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五匹目・第二章




雨音が響いている。



《どうして行ってしまうの!?待って、待って、待ってぇぇえ────!!》



可哀想に。



人形に戻り、声に出さず、ただ感想を述べる。
この雨でも消えない、常人には見えない炎の結界に阻まれ、ぐるぐると同じところを廻る、同じく常人には見えない小夜子の生首。
死して尚───消えない強すぎる想い。
その姿は、あまりにも哀れで───悲しかった。
恋に狂って、その強すぎる想いが故に生霊となり、死して尚、追い求めようとするその姿。
同情したいのは山々だが、“仕事”である以上、同情するわけにはいかない。



今、“私”のやるべき事は───



『───“縛”』



青白く光る炎が呪符を燃やす。
宿る“器”を壊された力は、燃やす炎と混ざり合い、炎の縄となって小夜子に絡み付いた。
まるで、蛇のように。



《あああ熱いぃい!!》



ビリビリと大気を揺るがす“声”。
それに心の中で謝りつつ、耳を塞ぎ、無心で呪を唱える。



『───焔よ、路を導け。星天の卜(ボク)よ、路を標せ。黄道の光よ、路を照せ───急々如律令』



《ああああああ!嫌、嫌、嫌あああ!まだ、まだあの人と話せてないの!ねぇ、お願い、お願いだから───!》



手があったらこちらへ伸ばしていただろう。
今にもこちらへ向かってきそうな小夜子を、蒼と黒の混ざり合う焔が焦がしていく。



わたし、まだしにたくないよ。



思わず、その姿が過去の自分と重なった。
焔の勢いを強めれば、悲しそうに小夜子は消えていく。
想いも、何もかもを燃やす焔。



『本当に、好きだったんだな』



彼の事。
小夜子から、最期の想いが伝わってくる。



《……伝えたかった、な》



『大丈夫だ。この想いは、ちゃんと届けるさ』



もう、片目の辺りしか残っていない小夜子の首から、涙が零れ落ちた。



《…………お願い》



消える間際、一際大きくなった炎の中に小夜子の姿が幻像のように浮かび上がる。
綺麗だ、と素直に思った。



『───次は、もっと良い人を見つけられるといいね』



ふわり、と魂が浮かび上がって炎の中に消える。
一方通行、審判行きの片道切符だ。
転生するか、地獄行きかは公正にちゃんと裁かれるだろう。
───後の始末書やらは、考えない方針で。



『さて、と』



あくどい笑みを浮かべて、手を開く。
掌程の小さな玉は、小夜子の想いの塊だ。
見た目よりずっと重いそれを持ち上げて、狙いを定める。



『……元祟り神を甘く見るなよ』



狙うは、小夜子を振った男だ。
改心していれば良し、改心していなければ───お察しください、な事になる。
まぁ、しばらく幻覚に悩まされるくらいだ、大した事はないだろう(多分)。
思い切りぶん投げれば、後は勝手に着いてくれる呪いと愛のデリバリー★



……って、私は何を言っているんだ、何を。



雨の降る空を見上げて、溜め息を吐く。
すっかりずぶ濡れになってしまった。
傘の存在?学校だ。


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