共通する物があるのか。
「お前も──────だからな」
おやじが呟いた言葉は、何故か聞き取れなかった。
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