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五匹目・第二章




───定めの歯車は、もう既に動いている。
そして私は、それを止める術を知らず、また狂気に陥った者を救う術を知らない。
嗚呼、嗚呼。何て、何て───



『私は愚かなのだろうか』



眼下には、カップル───恐らくは三田村巡査とその彼女だろう───を追うろくろ首のような生霊と、さらにそれを追うてっちゃんと牧原神官。


確かに、私は人を助けないが。と、酷薄に、天を駆けつつ狐が嗤う。
闇色の毛並に、銀と蒼の眼、十の尾。
異形の容姿で、彼女は駆ける、駆ける。
私は“願いを叶える事”を選んだのだから、と彼女は一人ごちる。
願われれば叶える。
対価は、それに応じて世界が決める。
それが、彼女には見えるだけ。
対価が払えなければ、願いは叶えられない。
それは即ち、願いとは、何かを犠牲にしなくてはいけないから。


ただ眺めているだけだった私が、眺めているだけではなく、「氷咲##NAME1##」という一個人として動く事を望まれたなら、それに応えるのが私に出来る事で。
そして、今するべき事は、小夜子の終焉を見届ける。それだけだった。
恋に狂った、哀れな女の終わりを。
てっちゃんにその光景を見せたい訳じゃない。
だけどこの結末だけは変えられないから。
言い訳がましくても、私は、これしか出来ないのだ。



『───蒼天よ。涙を流し、哀れな生命を慰めてくれ。
報われぬ魂を鎮めてくれ』



唄うように、天へ向かって唱える。嘗て父の得意としていた、鎮魂の雨だ。
側溝に落ちた小夜子の首は、何時か地に還るだろう。
されど、あの狂気に囚われた魂だけは───どうにもならない。



『なら、願われたのだから、やるしかあるまいて』



飛頭蛮のような形を取った小夜子の魂を追って、真弥は駆けて行く。
蒼い焔で、小夜子が行こうとする道の先に結界を張って。


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