五匹目・第二章




「##NAME4##ちゃん、どうしたの?」



窓の外をじっ、と見る##NAME1##に、奈美は呼びかける。
鋭く、険しい視線はそのままに、##NAME1##は呼びかけに対し、問いを返す。



『……何だ、奈美』



「……##NAME1##ちゃん、今凄く怖い顔してるよ」



奈美は学校わらしという妖怪としてのその特性上、人の感情には酷く敏感だ。
特に、今の##NAME1##のような物は。



「私で良ければ───っていう感じでもないみたいだね。
椎名君絡みなの?」



『椎名絡み、という訳ではないのだけれど……まぁ、関連はあるか』



「心配?」



『ああ、勿論さ。
生霊は厄介だからな。もしうっかりあいつらに危害が及べば───私は私でいられる自信が無い』



ご、と黒い炎のような物が一瞬立ち上ったような錯覚を覚える。
それだけ彼女が珍しく感情を顕にしているということだろう。
先程のは虚勢か、と奈美は心中で呟く。



「心配なら今から行ったら?」



『……私は、この事象には関われない』



きゅ、と耐えるように手摺を握る。
行きたいのは##NAME1##とて同じなのだ。
本音を言えば、守りたい。側に居たい。
だけど此度はそこまで関わってしまうと、少し不味い。
この前の病院の件も相当ぎりぎりだったのだ。
如何に定められたこの世界の事象に関わらず、彼らを守れるか。
そうしなければ───


##NAME1##のそんな思考を、奈美の発言が遮った。
というよりも、白紙に戻した。



「行っちゃえばいいじゃん」



『……は?』



給食時の台詞に対して変わり過ぎではないか、と##NAME1##は言おうとしたが、奈美は笑って言う。



「私達はね。##NAME4##ちゃんが大好きだよ。大好きだから、消えてほしくない。
だけどそれ以上に、##NAME4##ちゃんが幸せになる道を、やっぱり私達は選んでほしいんだ。
運命とか、私達はそこまでの存在じゃないし、分からないからこんな事を言えるんだと思う。
私達は、##NAME4##ちゃんなら大丈夫だって信じてるよ。
そうでしょう?私達のカミサマは、“そういう人間”だもの。
妖怪人間問わず、請われれば躊躇無しに、何でもやっちゃうようなお人好しの底抜けの馬鹿で───どこぞの補佐官殿の言葉を借りる訳じゃないけど、貴女は純粋で、エゴイストだから、私達は救われた。
だからね、今度は私達から貴女に願う番。
───“##NAME4##ちゃんの思うがままに”」



少し目を見開いて、##NAME1##は皮肉げに笑う。



『そう願われれば───私はそれを叶えなくてはいけないだろう』



呆れたような、優しい笑顔。
きぃ、と寄り掛かられた手摺が僅かに軋む。



「今なら側に人も居ないし、行けると思うよ」



少し躊躇うような表情をして、ようやっと覚悟を決めたのだろう。
懐から人形に折られた懐紙を取り出して、息を吹きかける。
揺らぐ影は、##NAME1##と瓜二つの少女の形を取った式になった。



『───行ってきます』



《行ってらっしゃいませ》



「行ってらっしゃい」



式と奈美に見送られつつ、##NAME1##は窓から飛び降りた。


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