五匹目・第二章




三人悪が仮眠を取っている最中、唐突に女性の声がした。



『ごめんください』



ちりん、と尾を引くような鈴の音に誘われるように、牧原は外へ出た。



「えーと……##NAME3##、ちゃん?」



雨も降らないのに、紅い番傘を携えてにっこりと微笑む、希薄な少女。



『##NAME3##、で結構です。牧原神官』



喪服と見間違う程に真っ黒な服に身を包み、モノトーンに近い佇まいは、牧原とは違う意味で世離れしているように見えた。



「あ、えっと───あいつらに用事かな?」



『いいえ、特には。ただ───』



少し言い淀んだかと思うと、頭を緩やかに振り、はにかんで彼女は言った。



『いえ、何でもありません。
「絵に気を付けて」と彼らに伝えてやってください』



一礼をして踵を返す。
少しお茶でも、と言おうとした次の瞬間には、尾を引く鈴の音を残してその姿は見えなくなっていた。



「…………あれ、夢でも見てたのか?」


ぼんやりする頭を抱えて、白昼夢のような今の光景を思い出そうとするが、妙に細部はぼやけて見えた。
妙にはっきりと残る、「絵に気を付けて」という言葉に頭を悩ませつつ。


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